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 本田猪四郎監督による『マタンゴ』(1963年公開)を観る。東宝特撮映画DVDの一本。
 この作品は東宝特撮映画のなかでも極めて特異なポジションにある。『電送人間』とか『ガス人間第一号』の流れを汲んだ変身人間系の作品ではあるのだが、そのテーマや内容の重さは単なるエンターテインメントの領域を超えており、観る人を実にいやーな気分にさせる見事な出来映えとなっている(もちろん褒めているんです)。

 主人公はヨット遊びが過ぎて、ある無人島に漂着した男女七人の若者たち。ヨットの修理を進めつつ、サバイバル生活に突入する七人だが、そこはキノコや苔、カビに覆われた不気味な島で、食べるものすら見つからない。唯一、発見した難破船からは食料が見つかったものの、せいぜいそれは一週間分であった。また、同じく見つかった航海日誌には、島のキノコに手を出すなという謎の警告文が。
 やがて七人は精神的にも苛まれ、食料と女性を奪い合うようになり、対立の度合いを深めてゆく。同時に彼らの周囲に出没する怪しい影、そして警告を無視し、遂に禁断のキノコに手を出す者が……。

 物語はシンプルだが、非常に密度の濃い作品である。
 怪物がいつ出るのいつ出るの、といった常套手段としてのホラーの部分も上手いけれど、真の狙いが極限状態での人間性を描くことにあるのは明らか。仕事での上下関係や遊びだけの関係に隠された人のつながり、さらには金銭や性にいたる欲望などなど、日常生活ではきれいに覆い隠されている部分が、サバイバルな状況で徐々に露呈してゆく。この描き方が絶妙。
 若者たちは極限状態だから壊れていったのか。あるいは人間とは元々こういうもので、それが極限状態で明らかになっただけなのか。高度経済成長にうかれる当時の日本への憂いも含め、本作はある意味、『ゴジラ』以上にメッセージ性が強い。
 極彩色のマタンゴの姿も、人間性を失ってゆく水野久美の派手な衣装も、これらはすべてラストシーンで窓から見える東京の派手なネオンへとリンクしている。こういうところも上手いよなぁ。

 人間ドラマを支える世界設定もいい。難破船が発見されて食料も残っているのに、なぜ死体が見当たらないかとか、船内の鏡が一切壊されているのはなぜかとか、そういうSForミステリ的くすぐりがあるから説得力も出るし、ストーリーを引っ張る力も増す。
 原案は幻想小説の大家W・H・ホジスン。それを初代「SFマガジン」編集長、福島正実が独自の小説に書き直したものが原作となっているので、そりゃ面白くなるはずだ。
 東宝特撮ものとしてはちょっと重いけれども、気になる人はぜひ。

 なお、当時はこれと加山雄三の『ハワイの若大将』が同時上映だったらしい。似たような設定を真逆にしたような組み合わせで、よく同時上映したもんだ。






>清貧おやじさん
特撮が良い意味で脇役に回っている映画というのは、えてして傑作が多いような気がします。もちろん『マタンゴ』も。
絵面はどうしてもB級だし、カルト色は強くなりますが、それだけでは終わらない映画ですよね。
【2010/07/03 19:32】 URL | sugata #8Y4d93Uo[ 編集]

出ました。マタンゴ!
名作中の名作ですよね。
一度見たら、一生忘れることが出来ない映画です。
もう一度、じっくりと見てみたくなりました。
この手の映画の先駆けですよね。
今見ると、かなりカルト映画なんでしょうね。
こういう作品こそ、リメイクして欲しいです。
現在のジャパニーズホラーなんか足下にも及びません。
しかし、キノコ業界からクレームが来るだろうなぁー。




【2010/07/02 23:52】 URL | 清貧おやじ #27oFWF9A[ 編集]

>Sphereさん
マタンゴそのもののビジュアルはまあさすがにアレですが(笑)、主人公たちが少しずつ壊れていく姿は鬼気迫るものがあります。そういう意味では一級のホラーといっていいんではないでしょうか。体調万全にしてご覧ください(笑)。
【2010/07/02 00:17】 URL | sugata #8Y4d93Uo[ 編集]

原作がホジスンだとは知りませんでした。
といっても映画も見たことなくて、聞いたことしかなかったんですが面白そうですね。見てみたいけど、ちょっと怖そう…
【2010/07/01 19:59】 URL | Sphere #AgXjGueg[ 編集]

>坪井鉄兵さん
コメントありがとうございます。『マタンゴ』好きが多くて嬉しいかぎりです(笑)。

私も『電送人間』は楽しみにしています。この系統は後の『怪奇大作戦』を彷彿とさせて、ゾクゾクするものがありますね。
【2010/07/01 01:24】 URL | sugata #8Y4d93Uo[ 編集]

こんばんわ。マタンゴはDVDで持っています。
いや、面白い映画でした。印象も強い映画ですねえ。
私的にはどんでん返しがほしい映画です。
『電送人間』とか『ガス人間第一号』をまだ観ていないのでこれから観たいと思っています。
興味深い記事をありがとうございます。
【2010/06/30 19:18】 URL | 坪井鉄兵 #-[ 編集]

>kennさん
ラヴクラフトへの影響云々という文脈で語られることは多いようですね。ただ、そっちはあまり詳しくないんで、確かなことは言えませんが。
【2010/06/28 08:45】 URL | sugata #8Y4d93Uo[ 編集]

>ちなみにホジスンは『異次元を覗く家』では?

ありがとうございます、そうでした。
あれも、クトゥルー系の話にはいるんでしたっけ? 


【2010/06/28 02:13】 URL | kenn #NV6rn1uo[ 編集]

>kennさん
ぜひ観てください。日本の特撮映画がしっかりした方向性を持っていた時代の、いい映画ですよ。
なんで今、こういう映画を作れないのか不思議でしょうがありません。

ちなみにホジスンは『異次元を覗く家』では?
【2010/06/27 23:47】 URL | sugata #8Y4d93Uo[ 編集]

「マタンゴ」はきちんと見てないような気がします。
テレビじゃ、ノーカットなんてやれないだろうし。
こういうのを読んだら、見たくなりますね。

原案はホジスンだったんですか。
『地獄を覗く家』だったか、大昔に読んだ記憶があります。
これも彼じゃなかったかなぁ。
【2010/06/27 22:50】 URL | kenn #NV6rn1uo[ 編集]

>Ksbcさん
『マタンゴ』での水野久美は日本特撮界のある部分での頂点ともいえます。「みんな、あたしが欲しいのよ」なんてセリフ、特撮映画を観ていて聞けるとは思いませんでした(笑)。

W杯はもう仕方ないでしょう。今日もドイツ対イングランドなんて、これ観なくてどうするんだって感じですもんね。
【2010/06/27 20:26】 URL | sugata #8Y4d93Uo[ 編集]

体調はいかがですか?
今日は、USA-ガーナのキックオフ直後に意識不明になり、終了の瞬間に目覚めるという失態でした(笑)。

「マタンゴ」気持ち悪かったことと水野久美の妖艶な姿が印象に残っています。
先日、ホジスンの「夜の声」を読んでみて、映画とは印象が違っていました。それは、福島さんのストーリーが効いているということなんですね。

以前にも書いた通りW杯の余波で読書は完全停滞中です。
積ん読も増えてきてますので、落ちついたら巻き返します(笑)。
【2010/06/27 19:46】 URL | Ksbc #-[ 編集]















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