- Date: Wed 17 02 2010
- Category: 国内作家 藤雪夫、藤桂子
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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藤雪夫、藤桂子『獅子座』(創元推理文庫)
会社でミステリの話はなかなかできないのだが、幸か不幸か東宝特撮DVDの話は、けっこう食いつきがいい(苦笑)。本日も朝イチで「sugataさん『サンダ対ガイラ』出ましたよね。あれ海外版ですか、日本版ですか?」と、のっけからディープなことを聞きにくるやつがいる。昼休みならいざ知らず、朝イチはメールチェックやら何やらそれなりに忙しいというのに、お前は何を考えておるのだと思いつつ、「いや、そこのところなのだが……」と思わず話に乗ってしまう自分が情けない。
本日の読了本は藤雪夫、藤桂子による『獅子座』。元々は藤雪夫の単独作で、あの鮎川哲也の『黒いトランク』と、講談社の「書下し長篇探偵小説全集」第十三巻の座をコンテストで争った作品でもある。ただコンテストでは惜しくも二位。その後本作は長きに渡って封印されていたわけだが、約三十年後、実の娘さんである藤桂子との合作という形で、講談社より出版されたという曰く付きの一冊だ。この辺の事情は解説に詳しいので、興味ある方はぜひそちらで。
物語はこんな感じ。埼玉県で、あるサラ金会社の支店長が殺されるという事件が起こる。警視庁の菊地警部は地元警察署と協力して捜査を進めるが、今度は、事件を通して知り合った青年が死体となって発見される。一見、支店長殺人事件は青年の犯行であり、覚悟の自殺と思われた。だが菊地は青年の無実を晴らすべく、被害者の残した暗号解読に挑戦する。そしてその謎を解いたとき、思いもよらない過去の犯罪が浮かび上がる……。

結論からいうと予想していたよりは全然いい。謎としては、前半の暗号解読、後半のアリバイ崩しが柱となってはいるのだが、正直それほど魅力あるものではなく、本格として見た場合にはいろいろと弱点も見られる。とりわけ前半は、暗号云々という以前に、物語にメリハリがなく、まったく興味が持続しない。適度にシリアス適度にユーモラスという具合で、バランスがいいといえば聞こえは良いが、淡々と事務的にお話を読まされている気がするのである。
これは一杯食わされたかと思っていると、中盤、暗号の謎が解かれて過去の事件が浮かび上がると様相は一変。重要なキャラクターが登場する辺りから、ぐいぐいと力強さを増してくる。ミステリ的にはアリバイ崩しが縦軸となるのだが、この捜査の過程に人間模様が上手くマッチングし、物語にぐっと深みを与えている。そして事件の謎がすべて明らかになったとき、登場人物たちの抱える業もまた白日の下にさらされる。決して快い結末ではないが、このほろ苦い余韻は味わっておいて損はない。
ただ、惜しいのはやはり前半。また、変にトリックなどに凝らず、もう少し現実味のあるものに落としてもかまわないから、ドラマ性を活かしてハードボイルド的に書かれていれば、これはかなりの作品になっていたのではないか。タイプこそ違えど、本作はコナリーのボッシュ・シリーズやクックの諸作品にも通じるものがあると感じた次第だ。ちょっと褒めすぎかな(笑)。
本日の読了本は藤雪夫、藤桂子による『獅子座』。元々は藤雪夫の単独作で、あの鮎川哲也の『黒いトランク』と、講談社の「書下し長篇探偵小説全集」第十三巻の座をコンテストで争った作品でもある。ただコンテストでは惜しくも二位。その後本作は長きに渡って封印されていたわけだが、約三十年後、実の娘さんである藤桂子との合作という形で、講談社より出版されたという曰く付きの一冊だ。この辺の事情は解説に詳しいので、興味ある方はぜひそちらで。
物語はこんな感じ。埼玉県で、あるサラ金会社の支店長が殺されるという事件が起こる。警視庁の菊地警部は地元警察署と協力して捜査を進めるが、今度は、事件を通して知り合った青年が死体となって発見される。一見、支店長殺人事件は青年の犯行であり、覚悟の自殺と思われた。だが菊地は青年の無実を晴らすべく、被害者の残した暗号解読に挑戦する。そしてその謎を解いたとき、思いもよらない過去の犯罪が浮かび上がる……。

結論からいうと予想していたよりは全然いい。謎としては、前半の暗号解読、後半のアリバイ崩しが柱となってはいるのだが、正直それほど魅力あるものではなく、本格として見た場合にはいろいろと弱点も見られる。とりわけ前半は、暗号云々という以前に、物語にメリハリがなく、まったく興味が持続しない。適度にシリアス適度にユーモラスという具合で、バランスがいいといえば聞こえは良いが、淡々と事務的にお話を読まされている気がするのである。
これは一杯食わされたかと思っていると、中盤、暗号の謎が解かれて過去の事件が浮かび上がると様相は一変。重要なキャラクターが登場する辺りから、ぐいぐいと力強さを増してくる。ミステリ的にはアリバイ崩しが縦軸となるのだが、この捜査の過程に人間模様が上手くマッチングし、物語にぐっと深みを与えている。そして事件の謎がすべて明らかになったとき、登場人物たちの抱える業もまた白日の下にさらされる。決して快い結末ではないが、このほろ苦い余韻は味わっておいて損はない。
ただ、惜しいのはやはり前半。また、変にトリックなどに凝らず、もう少し現実味のあるものに落としてもかまわないから、ドラマ性を活かしてハードボイルド的に書かれていれば、これはかなりの作品になっていたのではないか。タイプこそ違えど、本作はコナリーのボッシュ・シリーズやクックの諸作品にも通じるものがあると感じた次第だ。ちょっと褒めすぎかな(笑)。
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あああああ、気になりますね、そんなことを書かれては(笑)。今読みかけの翻訳物が一冊あるのですが、それを読み終えたら、なんとか『黒水仙』にいきます。いきましょう。