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横溝正史『横溝正史探偵小説選II』(論創ミステリ叢書)
読了本は論創ミステリ叢書から『横溝正史探偵小説選II』。未発表作品「霧の夜の出来事」を含む『横溝正史探偵小説選I』も悪くはなかったが、本書でも単行本初収録となる作品をどかっと詰め込んだ大盤振る舞い。ジュヴナイル拾遺集ゆえの品質がちょいと気になるとはいえ、御大の未読作品がまだまだ読めるという事実に感謝。古本を探さなくとも古い作品は読めるのである、って負け惜しみですか。

■創作篇
※三津木俊助・御子柴進の事件簿
「孔雀扇の秘密」
「赤いチューリップ」
「魔人都市」
「鉄仮面王」
「怪盗X・Y・Z/おりの中の男」
「怪人魔人」
「爆発手紙」
「渦巻く濃霧」、
「曲馬団に咲く花」
「変幻幽霊盗賊」
「笑ふ紳士」
「鋼鉄仮面王」
「薊を持つ支那娘」
※誰が犯人か?
「匂う抽斗」
「目撃者」
■随筆篇
「「大迷宮」について」
「子供のための探偵小説」
「ミステリー好きの少年少女諸君へ」
収録作は以上だが、楽しいのはやはりシリーズ物の三津木俊助&御子柴進ものか。特に角川文庫版の『怪盗X・Y・Z』で収録されていなかった「おりの中の男」が読めるのは嬉しい。
「怪人魔人」以下のノン・シリーズものは、短めの長篇といってもいいぐらいのボリュームのものもあり、こちらも読み応えあり。なかでも名探偵対怪盗の図式をきちっと踏まえた「変幻幽霊盗賊」は楽しい。また、「笑ふ紳士」は古典の某有名作品にかなりインスパイアされたような作品で(当時にはよくある話だけれど)、すぐにあんな作品やこんな作品が頭に浮かぶが、これを書いては興味半減だろうからここでは秘密。でもミステリ的ギミックに満ちあふれた作品で、話自体は面白い。
ただ、これらを書いていた頃の正史は非常に多忙だったらしく、悪く言うと書き散らかしていたような部分も決して少なくはない。展開を急ぎすぎて説明不足だったり、あるいは唐突に終了したり、使い回しのネタがあったりという具合である。
残念といえば残念だが、本書を好んで読むような人間は、そういうところも含めて興味や考察の対象なのだろうから、まあいいんだろうけど。さすがに一般のミステリファンに勧めるようなものではないが、横溝ファンなら間違いなく買いの一冊。
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Comments
失礼しました。
「もしも熟慮の末に……切ったとしたら、その理由もわかる」と書くべきでしたね。
あの感想は、ただ単に、「大金塊」で終えたほうが、一冊の本としてはおさまりがよかっただろう、ということをいいたかっただけですので、事実誤認やそれにつながりかねないことがありましたらすみませんであります。
こういう不思慮な書き込みというやつ、わたしは注意していてもちょくちょくしでかすので、これからはさらに注意したいと思います。
いかんなあわたし……。
Posted at 22:36 on 11 16, 2009 by ポール・ブリッツ
ポール・ブリッツさん
>「角川書店が『おりの中の男』を切った理由もわかる」
えっと、そういう話は出ていないというか、角川が切ったという事実がなぜ出てくるのか、よくわかりません(笑)。ポール・ブリッツさんの愛ゆえというか、そういうことにしておきたい、という気持ちの表れでしょうか(笑)。
「おりの中の男」については、解説によると元は『中二コース』の連載ですが、そこで完結できず、読者の学年が上がるのにあわせ、『中三コース』にまで続いたようです。当然ながら連載完結が最優先でしょうから、出来については目をつぶるべきなんでしょうね。
まあ、怪人二十面相のように人気が出れば、いろいろな話が展開されたんでしょうけれど。
Posted at 21:56 on 11 14, 2009 by sugata
どきどきしながら図書館から急いで借りてきて三津木&探偵小僧シリーズだけとりあえず読んだのですが、
