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角田喜久雄『影丸極道帖(下)』(春陽文庫)

角田喜久雄の『影丸極道帖』下巻読了。
上巻では、ヒロイン小夜を中心として、その背後に迫る魔の手や希代の怪盗影丸の暗躍、それを追う同心たちの動きなどが描かれた。影丸がどうやって脱獄したかというホワイダニット、あるいは同心たちの警察小説的な見せ方などは、確かに読ませはする。
ただ、リアルタイムな動きが意外に少なく、やや不安を感じないでもなかったのだが、下巻に入るとそんな杞憂はどこへやら。名与力の白亭が事件に隠された謎を探るべく旅に出た辺りから、物語は一気に動き出す。
下巻の中盤以降は、とにかく次から次へと事件の秘密が解き明かされる。ラストのどんでん返しにいたってはまったく予想外で、久々に気持ちの良い背負い投げを喰らった感じである。
さらには、ひとつひとつの伏線を指摘する白亭の謎解きシーンも鮮やかだ。上巻で広げた大風呂敷を見事にまとめていくこの手際。伝奇小説だからと思って油断している読者へ、これが緻密に構築されたプロットであることをあらためて認識させてくれる。正に本格ミステリの味わいといっても過言ではない。
強いて難を挙げるなら、一人語りや手記など、やや説明的になりすぎる描写が多いことか。特に物語に慣れない上巻でこれが続くと少々だるい。だが、それさえ目をつぶれば、もうこれは極上の一冊。Amazonなどで調べるとどうやら現役本のようなので(といっても春陽文庫の在庫のお知らせは非常に怪しいのだが)、興味があるかたはぜひどうぞ。
あ、最後に、本書を紹介して下さったkanamoriさんに感謝!
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Comments
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伝奇ものというと国枝史郎みたいに未完なんじゃないの?と疑い、角田喜久雄というと『黄昏の悪魔』みたいなノリ(けっこう好きですが)ではないかと色眼鏡で見てしまうわけですが、これは面白そうですね。そのうち読んでみたいです。
Posted at 19:59 on 02 09, 2010 by Sphere
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お薦め本を楽しんでいただけたようで、なによりです。
やはり、たまに読む伝奇時代小説はいいですね。
小生が中学生の時に学校の図書室で借りて、初めて読んだ大人向け小説が野村胡堂の伝奇もの時代小説でした。秘宝の争奪戦、怪屋敷に住む謎の美女、吊り天井の罠、美剣士の宿命の対決と伝奇もののお約束がテンコ盛りの、いまでいうジェットコースター・サスペンスだったと記憶しています。
しかし、中学生が読むにはタイトルが淫靡な感じで、よく学校で借りる勇気があったなあと思います。
そもそも、学校の図書室にあっていいんですかねえ、『美男狩』なんてタイトルの本が(笑)。・・・いまでも不思議に思います。
Posted at 18:49 on 02 09, 2010 by kanamori
>kanamoriさん
伝奇小説ながらミステリとしても楽しめるとはまったく予想外。角田喜久雄の時代物は山ほど積んでいるのですが、やっぱり本の価値は読まないとわかりませんね。反省です。
>Sphereさん
伝奇時代小説といっても国枝史郎のものとはだいぶテイストが違い、時代物にウェイトが置かれている印象です。これに本格ミステリとしての趣向を加えているので、『黄昏の悪魔』のような通俗的なサスペンスとしてのノリは少ないですね、まあ、多少はありましたけど(笑)。
Posted at 00:38 on 02 10, 2010 by sugata