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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

『このミステリーがすごい!2010年版』(宝島社)

 ミステリのランキング本ラッシュもいよいよ大詰め。本日は書店で『このミステリーがすごい!2010年版』を購入する。他には『2010本格ミステリ・ベスト10』なんてのもあるけれども、ミステリのランキング本としては対象を絞りすぎているのが好みではなく(もちろん本格自体は好きだけれど)、未購入。
 ちなみにこの2冊、何と今年の表紙がどちらもオレンジ色。完全に色がかぶってしまっており、書店で並べて平積みされていると、パッと見は区別がつきにくい。両書籍の関係者はおそらく頭を抱えているだろうが、皆様も購入時は御注意あれ。

 このミステリーがすごい!2010年版

 さて、中身に一通り目を通してみたが、今年もまた微妙な作りに(笑)。
 いつもより全然分厚いうえにお値段は据え置きだから、気合いが入っていることだけは確かだろう。その意気や良しといいたいところだが、期待はやがて裏切られる。

 まず誰もが「は?」と思うのは、巻頭の堺雅人のインタビューだろう。本当に彼のインタビューを読みたい人は、『このミス』読者にいるのか? もちろん昨年の一位をとった『ゴールデンスランバー』の映画の主役だから、関係ないことはない。でもねぇ、そういうインタビューを読みたい人は『このミス』じゃなくて映画や芸能関係の本を買うんじゃないの? 読者はランキングとそれに関する情報を求めているのであって、どうにもピントがずれている企画としか思えない。
 似たような案件がもうひとつ。これはここ数年のことだが、小説も不要だろう。まあ載せたい気持ちはわからないでもない。ランキングにはそもそも自社本を潔く外していることだし、こういう形でないと自社系列の作家の宣伝ができないしね。また、その小説を載せることで『このミス』読者が増える可能性も否定できない。でもねぇ、そういう小説を読みたい人はやっぱり『このミス』じゃなくて小説誌や単行本を買うんじゃないの? 読者はランキングとそれに関する情報を……(以下同様)。
 どうしても載せたいというなら、せめて一位の作家に書き下ろしを依頼するとか、他に手はあるでしょう。本の主旨や構成をとんちんかん(死語)にしてまで載せるメリットはないと思うが。なんかベクトルが読者と違うところを向いている感じである。

 以上のような欠点を除けば、後はまあいつもの『このミス』。個人的には『ミレニアム』三部作をちゃんと分けて採点していることは評価しておきたい。って当たり前のことなのだが、それをなぜかやらないランキングもあるからなぁ。
 で、点数が三つに割れたせいか、V2を果たした『ミレニアム』の三連覇はならず、『犬の力』が堂々の一位であった。これは『このミス』っぽい。

 あとひとつ嬉しかったのは、『宮野村子探偵小説選』を挙げている回答者がいたこと。読めばこの人の凄さはすぐにわかると思うのだが、意外に点数が伸びてないのは、やはり単純に読んでいない連中が多すぎるのだろうな。「読書のプロ」なんだからもう少し頑張って幅広く読んでほしいとは思うのだが、座談会などを読んでいると相当にいい加減な発言もあるので、期待するほうがおかしいのかね。
 ともあれ類書が氾濫する今、関係者はもう一度ランキング本の在り方を考える頃なんじゃないだろうか。お祭りだからこそ真剣に。これ大事だよね。

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Comments
 
涼さん

余計なものがついているとはいえ、お値段は良心価格ですしね。私も何だかんだ言いながら買ってます。まあ、買わないで文句を言うのもさすがに気がひけるということもあるんですが(苦笑)。
 
おはようございます

うーん、sugataさんの評価を拝読して迷うところですが、「お祭り」だから やっぱり買うかな。

それより、BK1の「あとで買う」リストに入れている「コロンボ」が欲しい(買いたい)です。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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