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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


星新一『ほしのはじまり』(角川書店)

 先日訪れた世田谷文学館の「星新一展」にすっかり感化され、寝る前にぼちぼち読んできた本がある。星新一のお弟子筋にあたる新井素子が編纂した『ほしのはじまり』がそれ。
 編者自身の好みによるセレクトだが、そのジャンルや年代も十分に考慮し、ひととおりの代表作は読めるようにしたということで、星ワールドをサクッと網羅しておきたい人にはなかなか便利な傑作選である。

 ほしのはじまり

 で、久しぶりに星新一作品をまとめて読んだわけだが、あらためてこの人の才能というか、イマジネーションの豊かさには参った。インターネットとか彼の考えた内容がそのまま現実になった事例も多いし、この才能は誰もが認めるところだろう。
 ただ、星新一の魅力はこういう想像する力だけではない。
 彼の作品で意外に多いのが、苦いオチや、ラストでクールに登場人物を突き放すシーンだ。科学の発達や幸福を追い求める人間社会を、どこかでシニカルに捉えている部分があり、それが軽やかな深みともいうべき独特の味になっている。星製薬二代目として、倒産処理にあたるという体験が影響したと考えるのは、それほど的外れともいえないだろう。

 ところで今の若い人、特に中学生や高校生は星新一を読むのだろうか。
 「はじめに」と題した前書きで、新井素子は、自分の世代は中学生の頃に文庫でみな星新一の洗礼を受けたというようなことを書いているけれど、管理人自身も世代が近いこともあって、正に同様の体験をしている。猫も杓子も、と書くと大げさだが、少なくとも当時の本好きの連中はみな読んでいた記憶がある。先日の「星新一展」の映画上映でもけっこう年齢層が高くて、やはり懐かしさで来る人が多いのかと少し気になった次第だ。
 まあ、オッサンやオバハンが読んでノスタルジーに浸るのも悪くないとは思うが、やはり星新一は若い人にこそ読んでほしいな。


Comments

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>ポール・ブリッツさん
私の頃はありませんでしたが、今は星新一の載っている教科書なんて、普通にあるんでしょうね。「おーいでてこーい」とかすごいありそう。

ちなみに私の時代で教科書に載っていた比較的新しめの作家というと、北杜夫あたりでしょうか。年がばれますね(笑)。

Posted at 00:40 on 07 06, 2010  by sugata

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星新一先生に触れないで思春期を過ごすのはもはや罪悪といってもいいですよ、と、当時おおはまりしていたSFファンのなれの果ては声を大にして叫ぶのであった(^^)

小学校から高校にいたるまで、すべての国語教科書は必ず最低一作品、星先生のショートショートを入れるべし、という法案を提出する政党があったら、わたし喜んで一票入れてしまいます(笑)

Posted at 18:21 on 07 05, 2010  by ポール・ブリッツ

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>orhmさん
とりあえず活字に親しむ習慣を作ることが大事とはいえ、だからこそ子供たちには上質の、かつ面白い本に接してもらいたいものだと思います。
正直、山田悠介あたりは周囲の大人が上手に隠しておかないと(笑)

Posted at 23:40 on 07 04, 2010  by sugata

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自分が初めて星新一や新井素子を読んだのは高校生の時でした。夜中ふとんにもぐって読んでいた日々が懐かしいです。

http://www.hokkaido-np.co.jp/news/chiiki4/239655.html

これによると今の中学生は現代小説に限らず太宰治なんかも読んでいるみたいですね。理由は表紙でしょうか。活字、読書離れとは聞きますが、そんなにでもないのかな? なんて思いました。

Posted at 23:04 on 07 04, 2010  by orhm

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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