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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ポール・ドハティー『神の家の災い』(創元推理文庫)

 ポール・ドハティーのアセルスタン修道士シリーズ三作目『神の家の災い』を読む。

 本作はいわゆるモジュラー型ミステリ。アセルスタンが同時に起きた三つの謎に挑むという体裁である。まずはアセルストンが書記として仕えるクランストン検死官が招いた事件。ある日、摂政ゴーントの宴に招かれたクランストンだが、その席で彼は四人の人間が死んだ密室殺人事件を解けるかどうか賭をする羽目になる。一方、アセルスタンが守る教会では、改修中に発見された遺骨が奇蹟を起こして大騒ぎ。さらには、かつてアセルスタンが所属した修道院で謎の連続殺人が発生するが……。

 神の家の災い

 ドハティーのシリーズはこれまでに3つ紹介されている。ひとつはロジャー・シャーロットを主人公とする冒険小説風のシリーズ。もうひとつはヒュー・コーベットを主人公とするハードボイルド調の物語。そして、本作のアセルスタン・シリーズは謎解きをメインに据えた本格ミステリである。
 ただ、作風はシリーズごとに異なれど、いずれもに共通しているのは、すべてイギリスを舞台にした歴史ミステリである、という点だ。
 ドハティーの興味は、もうほとんどその一点に集中しているといって差し支えないと思うのだが、だからといって、適当に作風を変えて駄作を量産しているわけではない。世界観の構築や登場人物の造型などは綿密だし、その描写は実に確か。まるで見てきたかのように、当時のロンドンの風俗や人々を描き、とにかく物語ることにおいては非常に巧みな作家なのである。正直、別に事件など起こらなくても十分面白いのだ。

 本作もそういう意味では楽しめる一冊なのだが、それでも本格ミステリという体裁をとっている以上、トリックやロジックがどの程度のものなのかは、やはり気になるところ。で、残念ながらその点に関しては期待しないほうがよい。また、著者自身もそこを極めようといういう気はあまりないようだ。
 とはいえ派手なトリックやどんでん返しなどがないというだけで、本格ミステリとしての構成要件はきっちりクリアしているし、そういう部分での手抜きなどはない。むしろ事件をいくつも散りばめることで、騒々しく猥雑な当時の英国の雰囲気を作っているのかなとも思うし、そのなかで右往左往する主人公たちがより魅力的に感じられるのである。
 『シャーロック・ホームズ』もいいのだけれど、このシリーズも映画化してくれたら絶対に観にいくんだけどなぁ。

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Comments

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>ksbcさん
私もアセルスタンに一票ですね。ミステリとして一番しっかりしていますし、何よりアセルスタンとクランストンの掛け合いが楽しい。ただ、他のシリーズは二作目が翻訳されてないので、これだけで答を出すにはちょっと可哀想な気もしますが(苦笑)。


>Sphereさん
なるほど『パフューム』ですね。確かに当時の臭いを見事に視覚化したような映画でした。
ちなみにXbox 360とPS3で、『アサシンクリードII』という暗殺者を主人公にしたアクションゲームが出ているんですが、これが16世紀のイタリアをすごいリアルに再現していて、一見の価値ありです。

Posted at 23:57 on 04 07, 2010  by sugata

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たしかに謎はシンプルですが(特に泊まると人が死ぬ部屋の謎・・)、今回はそれぞれ思い悩む二人がよかったです。映画化賛成!ジュースキントの「香水~ある人殺しの物語」みたいな感じで、匂ってきそうな映画にしてほしいなあ。

Posted at 21:35 on 04 07, 2010  by Sphere

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まいどです。
ここのところ読書は、年度の変わり目ということもあり、全く進んでいません。
ドハディーの3シリーズのうちではこの「アセルスタン」が一番気に入ってますね。
ヒュー・コーベットは、これからが本番か点…。
ロジャー・シャーロットは一作を読んだ限り肌に合いませんでしたが…。
といった感じです。

Posted at 12:43 on 04 07, 2010  by ksbc

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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