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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ヘレン・マクロイ『殺す者と殺される者』(創元推理文庫)

 『ミステリマガジン』4月号購入。特別増大号とかでかなりのボリューム。値段も1700円と、もはや雑誌の域を超えている気がするが、中身はかなり充実しているので許す。目玉は先般発見されたという幻の短編を軸にしたクリスティー大特集であり、即ち「犬のボール」&「ケルベロスの捕獲」の二編、さらには戯曲版『ホロー荘の殺人』一挙掲載、その他エッセイ等諸々。大充実。
 加えてビッグなニュースも二つ。この未訳短編が記されていたというクリスティーの創作ノートが、この春に刊行されるらしい。しかもこの機に乗じて「アガサ・クリスティー展」が有楽町の国際フォーラムで開催されるという予告まで。暗いニュース続きのミステリ界だが、これは久々に派手な展開で楽しめそうだ。
 ただ、そうはいってもクリスティー、最近読んでないなぁ。たぶん半分は読み残している。いつかはイッキ読みにチャレンジしたいものだがいつになるやら。



 ヘレン・マクロイの『殺す者と殺される者』を読む。『幽霊の2/3』と同様、長らく絶版だったものが、ついに復刻されたという超曰くつきの作品。『幽霊の2/3』ではなぜこれが絶版?というぐらい秀逸な作品だったが、本作もそれに続くか、というのがやはり要注目である。

 こんな話。大学で教鞭をとるハリー・ディーンは伯父の遺産を相続するという知らせを受ける。だがその直後、ハリーは道で足を滑らせ、頭を負傷して記憶の一部を失ってしまう。やがて怪我から回復したハリーは、その事故を機に職を退き、母の故郷で過ごすことを決意。それは若き日のハリーが暮らした町であり、彼がかつて愛したシーリアが住む町でもあった。だが、ハリーの新たな生活には不思議な出来事が頻発し、やがて痛ましい事件へと発展する……。

 殺す者と殺される者




※以下、本文はネタバレになる可能性を含んでいます。できるだけ注意して書いてはおりますが、察しのいい人だとこれでも危険。
 未読の方はくれぐれも御注意ください。






 うむ、悪くないです。途中までは若干の不安もあったのだが、読み終えた今は十分に納得である。個人的には『幽霊の2/3』に軍配を挙げてしまうけれど、それは相手が悪いからで、本作も十分楽しめる一作。
 ぶっちゃけ書いてしまうと、メインのネタは今となってはさすがに古いし、あざとい。少々ミステリを読み慣れている者なら、すぐに仕掛けが読めるはずだ。だいたいからして伏線が強すぎる。まるで気づいてくださいといわんばかりの書き方なのである。しかも後半に入った辺りで惜しげもなく、そのネタをばらす。
 ここで気づく。あ、もしかしてこれは確信犯かなと。読者があっと驚いてくれたらそれでよし、ネタが割れたら割れたで読者はそのテクニカルな部分に注目できる。描写はすこぶる丁寧で、不安感を煽る心理描写&真相をカモフラージュするテクニックが見事に両立している。
 その最たる例がラストへの持っていき方。最後の一行までたっぷりと主人公の心理を味わえるこの物語は、極めて上質のサスペンスといえるだろう。

 なお、『幽霊の2/3』もそうだったが、この『殺す者と殺される者』という題名も実にいい。

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Comments
 
ポール・ブリッツさん

なるほど。私は「新本格」派をほとんど読んでいないためでしょうか、けっこう普通に楽しめました。
マクロイはロジックを全面的に押し出した本格とは毛色が違いますが、伏線の張り方やケレンに関しては、やはり見るべきところも多く、面白い作家だと思います。

ちなみに『そして死の鐘が鳴る』は私も所持していますが、長らく積ん読です。ネットではちらほら言及されていることも多いので、気にはなっていたんですが……。なかなか微妙な出来のようですね。
 
いわゆる「新本格」派がこのネタに乗っかった(としか思えない)作品を量産したせいか、あまり楽しめませんでした。

というか、「どうやってそういうネタから離れていくのか」という小説と思っていたから、ガッカリ感が強かったのかもしれません。

主人公(と思っていた存在)が×××だ、ということがわかるシーンはぞくぞくしましたが。

最終盤へのまとめかたはいいと思います。

単に80年代以前に読まなかった自分が悪いのでしょうね。残念なことをしました……って、こんな作品を入手難のまま放っておく出版社が悪いんじゃ!(^^)

幻の作品では、エアードの「そして死の鐘が鳴る」をこの前50円で手に入れて読みましたが、あちらは……トリックはトンデモでわたし好みでしたが、ちと退屈でした。あれを読むならクリスピンやセイヤーズのほうがまだ楽しいであります。1000円以上つけているアマゾンは買いかぶりすぎだと思います。
 
M・ケイゾーさん

確か中盤で一度、題名について言及する部分があるので、「あ、そういうことか」と思っていたのですが、そちらは完全にフリでしたね。
題名の本当の意味が、ラストでビシッと決まるところも最高です。マクロイはこういうケレンたっぷりの演出が上手いですね。
 
 いい題名ですね、読み終わって、おお!と思いました。内容も面白く満足です。読むことができて良い時代だと思います。
 
makiさん

おっと、家蠅はまだでしたか。これもいいですよー。とりあえず翻訳されているなかでは家蠅、2/3は文句なしの傑作だと思います。ぜひお早めにw
 
わたしも先日これを読みました!
この内容でこれだけスリリングな書きっぷりというのが驚きですよね。ますます「家蝿」が読みたくなりましたがまだ見つけられていません…何となく書店で買いたいもので。
 
少佐さん

ホロー荘は、この夏にお芝居(http://www.geocities.jp/gekidan_whodunit/)と映画(http://www.cinematopics.com/cinema/works/output2.php?oid=9625)の両方あるみたいですよ。
 
ミスマガのクリ特情報ありがとうございます。ホロー荘は昔日本でドラマか映画化されたとかネットで見た気がします。クリスティーの中でも大好きな一つなのでこれは手に入れねば。マクロイの記事なのにすいませんw。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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