- Date: Tue 23 02 2010
- Category: 海外作家 マクロイ(ヘレン)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
- Response: Comment 8 Trackback 0
ヘレン・マクロイ『殺す者と殺される者』(創元推理文庫)
『ミステリマガジン』4月号購入。特別増大号とかでかなりのボリューム。値段も1700円と、もはや雑誌の域を超えている気がするが、中身はかなり充実しているので許す。目玉は先般発見されたという幻の短編を軸にしたクリスティー大特集であり、即ち「犬のボール」&「ケルベロスの捕獲」の二編、さらには戯曲版『ホロー荘の殺人』一挙掲載、その他エッセイ等諸々。大充実。
加えてビッグなニュースも二つ。この未訳短編が記されていたというクリスティーの創作ノートが、この春に刊行されるらしい。しかもこの機に乗じて「アガサ・クリスティー展」が有楽町の国際フォーラムで開催されるという予告まで。暗いニュース続きのミステリ界だが、これは久々に派手な展開で楽しめそうだ。
ただ、そうはいってもクリスティー、最近読んでないなぁ。たぶん半分は読み残している。いつかはイッキ読みにチャレンジしたいものだがいつになるやら。
ヘレン・マクロイの『殺す者と殺される者』を読む。『幽霊の2/3』と同様、長らく絶版だったものが、ついに復刻されたという超曰くつきの作品。『幽霊の2/3』ではなぜこれが絶版?というぐらい秀逸な作品だったが、本作もそれに続くか、というのがやはり要注目である。
こんな話。大学で教鞭をとるハリー・ディーンは伯父の遺産を相続するという知らせを受ける。だがその直後、ハリーは道で足を滑らせ、頭を負傷して記憶の一部を失ってしまう。やがて怪我から回復したハリーは、その事故を機に職を退き、母の故郷で過ごすことを決意。それは若き日のハリーが暮らした町であり、彼がかつて愛したシーリアが住む町でもあった。だが、ハリーの新たな生活には不思議な出来事が頻発し、やがて痛ましい事件へと発展する……。

※以下、本文はネタバレになる可能性を含んでいます。できるだけ注意して書いてはおりますが、察しのいい人だとこれでも危険。
未読の方はくれぐれも御注意ください。
うむ、悪くないです。途中までは若干の不安もあったのだが、読み終えた今は十分に納得である。個人的には『幽霊の2/3』に軍配を挙げてしまうけれど、それは相手が悪いからで、本作も十分楽しめる一作。
ぶっちゃけ書いてしまうと、メインのネタは今となってはさすがに古いし、あざとい。少々ミステリを読み慣れている者なら、すぐに仕掛けが読めるはずだ。だいたいからして伏線が強すぎる。まるで気づいてくださいといわんばかりの書き方なのである。しかも後半に入った辺りで惜しげもなく、そのネタをばらす。
ここで気づく。あ、もしかしてこれは確信犯かなと。読者があっと驚いてくれたらそれでよし、ネタが割れたら割れたで読者はそのテクニカルな部分に注目できる。描写はすこぶる丁寧で、不安感を煽る心理描写&真相をカモフラージュするテクニックが見事に両立している。
その最たる例がラストへの持っていき方。最後の一行までたっぷりと主人公の心理を味わえるこの物語は、極めて上質のサスペンスといえるだろう。
なお、『幽霊の2/3』もそうだったが、この『殺す者と殺される者』という題名も実にいい。
加えてビッグなニュースも二つ。この未訳短編が記されていたというクリスティーの創作ノートが、この春に刊行されるらしい。しかもこの機に乗じて「アガサ・クリスティー展」が有楽町の国際フォーラムで開催されるという予告まで。暗いニュース続きのミステリ界だが、これは久々に派手な展開で楽しめそうだ。
ただ、そうはいってもクリスティー、最近読んでないなぁ。たぶん半分は読み残している。いつかはイッキ読みにチャレンジしたいものだがいつになるやら。
ヘレン・マクロイの『殺す者と殺される者』を読む。『幽霊の2/3』と同様、長らく絶版だったものが、ついに復刻されたという超曰くつきの作品。『幽霊の2/3』ではなぜこれが絶版?というぐらい秀逸な作品だったが、本作もそれに続くか、というのがやはり要注目である。
こんな話。大学で教鞭をとるハリー・ディーンは伯父の遺産を相続するという知らせを受ける。だがその直後、ハリーは道で足を滑らせ、頭を負傷して記憶の一部を失ってしまう。やがて怪我から回復したハリーは、その事故を機に職を退き、母の故郷で過ごすことを決意。それは若き日のハリーが暮らした町であり、彼がかつて愛したシーリアが住む町でもあった。だが、ハリーの新たな生活には不思議な出来事が頻発し、やがて痛ましい事件へと発展する……。

※以下、本文はネタバレになる可能性を含んでいます。できるだけ注意して書いてはおりますが、察しのいい人だとこれでも危険。
未読の方はくれぐれも御注意ください。
うむ、悪くないです。途中までは若干の不安もあったのだが、読み終えた今は十分に納得である。個人的には『幽霊の2/3』に軍配を挙げてしまうけれど、それは相手が悪いからで、本作も十分楽しめる一作。
ぶっちゃけ書いてしまうと、メインのネタは今となってはさすがに古いし、あざとい。少々ミステリを読み慣れている者なら、すぐに仕掛けが読めるはずだ。だいたいからして伏線が強すぎる。まるで気づいてくださいといわんばかりの書き方なのである。しかも後半に入った辺りで惜しげもなく、そのネタをばらす。
ここで気づく。あ、もしかしてこれは確信犯かなと。読者があっと驚いてくれたらそれでよし、ネタが割れたら割れたで読者はそのテクニカルな部分に注目できる。描写はすこぶる丁寧で、不安感を煽る心理描写&真相をカモフラージュするテクニックが見事に両立している。
その最たる例がラストへの持っていき方。最後の一行までたっぷりと主人公の心理を味わえるこの物語は、極めて上質のサスペンスといえるだろう。
なお、『幽霊の2/3』もそうだったが、この『殺す者と殺される者』という題名も実にいい。
- 関連記事
-
-
ヘレン・マクロイ『小鬼の市』(創元推理文庫) 2013/04/29
-
ヘレン・マクロイ『暗い鏡の中に』(創元推理文庫) 2011/07/07
-
ヘレン・マクロイ『殺す者と殺される者』(創元推理文庫) 2010/02/23
-
ヘレン・マクロイ『幽霊の2/3』(創元推理文庫) 2009/09/16
-
ヘレン・マクロイ『割れたひづめ』(国書刊行会) 2006/12/21
-
なるほど。私は「新本格」派をほとんど読んでいないためでしょうか、けっこう普通に楽しめました。
マクロイはロジックを全面的に押し出した本格とは毛色が違いますが、伏線の張り方やケレンに関しては、やはり見るべきところも多く、面白い作家だと思います。
ちなみに『そして死の鐘が鳴る』は私も所持していますが、長らく積ん読です。ネットではちらほら言及されていることも多いので、気にはなっていたんですが……。なかなか微妙な出来のようですね。