- Date: Sat 05 09 2009
- Category: 海外作家 レヘイン(デニス)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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デニス・ルヘイン『コーパスへの道』(ハヤカワ文庫)
デニス・ルヘイン『コーパスへの道』を読む。
本書はハヤカワ文庫でスタートした「現代短篇の名手たち」という叢書からの一冊。
最近はこういう短編の企画ものもすっかりお馴染みになっているが、どちらかというとこれまではクラシック系の本格、あるいは幻想小説や奇妙な味のタイプといったところが中心であった。
一方、「現代短篇の名手たち」はタイトルどおり現代作家が中心で、収録予定の作家は本書ルヘインをはじめ、ウェストレイク、ランズデール、リューイン、ブロック、ホック、リップマン、ラヴゼイ等々。ハードボイルドからユーモア、本格、犯罪小説まで含まれるそうで、かなり幅広い。基本的には安定株の作家ばかりなのでハズレはないだろうけど、ちょっと新鮮味には乏しい印象。
そんな中で、オッと思わせたのが、ルヘインの『コーパスへの道』である。これまで長篇のイメージしかなかったルヘインの、唯一の短編集だ。そして、これがまた実に読み応えのある出来映えなのである。

Running Out of Dog「犬を撃つ」
ICU「ICU」
Gone Down to Corpus「コーパスへの道」
Mushrooms「マッシュルーム」
Until Gwen「グウェンに会うまで」
Coronado : A Play in Two Acts「コロナド――二幕劇」
The Names of the Missing「失われしものの名」
以上、全七作収録(「失われしものの名」のみ日本版だけのボーナストラック)。基本的にはどれもミステリというより犯罪小説といった方が適切だろう。解説でも触れられているが、ジム・トンプスンを連想させるといえばわかりやすい。ベトナム帰りの兵士や町のチンピラなどが引き起こす、あるいは巻き込まれるエピソードを通じて、人の闇の部分を描いてゆく。
したがってミステリ的な興味を求める向きには、殺伐とした安っぽいクライムノベルに思えるかも知れない。だが、少し読んでみれば、これらが徹底的に計算されたうえでのプロットを備え、テーマを炙り出すのに必要不可欠なキャラクターで構成されていることがわかる。
例えば巻頭の「犬を撃つ」。野良犬の射殺を任されたベトナム帰りの男ブルーが、徐々に壊れていく様子を、ブルーの友人の視点で描いてゆく。普通はこの壊れていく過程が読みどころだが、友人のつかず離れずの関係性が実は絶妙で、しかも最終的な着地点はこちらの予想を微妙に外してくる。このギリギリのバランスを描けるのがルヘインならでは。
「グウェンに会うまで」は、本書のなかで最もミステリ的結構を備えた作品。犯罪者の父親に育てられたボビーもまたケチな犯罪者である。恋人と共に盗みに入った際に瀕死の重傷を負ったボビーは、出所後、父に迎えられる。だが父の目的はボビーが盗んだダイヤモンドの在処だった。ボビーと父の危うい関係、消えた恋人の存在感など、軽い文章に見せつつ密度は極めて高く、すべてが読みどころといってもいい。
「コロナド――二幕劇」は「グウェンに会うまで」をベースに戯曲化した作品。文章は当然ながらさらに削ぎ落とされているが、新たな二組のカップルとシンクロさせることで、より観念的に物語を膨らませてゆく。
とにかく圧倒的な筆力。ルヘインは短編も上手い、というだけでは全然言葉が足りない。
正直、ミステリというジャンルなどに縛られず、この人は好きなように書くべきであろう。ルヘインの本領はまだまだ発揮されていない。
本書はハヤカワ文庫でスタートした「現代短篇の名手たち」という叢書からの一冊。
最近はこういう短編の企画ものもすっかりお馴染みになっているが、どちらかというとこれまではクラシック系の本格、あるいは幻想小説や奇妙な味のタイプといったところが中心であった。
一方、「現代短篇の名手たち」はタイトルどおり現代作家が中心で、収録予定の作家は本書ルヘインをはじめ、ウェストレイク、ランズデール、リューイン、ブロック、ホック、リップマン、ラヴゼイ等々。ハードボイルドからユーモア、本格、犯罪小説まで含まれるそうで、かなり幅広い。基本的には安定株の作家ばかりなのでハズレはないだろうけど、ちょっと新鮮味には乏しい印象。
そんな中で、オッと思わせたのが、ルヘインの『コーパスへの道』である。これまで長篇のイメージしかなかったルヘインの、唯一の短編集だ。そして、これがまた実に読み応えのある出来映えなのである。

Running Out of Dog「犬を撃つ」
ICU「ICU」
Gone Down to Corpus「コーパスへの道」
Mushrooms「マッシュルーム」
Until Gwen「グウェンに会うまで」
Coronado : A Play in Two Acts「コロナド――二幕劇」
The Names of the Missing「失われしものの名」
以上、全七作収録(「失われしものの名」のみ日本版だけのボーナストラック)。基本的にはどれもミステリというより犯罪小説といった方が適切だろう。解説でも触れられているが、ジム・トンプスンを連想させるといえばわかりやすい。ベトナム帰りの兵士や町のチンピラなどが引き起こす、あるいは巻き込まれるエピソードを通じて、人の闇の部分を描いてゆく。
したがってミステリ的な興味を求める向きには、殺伐とした安っぽいクライムノベルに思えるかも知れない。だが、少し読んでみれば、これらが徹底的に計算されたうえでのプロットを備え、テーマを炙り出すのに必要不可欠なキャラクターで構成されていることがわかる。
例えば巻頭の「犬を撃つ」。野良犬の射殺を任されたベトナム帰りの男ブルーが、徐々に壊れていく様子を、ブルーの友人の視点で描いてゆく。普通はこの壊れていく過程が読みどころだが、友人のつかず離れずの関係性が実は絶妙で、しかも最終的な着地点はこちらの予想を微妙に外してくる。このギリギリのバランスを描けるのがルヘインならでは。
「グウェンに会うまで」は、本書のなかで最もミステリ的結構を備えた作品。犯罪者の父親に育てられたボビーもまたケチな犯罪者である。恋人と共に盗みに入った際に瀕死の重傷を負ったボビーは、出所後、父に迎えられる。だが父の目的はボビーが盗んだダイヤモンドの在処だった。ボビーと父の危うい関係、消えた恋人の存在感など、軽い文章に見せつつ密度は極めて高く、すべてが読みどころといってもいい。
「コロナド――二幕劇」は「グウェンに会うまで」をベースに戯曲化した作品。文章は当然ながらさらに削ぎ落とされているが、新たな二組のカップルとシンクロさせることで、より観念的に物語を膨らませてゆく。
とにかく圧倒的な筆力。ルヘインは短編も上手い、というだけでは全然言葉が足りない。
正直、ミステリというジャンルなどに縛られず、この人は好きなように書くべきであろう。ルヘインの本領はまだまだ発揮されていない。
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>そちらを買われましたか。
いえ、「現代短篇の名手たち」は基本的に全部買っています(といってもまだ三冊しか出てませんが)。こういうのは基本的にすべて買わずにはいられない質なので(爆)。
ランキンのは以前にポケミスで出ていたものの文庫化ですよね。私はそのときに読んだのですが、長篇に比べてけっこう軽めでトリッキーというのが意表を突かれました。十分面白いし、レベルもかなり高かった記憶があるので、途中で投げ出すのはちょっともったいないかも。ぜひあきらめずにお読み下され。