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レックス・スタウト『アルファベット・ヒックス』(論創海外ミステリ)
本日の読了本はレックス・スタウトの『アルファベット・ヒックス』。お馴染みのネロ・ウルフものではなく、元弁護士のタクシー運転手アルファベット・ヒックスを主人公とするシリーズである(といっても登場作品は本書と短編一作の二作しかないらしい)。
ある化学製品メーカーの社長夫人ジュディス・ダンディ。あろうことか彼女は、夫からライバル企業に情報を売り渡したのではないかという疑いをかけられていた。そんな彼女がたまたま乗り合わせたタクシーの運転手が、あの高名なアルファベット・ヒックス。輝かしい経歴をもち、数々の事件で重要な役割を握ったといわれている弁護士ながら、一年目で資格を剥奪された曰く付きの男である。事件に興味をもったヒックスはさっそく夫の会社を訪ねてみるが……。

久しぶりにレックス・スタウトの小説を読んだが、まず感じたのは思っていた以上に現代的な作風だということだ。普段からスタウトに親しんでいる人からすると、何を今さらみたいな感じだろうが、そもそもスタウトの活躍時期は1930年代から70年代にかけてである。黄金期の作家とかぶっている時期も短いわけではないから、ある程度の古さは仕方ないと思って読み始めたわけである。
ところがいざ読んでみると、ストーリーの展開、キャラクターの造型等がなかなか見事で、非常に違和感なく読み進めることができる。メインに扱われるネタがネタだから、その点では古さは否めないけれど、そういった部分を除けばとても1941年の作品とは思えない。
主人公についても(ウルフに比べてはさすがに分が悪いが)、軽ハードボイルドぐらいの勢いで活躍するヒックス独自の魅力もある。
積んであるスタウトを少し消化しなければ、と反省するぐらいには楽しめる一冊であった。
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Comments
待ってましたのスタウトですね。大好きな作家なので取り上げてくださって嬉しいです。確かにヒックスはキャラ立ちという意味ではウルフに比べ、さらっと書かれていますね…
作中の登場人物は古いレディファーストを実践していますが、扱っている事件も犯人の動機も、国にも時代にもかかわらない普遍的な感じで、すっと入っていけます。「現代的」とおっしゃるのに膝を打ちました。
Posted at 22:23 on 01 24, 2010 by maki
Sphereさん
女性私立探偵の走りのドル・ポナーとか、同じくテカムス・フォックスという探偵のシリーズもありますよ。三年ほど前にどちらのシリーズもポケミスで出てます。
ポナーものは『手袋の中の手』、フォックスものは『苦いオードブル』(こちらにはポナーも出ています)というタイトルです。まあ私もずっと積ん読ですが(^_^;)
>それはそうと、今年に入ってからハイペースで読み進んでいらっしゃいますね。
いやいや十年前とかに比べたら全然です。いまは月に10冊を目安にしてるんですが、いやーこれすら厳しいです。
Posted at 20:36 on 01 24, 2010 by sugata
ネロ・ウルフ以外のスタウトなんて全く知りませんでした。
ウルフ物だと彼の存在感が強烈なので話がどうでもよくなっちゃうことが多いですが、ウルフなしのスタウトも読んでみたいです。
それはそうと、今年に入ってからハイペースで読み進んでいらっしゃいますね。見習わなきゃ(^^;
Posted at 19:30 on 01 24, 2010 by Sphere
makiさん
スタウトのファンでありましたか。私はこれまで数作しか読んだことがなかったのですが、普遍的なところが逆にあまり手に取らせなかったというか。ともかく今後はちょっと読み続けていこうかなと考えております(ああ、こうして宿題がまた増えてゆく……)。
Posted at 22:54 on 01 24, 2010 by sugata