- Date: Sun 15 11 2009
- Category: 海外作家 ディーヴァー(ジェフリー)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
- Response: Comment 4 Trackback 0
ジェフリー・ディーヴァー『ソウル・コレクター』(文藝春秋)
先週は飲みの機会が多くて読書が進まず。そういうときに限って、重めの本を通勤のお供にしてしまうという罠。それでも週末を使って何とか読み切る。ものはディーヴァーの最新作『ソウル・コレクター』。こんな話。
捜査中の事故によって四肢の自由を奪われた科学捜査の天才、リンカーン・ライム。その彼のいとこ、アーサーが殺人の罪で逮捕された。絶対的な証拠の数々に、有罪は確定的かと思われたが、ライムはその揃いすぎる証拠に疑念を抱く。アメリア刑事らと共に独自の捜査を開始したライムたちは、何者かが証拠を捏造し、他人を殺人罪に陥れていたことを突き止めるが……。

超人的鑑識捜査とスピード感に満ちた展開、意表を突くどんでん返し。このあたりがライム・シリーズの魅力と言えるだろうが、もうひとつライムに敵対する絶対的悪役の存在も忘れてはならない。
『ボーン・コレクター』や『魔術師』『ウォッチメイカー』などは、その悪役の魅力という点でも成功した例だが、本書もまたその流れを継ぐかのように、非常に強力な犯人を設定している。その武器は、膨大な電子データを自在に操るという能力。およそ彼の前に秘密を持つことは不可能で、このITの時代にあっては、まさに神のごとき力である。
と聞けばなかなか面白そうな感じはするのだが、犯人の動機付けや言動を読んでいても、それほどの驚きはない。確かにITの知識などは相当なものなんだろうけど、そこには恐ろしいまでの情念とか狂気というものがない。ぶっちゃけこれまでの名犯人に比べると小物感が強いのである。殺伐としてりゃいいというものでもないが、その手口や言動もやや甘く、これではスリルもいまひとつだ。
ちなみに本作では、恒例のどんでん返しもやや弱目。まあ、どんでん返しのやりすぎはかえって白けるだけなので、これに関しては個人的にノープロブレム。
もうひとつ本作で気になるのは、アーサーの存在か。ライムとアーサーは単なるいとこ同士というだけでなく、過去に様々なトラブルがあり、つきあいを断っていたという因縁がある。この辺りをサイド・ストーリーとして本作に膨らみを持たせようとしているのはわかるのだが、いや~シリーズ八作目でいきなりそんなエピソードを出されてもという感じ。おまけにアメリアはアメリアでサイド・ストーリーを持たされ、それぞれが問題を抱えながらメイン・ストーリーと絡む。
もちろん、それらが巧く融合されていればOKである。しかし残念ながら本作においてはとってつけたような印象しか受けない。あくまでディーヴァー水準で文句をつけているので、そこらの翻訳物よりは全然ハイレベルだだが、シリーズ読者にはどうか? まあ若き日のライムについての描写があるのは楽しいのだけれど。
『ソウル・コレクター』という邦題は、わざわざディーヴァー自身が提案してくれたものらしい。読者としては、当然シリーズ第一作の『ボーン・コレクター』を連想するわけで、その期待に応えた作品かどうかは微妙なところであろう。
捜査中の事故によって四肢の自由を奪われた科学捜査の天才、リンカーン・ライム。その彼のいとこ、アーサーが殺人の罪で逮捕された。絶対的な証拠の数々に、有罪は確定的かと思われたが、ライムはその揃いすぎる証拠に疑念を抱く。アメリア刑事らと共に独自の捜査を開始したライムたちは、何者かが証拠を捏造し、他人を殺人罪に陥れていたことを突き止めるが……。

超人的鑑識捜査とスピード感に満ちた展開、意表を突くどんでん返し。このあたりがライム・シリーズの魅力と言えるだろうが、もうひとつライムに敵対する絶対的悪役の存在も忘れてはならない。
『ボーン・コレクター』や『魔術師』『ウォッチメイカー』などは、その悪役の魅力という点でも成功した例だが、本書もまたその流れを継ぐかのように、非常に強力な犯人を設定している。その武器は、膨大な電子データを自在に操るという能力。およそ彼の前に秘密を持つことは不可能で、このITの時代にあっては、まさに神のごとき力である。
と聞けばなかなか面白そうな感じはするのだが、犯人の動機付けや言動を読んでいても、それほどの驚きはない。確かにITの知識などは相当なものなんだろうけど、そこには恐ろしいまでの情念とか狂気というものがない。ぶっちゃけこれまでの名犯人に比べると小物感が強いのである。殺伐としてりゃいいというものでもないが、その手口や言動もやや甘く、これではスリルもいまひとつだ。
ちなみに本作では、恒例のどんでん返しもやや弱目。まあ、どんでん返しのやりすぎはかえって白けるだけなので、これに関しては個人的にノープロブレム。
もうひとつ本作で気になるのは、アーサーの存在か。ライムとアーサーは単なるいとこ同士というだけでなく、過去に様々なトラブルがあり、つきあいを断っていたという因縁がある。この辺りをサイド・ストーリーとして本作に膨らみを持たせようとしているのはわかるのだが、いや~シリーズ八作目でいきなりそんなエピソードを出されてもという感じ。おまけにアメリアはアメリアでサイド・ストーリーを持たされ、それぞれが問題を抱えながらメイン・ストーリーと絡む。
もちろん、それらが巧く融合されていればOKである。しかし残念ながら本作においてはとってつけたような印象しか受けない。あくまでディーヴァー水準で文句をつけているので、そこらの翻訳物よりは全然ハイレベルだだが、シリーズ読者にはどうか? まあ若き日のライムについての描写があるのは楽しいのだけれど。
『ソウル・コレクター』という邦題は、わざわざディーヴァー自身が提案してくれたものらしい。読者としては、当然シリーズ第一作の『ボーン・コレクター』を連想するわけで、その期待に応えた作品かどうかは微妙なところであろう。
- 関連記事
-
-
ジェフリー・ディーヴァー『追撃の森』(文春文庫) 2012/11/25
-
ジェフリー・ディーヴァー『ロードサイド・クロス』(文藝春秋) 2010/12/18
-
ジェフリー・ディーヴァー『ソウル・コレクター』(文藝春秋) 2009/11/15
-
ジェフリー・ディーヴァー『スリーピング・ドール』(文藝春秋) 2009/01/20
-
ジェフリー・ディーヴァー『ウォッチメイカー』(文藝春秋) 2007/12/08
-
そうですね。科学捜査だ何だというまえに、ライム・シリーズは四肢麻痺に陥った主人公の人生観にこそ最大のテーマがあるべきではないかと私も考えています。こういう主人公の設定をするなら、やはり著者にはそれなりの覚悟を持ってほしいと思いますし、そうあるべきでしょう。
けっこう以前から書いていることなのですが、単なるエンターテインメントでいくなら(抜群に面白いとはいえ)、このシリーズは打ち切るべきですし、続けるならよりライムの内面に迫っていってほしいと思いますね。