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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


藤雪夫、藤桂子『獅子座』(創元推理文庫)

 会社でミステリの話はなかなかできないのだが、幸か不幸か東宝特撮DVDの話は、けっこう食いつきがいい(苦笑)。本日も朝イチで「sugataさん『サンダ対ガイラ』出ましたよね。あれ海外版ですか、日本版ですか?」と、のっけからディープなことを聞きにくるやつがいる。昼休みならいざ知らず、朝イチはメールチェックやら何やらそれなりに忙しいというのに、お前は何を考えておるのだと思いつつ、「いや、そこのところなのだが……」と思わず話に乗ってしまう自分が情けない。



 本日の読了本は藤雪夫、藤桂子による『獅子座』。元々は藤雪夫の単独作で、あの鮎川哲也の『黒いトランク』と、講談社の「書下し長篇探偵小説全集」第十三巻の座をコンテストで争った作品でもある。ただコンテストでは惜しくも二位。その後本作は長きに渡って封印されていたわけだが、約三十年後、実の娘さんである藤桂子との合作という形で、講談社より出版されたという曰く付きの一冊だ。この辺の事情は解説に詳しいので、興味ある方はぜひそちらで。

 物語はこんな感じ。埼玉県で、あるサラ金会社の支店長が殺されるという事件が起こる。警視庁の菊地警部は地元警察署と協力して捜査を進めるが、今度は、事件を通して知り合った青年が死体となって発見される。一見、支店長殺人事件は青年の犯行であり、覚悟の自殺と思われた。だが菊地は青年の無実を晴らすべく、被害者の残した暗号解読に挑戦する。そしてその謎を解いたとき、思いもよらない過去の犯罪が浮かび上がる……。

 獅子座

 結論からいうと予想していたよりは全然いい。謎としては、前半の暗号解読、後半のアリバイ崩しが柱となってはいるのだが、正直それほど魅力あるものではなく、本格として見た場合にはいろいろと弱点も見られる。とりわけ前半は、暗号云々という以前に、物語にメリハリがなく、まったく興味が持続しない。適度にシリアス適度にユーモラスという具合で、バランスがいいといえば聞こえは良いが、淡々と事務的にお話を読まされている気がするのである。
 これは一杯食わされたかと思っていると、中盤、暗号の謎が解かれて過去の事件が浮かび上がると様相は一変。重要なキャラクターが登場する辺りから、ぐいぐいと力強さを増してくる。ミステリ的にはアリバイ崩しが縦軸となるのだが、この捜査の過程に人間模様が上手くマッチングし、物語にぐっと深みを与えている。そして事件の謎がすべて明らかになったとき、登場人物たちの抱える業もまた白日の下にさらされる。決して快い結末ではないが、このほろ苦い余韻は味わっておいて損はない。

 ただ、惜しいのはやはり前半。また、変にトリックなどに凝らず、もう少し現実味のあるものに落としてもかまわないから、ドラマ性を活かしてハードボイルド的に書かれていれば、これはかなりの作品になっていたのではないか。タイプこそ違えど、本作はコナリーのボッシュ・シリーズやクックの諸作品にも通じるものがあると感じた次第だ。ちょっと褒めすぎかな(笑)。

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Comments

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Ksbcさん

あああああ、気になりますね、そんなことを書かれては(笑)。今読みかけの翻訳物が一冊あるのですが、それを読み終えたら、なんとか『黒水仙』にいきます。いきましょう。

Posted at 03:24 on 03 02, 2010  by sugata

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こんばんわ。
「黒水仙」読了です。
「獅子座」は、書き直されたとはいえ、元がずいぶん昔であることから、古さというかそんなところがあるのはしょうがないかもしれません。
ただ、おっしゃるように後半の人間模様には読ませるものがありました。
「黒水仙」は、さらに複雑になっています。2番目の殺人のトリックなんかもそんなことまでするの?
そしてTwitterしましたが、私が知らないだけかもしれませんが、最後のキーとなる人物が書かれた当時としては、すごかったんじゃないかと思うのです。
前作同様、後半は人間ドラマになってます。

「獅子座」読むきっかけをいただいて感謝しております。
ありがとうございました。

Posted at 02:30 on 03 02, 2010  by Ksbc

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kanamoriさん

そうですね。肉親というわけではありませんが、現代と過去、二つの事件がリンクしていたり、意外な真相が……という部分は確かに大きいのですが、それに加えてもうひとつ。主人公が捜査を通じ、事件の悲劇性に同期してしまうというところでしょうか。この心の痛みが重要です。
上でも書きましたが、前半はトリックも含めていまいちですが、後半がいいです。これでもう少し硬質な文体で書かれていたら、よりナイスでした。
ただ、これも上で書いてますが、ちょっと褒めすぎの嫌いはあるので、少し割り引いて下さるとありがたいです(笑)。

Posted at 00:48 on 02 19, 2010  by sugata

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『獅子座』がコナリーやクックの諸作に通じるものがあるとは意外です。だいぶ以前に読んだので記憶はあいまいですが正統派本格の印象でした。
過去の肉親の死の真相を追うと意外な事実が・・・という構成がそう思われた要因でしょうか?
菊地警部もののもう一冊『黒水仙』も近々復刊されるみたいですので読んでみたくなりました。(そういえばこちらも鮎川と賞を競った作品ですね)

Posted at 20:23 on 02 18, 2010  by kanamori

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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