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 ホームズ翻訳への道 延原謙評伝

 『延原謙探偵小説選』を読んだら次はこれ、と決めていたのが『ホームズ翻訳への道 延原謙評伝』。タイトルからも自明のとおり、ホームズの翻訳で名高い延原謙の業績や生涯を綴った評伝である。
 何でも今年の日本シャーロック・ホームズ・クラブ大会で、第32回シャーロック・ホームズ大賞を受賞した作品とのこと。端から期待できるだろうとは予想していたが、いやいや、これはその予想を遙かに上回る力作である。

 もちろん管理人もホームズ譚は好きだが、いたってヌルいファンであり、別にシャーロキアンというわけではない。むしろ『新青年』の編集長という興味の方が強かったわけで、実はそちら方面の記述に期待していたところもある。
 で、いざ読んでみると、そういうこちらの勝手な希望もまったく裏切らない。それどころか、戦前戦後の探偵小説界における活動が、当時の作家や関係者の記録から非常に細かく検証されている。翻訳者としての顔、創作者としての顔、そして編集者としての顔、その変遷が裏話なども交えて次々と紹介され、毎ページのように読みどころが詰まっている。

 強いて難を挙げれば、父君、馬場種太郎のパートが長すぎる気はするが、その調査内容は謙のページ以上に克明である。種太郎は京都の同志社大学で学んでいるのだが、非常にキリスト教に傾倒しており、学業以上に布教活動に熱心だったという。明治半ばという時代、当時の学生たちの布教活動の様子などは、読んでいてなかなか興味深かった。

 また、非常に気になった点としては、延原謙の奥さんである延原克子さんもまた、勝伸枝というペンネームで探偵小説を残していたこと。判明しているだけで十三作あるらしいのだが、いくつかの作品のざくっとした粗筋が紹介されていて、これがまた面白そうなのだ。
 例えば「墓場の接吻」は、主人が死んだことを信じない未亡人が、食料や空気を送るため、土葬の墓までトンネルを掘ろうとする話。ね、かなりやばそうでしょ。本格ではなさそうだが、もしかすると小説については延原謙より上かも、と思わせる怖さがある。
 などと思っていたら、そのうちの一作「嘘」は、光文社文庫の『幻の探偵雑誌10「新青年」傑作選』で読めるそうだ、っていうか、じゃ自分読んでるじゃん。でも全然覚えてないぞ(笑)。
 まあ、一作ぐらいじゃその力はわからないし、ここはぜひ「論創ミステリ叢書」で、松本夫妻のように奥様の分までまとめてほしいものである。

 なお、著者の中西裕(なかにしゆたか)氏は、奥付の紹介文によると、昭和女子大学の教授で書誌や日本文化史の専門家ということ。なるほど、そっちの専門家だったか。さすがだ。


テーマ:評論集 - ジャンル:本・雑誌



















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