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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


グラディス・ミッチェル『タナスグ湖の怪物』(論創海外ミステリ)

 グラディス・ミッチェルの『タナスグ湖の怪物』読了。こんな話。

 出版社の役員を務めるサー・ハンフリーの家で催されたホーム・パーティー。ミセス・ブラッドリーと孫娘のサリーも招待されたが、その席で盛り上がったのは、何とタナスグ湖に棲むという恐竜の話題。挙げ句にハンフリーが恐竜調査を行おうではないかと提案し、サリーも参加することになる。だが、調査中に持ち上がる人間関係のもつれといがみ合い。不穏な空気が流れるなか、サリーがメンバーの一人の死体を発見する……。

 タナスグ湖の怪物

 グラディス・ミッチェルといえば、一風変わった舞台設定とオフ・ビートな展開で読者を魅了する本格派の作家。本作では遂にネッシーならぬタナスグ湖の恐竜(タナシー?)を登場させるという、とびきり破天荒な状況を披露する。
 物語は、前半が調査の様子を描きつつ、人間関係を明らかにしていくという展開。恐竜のチラ見せというアクセントも交えながら、登場人物や人間関係を物語にのせて巧みに紹介していくテクニックはいつもながら見事。
 ところが中盤で事件が起きると、以後は徐々に失速。ミセス・ブラッドリーとその秘書ローラ、そしてサリーの三人による聞き込み&推理という展開でラストまで引っ張るのはいいけれど、特別な意外性や大きなヤマ場もなく、ジ・エンド。ミセス・ブラッドリーもいつものエキセントリックさは影を潜め、ローラやサリーに食われている印象。
 唯一ラストシーンだけは、ミステリ史上、最も意外と言っていい決着を見せるが、逆に言うと「結局このラストシーンだけ書きたかったんちゃうんか?」という感じ。

 結果として、今まで読んだ中では一番物足りなかったわけだが、1974年という比較的晩年に近い時期の作品だけに、作風が少し変わったのか。準レギュラーたちもけっこう年をとっているらしく、いろいろと気になることも多い。以前にも書いたのだが、グラディス・ミッチェルの作品はなんとか全作翻訳してほしいものだ。あ、できれば原作の順で。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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