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芦川澄子『ありふれた死因』(東京創元社)

芦川澄子の『ありふれた死因』を読む。
著者の芦川澄子は、一般的な知名度こそほとんどないけれど、探偵小説にどっぷり浸かっているような人なら当然知っているべき名前である。元々は関西で有名な探偵小説同人<密室の会>に所属して創作なども手がけ、やがて週刊朝日と宝石が主催した探偵小説の懸賞で見事一位入選を果たしてデビューした作家なのだが、何より知られているのは、鮎川哲也の元夫人という点であろう(後に離婚、晩年には復縁しているらしい)。
ただし、その作風は鮎川哲也のようなガチガチの本格ではない。オチに捻りを利かせた作品もあるけれど、むしろ注目すべきはその描写にあり、結末に至るまでの過程や心理をこそ味わうべきであろう。
本書では、そんな芦川澄子のミステリに関する創作やエッセイをほぼすべて収録している。なかには他愛ない話も混じるものの、いくつかの作品はかなり上質であり読んでおいても損はない。
収録作は以下のとおり。
「愛と死を見つめて」
「マリ子の秘密」
ショートショート・ミステリ
「記憶」
「終着駅」
「安楽椅子」
「大安吉日」
「ボタンの花」
「海辺のゲーム」
「村一番の女房」
「鏡の中で」
「鼬」
「飛行機でお行きなさい」
「目は口ほどに」
「女に強くなる法」
「廃墟の死体」
「ありふれた死因」
「道づれ」
マイ・フェイヴァリットは「愛と死を見つめて」か「村一番の女房」をとりたい。上でも触れたが、芦川澄子の魅力は女性らしい細やかな描写である。主人公らの心理や行動を描きつつ、サスペンスを盛り上げる技術はなかなかハイレベル。加えてオチも鮮やかに決まった、という点で「愛と死を見つめて」はやはり筆頭であろう(帯にある当時の乱歩の推薦文は事実誤認があるので、先に読まない方が吉)。
「村一番の女房」は有名な前例を著者流にアレンジしたものか。最後まで何があったのかは明言せず、読者に想像させる形で終わっているが、寒村を舞台としたところがなかなか効果的。読み終わって初めて、題の意味がしみじみと伝わってくる。