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高木彬光『乱歩・正史・風太郎』(出版芸術社)

高木彬光の『乱歩・正史・風太郎』を読む。
題名どおり、江戸川乱歩や溝正史、山田風太郎との思い出や交友録が中心のエッセイ集である。編者・山前氏のまえがきによると、著者は書き下ろしでこれをやりたいのだと生前に語っていたらしいが、体調が優れず結局は叶わぬ夢となった。その夢をあらためて形にしたものが本書。
もちろんそういう事情なので、収録エッセイは発表済みのものばかりではあるが、個人全集の月報として書かれたものなど、今ではそうそう読めないものも収録されているので、やはり探偵小説ファンには貴重な一冊と言えるだろう。なんせ語る方も語られる方も日本探偵小説界屈指のビッグネーム。本書はそのままある時期の日本探偵小説史を語る内容にもなっているのだ。
著者は「一見、常識人だが、本質的には変人」と乱歩に評されたという。しかしながら本書を読むと、その語り口から浮かぶのはやはり真面目で誠実な人柄である。正反対の性格である山田風太郎とは、確かにいいコンビだったのだろう。
個人的にはここ数年、ほとんど高木彬光の作品は読んでいないのだが、これをきっかけにまた読んでみるのもいいなぁ。角川をコンプリートするという楽しみもできるし>結局、それがやりたいのか(笑)
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Comments
「誘拐」大好きな作品です。
わたしは去年光文社版を読んで胃袋がでんぐり返るくらいびっくりしました。
これまで読んだ誘拐もののベスト5に入ります。
後は、もちろん天藤真「大誘拐」。それに、未読の人に誘拐ものだといってしまってはすべてぶち壊しになる某作家の某作品。それから土屋隆夫「針の誘い」と岡嶋二人「99%の誘拐」があれば、誘拐ものはもうしばらく読まなくていいや(笑)。
過去の神津ものも読みたいんですが、角川があれな今、いったいどこで読めばいいんだ……?
Posted at 17:44 on 03 14, 2010 by ポール・ブリッツ
>M・ケイゾーさん
論創の高木はしばらく積んだままになりそうです。っていうか論創ミステリ叢書は持ち運びに適さないので、なかなか読むのが大変。それに、高木彬光を消化するなら、まずその前に角川文庫を消化するのが先なんでしょうね。
Posted at 23:00 on 03 13, 2010 by sugata
元「神津FC」会員としては大変嬉しかったです。出版されることはないと思ってました。
本人にはお会いできませんでしたが、奥さんと娘さんには大会で何度かお会いできました。
論創の高木物も内容はともかく高木ファンとしては楽しかったです。
Posted at 22:25 on 03 13, 2010 by M・ケイゾー
空犬さん
今、そういう人がどれだけ残っているか、確かにすぐには思い浮かべることができません。
乱歩が亡くなったのが1965年ですから、親交があった人というと、1935年生まれぐらいがギリギリの線でしょうか。そうするとだいたい御年75歳を越えるぐらいの方でないと、こういうエッセイは書けないことになるんですね。ううむ。
Posted at 02:52 on 03 13, 2010 by sugata
twitterのほうに書いたことと重なっちゃうんですが、ぼくもこれ、出て割にすぐに読みました。いい本でしたね。高木彬光の作品自体は実はぜんぜん読んでなかったりするのですが、それでもおもしろかったです。
それにしても、こういう「関係者もの」を書ける人って、それだけ乱歩正史の近くにいたり、乱歩正史と時代を共有したりしていた、ってことですよね。そういう書き手自体が、いまどれだけ残っているかを考えると、こういう資料性の高い本は、間に合ううちに、どんどん書かれてほしいものです。
Posted at 01:02 on 03 13, 2010 by 空犬
>ポール・ブリッツさん
あれ、『誘拐』のこと、ブログに書いたっけ? と思っていたらツイッターの方を読んでくれたんですね。
当時は「高木彬光と言えば神津もの」と盲信していたんですが、角川文庫のを文庫番号順に読んでいくと、若い番号にもけっこう百谷泉一郎や霧島三郎が入っているんですよね。で最初はしぶしぶ読むんですが、読んでいくとこれが凄いわけです。
それまで読んでいたミステリというと、海外にしろ国内にしろオーソドックスなタイプがほとんどだったので、今思うと現代的なミステリというものを意識したのは、百谷泉一郎シリーズが最初だったかもしれません。『誘拐』だけでなく『人蟻』とか『破壊裁判』とか、印象は強かったですね。
Posted at 19:26 on 03 14, 2010 by sugata