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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


高城高『函館水上警察』(東京創元社)

 高城高の『函館水上警察』を読む。
 高城高は河野典生や大藪春彦と並んで日本ハードボイルドの黎明期を支えた作家である。だが本業の関係で早々に執筆活動を休止し、2006年の『X橋付近』刊行をきっかけに創作を再開したことはファンならご存じのとおり。そして本書はその記念すべき復活第一冊目となる。

 函館水上警察

 さて、復活に際して著者が選んだのは、明治時代の函館を舞台にした警察小説である。しかも普通の警察ではなく、函館港内を管轄とする水上警察だ。
 当時の函館は横浜にも負けないぐらいの国際都市。イギリスやロシア、ドイツ等の外国船が頻繁に来航し、活気と異国情緒に満ちあふれていた。だがそれだけに問題もまた多い。とりわけ諸外国の出入り口となる港は、文化の異なる外国人との揉め事はもちろん、日本人同士でも縄張りや利ザヤを巡る争いが頻発するなど、とにかくトラブルが絶えない。そんな港ならではの事件の捜査にあたるのが、五条文也警部率いる函館水上警察の面々である。

「密猟船アークテック号」
「水兵の純情」
「巴港兎会始末」
「スクーネル船上の決闘」
「坂の上の対話――又は「後北游日乗」補遺」

 収録作は以上。「密猟船アークテック号」から「スクーネル船上の決闘」までが函館水上警察シリーズとなる。ただこのシリーズは表面的には警察小説ではあるが、ミステリとしてのアプローチはそれほど強いものではない。どちらかといえば歴史小説の味わいなのである。興味の中心は事件の謎というより函館そのものにあるといってよく、事件を通して見えてくる当時の函館の社会や人々が一番の読みどころであろう。
 西洋文化の香りと港町特有の猥雑さ、この両者を併せ持つ、函館という町の独特のムード。さらにはその地で交わされるやくざ者や警官あるいは外国籍の船員たちなどのやりとりが実に鮮烈だ。しっかりした時代考証はもちろんだが、ハードボイルドで磨き上げた簡潔な文章がそれをより際だたせているといえる。
 なお、ミステリとしてのアプローチが強くないとは書いたけれど、連作という形式を利用して、構成にちょっとした趣向を凝らしているのはなかなか楽しい。

 「坂の上の対話」は若き日の森鴎外を主人公とした短編で、非シリーズもの。ただし、本作も完全な別物ではなく、函館水上警察と共通する世界観の上で書かれている(時代的にはこちらの方が先)。内容は、函館を席巻しようとするコレラの謎に鷗外が迫るというもので、実はミステリ的要素はこっちが上。本書中のベストであろう。

 これまで明治の警察ものというと、山田風太郎の明治ものが必ず頭に浮かんだが、これからは高城高もぜひ加えたい。ミステリファンよりはむしろ時代小説・歴史小説好きにこそ勧めたい一冊だ。

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Comments

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Sphereさん

水上警察のレプリカがあるんですか。函館には過去三、四回は行っているはずなのですが、そのときにこの本が出ていれば絶対に見にいってたのになぁ。ぜひともそのうち遊びに行きたいものです。

Posted at 23:44 on 12 13, 2009  by sugata

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ポール・ブリッツさん

ハードカバーです。
意外なほどハードボイルド味は抑えられていますが、要所ではあざといくらいの場面もあり、この辺の緩急がのつけ方がうまいですね。ぜひお楽しみ下さい。

Posted at 23:38 on 12 13, 2009  by sugata

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おお、お読みになりましたか。
風太郎のような派手さは全然ないですが、函館という街の特異性がリアルに描かれてますよね。
この水上警察の建物のレプリカ建築が、たしか海洋研究所として今でも使われていると聞いたので、今度見に行って来ようと思っております(^^;

Posted at 19:48 on 12 13, 2009  by Sphere

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おおっ面白そうです(^^)

図書館にかけあってみます。

ハードカバーですか?

Posted at 11:33 on 12 13, 2009  by ポール・ブリッツ

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めとろんさん

お、山田風太郎もお好きでしたか。高城高は山風の明治もののようなケレンには乏しいのですが、よりリアリティを追求しているという意味で、別の楽しさがあります。どうぞお楽しみ下さい。

Posted at 02:36 on 12 13, 2009  by sugata

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聞き捨てならず

こんばんは!めとろんです。

横溝正史の次に好きな作家が山田風太郎、なかんずく「明治もの」である私(一番のフェイバリットは『幻燈辻馬車』)には、聞き捨てならないお話です。

ぜひ、読んでみますです!
ありがとうございました!!

Posted at 00:44 on 12 13, 2009  by めとろん

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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