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エドワード・D・ホック『サム・ホーソーンの事件簿VI』(創元推理文庫)
シリーズ作品を発表順にすべて収めてきたこの日本版サム・ホーソーン全集も、この巻をもって終了。理由はミステリファンの皆様ならご存じのとおり、作者の逝去(そういえばこの17日で丸二年になる)。亡くなったことは残念だが、人気もあるうえにMWA巨匠賞まで受賞し、最後まで作家として執筆活動を続けられたわけだから、作家としてはずいぶん幸せな方であろう。しかも本国だけでなく遠く離れたこの小さな島国でも、今もこうして次々と短編集が上梓されているのだ。
もちろん、そんな恵まれた作家生活を全うできたのも本人の実力あればこそ。とりわけサム・ホーソーンもののように、不可能犯罪にこれだけ挑戦し続けたシリーズは類を見ないし、ミステリにおける貢献は計り知れないものがあるだろう。あらためてホックの偉大さを感じる次第である。

さて、このシリーズの見どころは言うまでもなく不可能犯罪にあるわけだが、「時の流れ」が物語のアクセントになっている。これだけ長いシリーズ、しかも一話完結のシリーズになると、だいたい作中の時間経過などあってないようなものが多いが、ホックは意外にこれを重視していた節がある。
もともとサムはしっかり作中で年輪を重ねていたし、町の発展や住人の去就などの描写も少なくはなかった。でもそこまでは普通のシリーズものでもよくある話。本シリーズでは、戦争の影が落ちてくる『V』あたりで、それらがいっそう顕著になってきた感がある。世界のあちらこちらで戦争が始まり、ついにはアメリカも参戦、そして町の若者も徴兵されるに至り、読者は時代の変化をいやがうえにも意識せざるを得ない。
既に老人となったサムが昔語りをするという恒例のスタイルもポイントである。初めは正直あまり意味のないスタイルだと思ったのだが(笑)、こうして六巻までくると、これが意外な効果を上げていることに気づかされた。
おそらくホックはこのシリーズの語り手のサムが、リアルに事件を解決するところまで書きたかったのではなかろうか。いや、そこまではいかないにしても、せめてこの昔語りと作中でのリアルな時間が一致するところまで。
本書の「自殺者が好む別荘の謎」などを読むと、その感をいっそう強くするのだがどうか。
あえて田舎町で繰り返し不可能犯罪が起こる不思議。それはあくまで事件を寓話的に語りたいからだろうと以前は考えていた。だが、むしろクロニクルとして見せることで、実はアメリカそのものの縮図として描きたかったのかなぁなんてことも思った次第である。
なんだか変な方向に感想が転んでいったが、もちろん本格ミステリとしても楽しめるのはいつもどおり。これだけ続くとさすがにどれも傑作というわけにはいかないが、「羊飼いの指輪の謎」はまず十分な出来。本書中の一押しである。
サムの活躍、そして家族との行く末も含め、これはファンなら読むしかないでしょ。
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Comments
読みました。やっぱり面白かったですこのシリーズ。
ホック先生としては1976年がシリーズ最終回というつもりではなかったのでしょうか? 最後にひとつ事件を解決して、サム先生は息を引き取るというような。
もしそうだとすると、ライフワークというには気の遠くなるような道程ですが……。
アメリカのテレビ会社で、このシリーズの連続ドラマ化をやらないかなあ。イギリスの「フロスト警部」みたいに、「冬しかやらない」みたいな感じで、一年ごとに2~3話くらいずつ放映して、リアルでサム先生が齢を取っていくのを見るというような。
難しいかなあ。
問題点として、もしそういうシリーズがスタートしたとすると、最終回のころは見ることができないおそれがあることはさておいて(笑)
Posted at 17:42 on 02 26, 2010 by ポール・ブリッツ
kanamoriさん
シリーズキャラクターごとの作品集は、皆待ち望んでいるところですよね。個人的にはまずレオポルド警部やニックあたりから完集してほしいところなのですが、出してくれるのなら、まあ何でもいいです。でも、できるなら、暗号解読専門家のジェフリー・ランドものをどうかひとつ(笑)。
Asunarowoodsさん
ブログとはまた違った魅力があって、Twitter、予想以上に楽しいですよ。出版社もいろいろ参加しているところですし、ついに鳩山さんも始めましたしね(笑)
ポール・ブリッツさん
以前もポール・タワーものを読みたいと仰ってましたよね。ちょっと調べてみたんですが、邦訳だと『ホックと13人の仲間たち』に1つあるだけなんですね。驚いたのは、本国でも短編集に入っているものが見あたらなかったことです(以上、『世界ミステリ作家事典』調べ)。いったい何作品あるのか、気になるところです。
Posted at 01:21 on 01 14, 2010 by sugata
うわああああ読みたいーっ!
でも今手元不如意なので来月東京へ行くときまでじっと我慢の子です。
個人的にお気に入りのロリポップ警官、ポール・タワーの事件簿があったらぜひ読んでみたいですけれど、はたしてホック先生何篇書いてくれたのか……。
Posted at 13:08 on 01 13, 2010 by ポール・ブリッツ
こんばんは。
「Twitter」のブログパーツ、クールで (かっこよくって) いいですネッ!!
定期更新の合間も 楽しめそうですし ・・・
わたしも考えてみようかな ・・・
それでは、また御邪魔いたします。
失礼致します。
Posted at 03:30 on 01 13, 2010 by Asunarowoods
サム・ホーソーン医師シリーズは、ポケミスの「ホックと13人の仲間たち」に収録されていた『有蓋橋の謎』を読んで以来ですから、もう30年になるんだと感慨深いものがあります。結局72編もの事件簿を堪能いたしました。
ノンシリーズ短編集が今月出るようですが、今後は残るシリーズキャラクターもので未訳のものをどんどん邦訳してもらいたいものです。
Posted at 02:07 on 01 13, 2010 by kanamori
ポール・ブリッツさん
>最後にひとつ事件を解決して、サム先生は息を引き取るというような。
海外の作家はたまにそういうのやりますね。考えられないこともないですが、個人的にはいやかも(苦笑)。
>アメリカのテレビ会社で、このシリーズの連続ドラマ化をやらないかなあ。
これは観てみたいですね。毎週やらなくてもいいから、コロンボみたいに一話80分ぐらいで、しっかり作ってくれることを希望。
Posted at 07:45 on 02 27, 2010 by sugata