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 久しぶりに国書刊行会の「世界探偵小説全集」から一冊読んでみた。ものはナイオ・マーシュの『道化の死』。 
 マーシュと言えば英国を代表する本格の女流作家。演劇に長らく関わっていたこともあって、演劇ネタを取り入れた作品が多いのが特徴だ。ただ、どちらかというとトリックよりは描写の巧さで読ませるタイプ。日本ではなかなか人気が出ず、紹介が進まなかったのも仕方ないところだろう。
 本書はそんなマーシュの中期の傑作。CWAの1957年度の次点(いまでいうシルヴァー・ダガー賞)にも輝いた作品である。

 道化の死

 年に一度、冬至の次の水曜日にマーディアン・キャッスルで催される〈五人息子衆のモリスダンス〉 と呼ばれる民族舞踊があった。その中心となるのは、地元で鍛冶屋を営むウィリアム・アンダースンとその五人の息子たち。松明に照らされる中庭で、時には華やかに、時には粛々と演じられる剣の舞。だがその背景には、親子の確執、平穏を乱す外国人研究者、許されない恋などなど、不穏な空気も立ちこめていた。そして、遂に、悲劇は起こった。衆人環視の中、道化役の男が首を切り落とされてしまったのだ……。

 前評判どおり、これは十分に楽しめる一冊。
 何といっても謎の設定が魅力的だ。衆人環視の中での殺人、しかも首を切断された死体という設定は、インパクトも十分。いわば密室の変種のような設定だが、トリックについても非常によく練られたもので、少々無理矢理かなとも思うが、伏線の張り方なども含めてこれだけやってくれれば全然許容範囲である。
 ストーリー的には、中盤の関係者への尋問シーンがちょっとダレ気味なのが玉に瑕。また、アンダースン家の五人兄弟の描き分けが少々弱かったり(アーニー除く)、犯人の動機についても適当な感じは否めない。とはいえ犯罪が起こるまでの前半の盛り上げ、終盤の事件再現による謎解きシーンなど、オーソドックスながら締めるところは締めてきっちりまとめているのはポイント高し。トータルでは十分一読に値する作品だろう。
 このレベルが維持できるなら、未訳が多いだけに、まだまだ紹介を進めてほしい作家だ。


 ところで国書刊行会の「世界探偵小説全集」が完結して、もう三年ほどになる。1994年にバークリーの『第二の銃声』で幕を開けたこの叢書。後半は刊行の間隔もけっこう空いてしまったこともあって、なんと足かけ14年に渡り、未知のクラシック・ミステリを紹介し続けたことになる。
 クラシックミステリ・ブームの火付け役として、その意義と貢献度は計り知れないほど大きいものがあったわけだが、なんせ今見ても相当にマニアックなセレクトだから、残念ながら現在では品切れのものも多い。いくつかの本は文庫にもなってはいるけれど、市場から消えるのも時間の問題。興味のある方、全部揃えるなら今のうちですぜ。
 なお、国書のHPにはオンライン・ショップがあって、「世界探偵小説全集」の在庫も確認は出来るけれど、一冊ずつ検索しなければならずけっこう大変。せめてシリーズものは一覧で在庫状況が見られるといいのだが。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌





>Sphereさん
私はポケミスとか論創社のものもいくつか読んでいますが、『道化の死』が一番かと思います。ぜひお試しを。
 
ちなみに国書刊行会「世界探偵小説全集」については、全作持ってはいるのですが、2、3作ほど積ん読山脈で行方不明のため、読み残しがあるはずです(笑)。
【2010/05/02 21:24】 URL | sugata #8Y4d93Uo[ 編集]

国書刊行会「世界探偵小説全集」はもう全部読んだもんね~と思いつつこの書評を拝見したところ、ストーリー全然記憶にない…
調べてみると、これだけ未読でした!
気がつかなかったら一生読まずに過ごすところでした。危なかった~(^^;
ナイオ・マーシュは『ランプリイ家~』しか読んだことないと思いますが、あまり印象に残ってません。アレン警部も普通っぽいし。でもこれはなんか面白そうなので楽しみです。
【2010/05/02 19:34】 URL | Sphere #AgXjGueg[ 編集]















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