「角川書店が『おりの中の男』を切った理由もわかる」
ような気がしてきました。
本作においては、怪盗X・Y・ZがX・Y・Zとして活躍しないので、読んでいてはなはだカタルシスに欠けるのであります。これなら、「大金塊」でシメていたほうが、本としての完成度は上がっていたのではと思われてなりません。
また、作中ではなぜX・Y・Zがこのような怪盗になったのかの理由も書かれておりませんし、四部作の掉尾を飾るには力不足だったのではなかったかと。
面白くなかったかといわれれば間違いなく面白かったですが、かなりガッカリ、というのが偽りない感想でした。うーん残念……。
Posted at 19:27 on 11 13, 2009 by ポール・ブリッツ
黒田さん
ははぁ、まだまだ単行本未収録の作品があるのですね。少年物はもともと書誌的には厳しいジャンルだとは思いますが、溝正史といえども相当きつそうですね。
とはいえ、いずれは何らかの形で読めるよう、関係者の方々には期待したいところです。大変だとは思いますが、ぜひぜひ頑張って下さい。
Posted at 00:59 on 11 10, 2009 by sugata
先の書き込みでの発言「角川文庫『怪盗X・Y・Z』に第4話が収録されなかったのは、掲載誌が手に入らなかったのが理由のようです」は、こちらの記憶違いだったようで、失礼致しました。
角川文庫が見つからなかったので、同文庫の「解説」の文章を思い出して書きました……。
お詫びして、訂正させて頂きます。
雑誌連載時に「怪盗X・Y・Z」が休載していない事は、初出誌のテキストを集めた際に確認しています。
ですので、山村氏が「おりの中の男」の存在を知らなかったと言うのは不思議です(横溝家に「大金塊」までの雑誌切抜しか残っておらず、全3話で完結したと思ってしまった可能性が考えられます)。
単行本未収録のジュブナイル作品は、現在確認されているだけも4編あり、そのうち、完結していると思われる2作品は、論創社の第2巻が刊行されまでにテキストが揃わず、収録を見送る事になりました。
横溝正史の少年物も、まだまだ研究・調査の余地が多いにある分野ですね。
Posted at 19:45 on 11 09, 2009 by 黒田
黒田さん
角川文庫『怪盗X・Y・Z』の解説を読み返してみたのですが、「未入手等で掲載できなかった」という話は、溝ジュヴナイル全体のことで、『怪盗X・Y・Z』の第四話についてではないように思えます。
逆に解説では、第四話の存在にまったく触れられていません。むしろ収録三話が全体を通して長篇の体を為すような説明もされているので、この時点では、解説の山村氏が第四話の存在を知らなかった可能性もあるのではないでしょうか。
ただ、『中二コース』への連載当時は、第三話の最終回収録号から第四話の第一回収録号にかけて、特に連載を休んでいるわけではないようです(角川、論創社、両方の解説を読むかぎり)。第三話が終わっても普通は翌号も念のため確認するでしょうから、気づかなかったという可能性も低そうです。
ううむ、真相が気になりますね。
Posted at 14:09 on 11 08, 2009 by sugata
「怪盗X・Y・Z」第4話
角川文庫『怪盗X・Y・Z』に第4話が収録されなかったのは、掲載誌が手に入らなかったのが理由のようです(同書の「解説」を読むと、そのような事が読み取れます)。
中編「笑ふ紳士」は、フランスの古典探偵小説がベースですね。
本作の前後に収録された2作品でも似たようなトリックが使われているので、続けて読むと辛いかも知れません。
当時は各作品の発表先が違ったので、多忙だった為、あえて同じネタを使ったのでしょうが……。
Posted at 00:04 on 11 08, 2009 by 黒田
ポール・ブリッツさん
いやいや、お気になさらずに。私もこれまで、けっこう好き勝手にいいかげんなことを書いているはずです(笑)。こちらこそ失礼いたしました。
Posted at 00:34 on 11 17, 2009 by sugata