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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


デイヴィッド・ベニオフ『卵をめぐる祖父の戦争』(ハヤカワミステリ)

 ポケミスの装丁を担当した勝呂忠氏が亡くなったことはまだ記憶に新しいが、それを契機として、ポケミスはこの八月刊行分から装丁のリニューアルを図った。その一発目が、デイヴィッド・ベニオフ『卵をめぐる祖父の戦争』である。

 卵をめぐる祖父の戦争

 新たに装丁を担当されるのは水戸部功氏。今までの抽象画とは異なり、本書ではタイトルに合わせて卵をモチーフにしたデザインだ。これまでのポケミスも嫌いじゃないが、個人的には正直、こういうほうが好み(笑)。ただ、今後は特に方向性を決めず、写真を使ったり具象画だったり、作品に合わせていろいろとやっていくそうな。
 ちょっと気になったのは、表紙からではこれがポケミスというのが伝わりにくいのではないかということ。せめてひとつ目印になる部分があればいいのだけれど、これではポケミスを知らない人だと、書店で見逃しやすいかもしれない。実は帯をとれば、今までどおりの「HAYAKAWA POCKET MYSTERY BOOK」という白ヌキ文字が踊っているのだけれど、普通は帯があるから、見えないんだよなぁ。

 ま、それはともかく。中身の方にまいりましょう。
 舞台は第二次世界大戦中のレニングラード。ドイツ軍のレニングラード侵攻が始まり、市内には戒厳令が敷かれていた。疎開する者も多く、市民は最低限の配給に頼る生活が続く。
 詩人の父をもっていたレフはそのとき十七歳。たまたま発見したドイツ兵の死体から、所持品を盗んだところを兵隊に捕まってしまう。そして命と引き替えに命じられたのは、なんと卵の調達。軍の大佐の娘の結婚式に使うケーキに必要なのだという。饒舌な脱走兵コーリャを相棒に、二人は卵を求めて最前線へ踏み出してゆく……。

 おお、久々にいい冒険小説を読んだ。語り口はけっこうユーモラスで、そもそも卵を手に入れるという設定が人をくっている。主人公の内気な青年、そして饒舌でセックスに目がない脱走兵という組み合わせも非常に魅力的で、彼らの道中でのやりとり自体が本筋以上に面白くて、いくらでも本作を深読みできるという結構である。
 とはいえ、そこは戦争がベースの冒険小説。内容自体は基本的に重く、凄惨な場面も多い。だからこそ、その悲劇を通して青年は成長し、読後に素晴らしい余韻を残す。
 純粋なミステリではないけれど、これは幅広くオススメできる一冊。


Comments

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Ksbcさん

楽しんでいただけたようで何よりです。
私も他の作品は気になっているのですが、エピソードが上手い作家という印象があるので、短編集の『99999』かなぁなどと考え中です。

Posted at 00:13 on 09 17, 2010  by sugata

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他の作品も気になりますね。

読みました。楽しめる作品でした。
決して明るいテーマではないのですが、独特の味付けでヘビーにならず、それでいてしみじみくる「いい冒険小説」ですね。
他の作品も気になります。

Posted at 10:32 on 09 16, 2010  by Ksbc

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>kennさん

ベニオフは初体験です。『25時』とか『99999』とかタイトルは知ってましたけど、作風などは全然知らなくて、実はポケミスリニューアル第一弾ということで御祝儀代わりに買ったみたいなもんです(笑)。
こういう買い方をしていると、つまんなかったときのショックは大きいのですが、楽しめる作品でラッキーでした。


>Ksbcさん

えええ、そんな理由で迷っていて、そんな理由で買っちゃうんですか(笑)。
あ、私も似たようなものか。
でも面白さは保証します。買いです。

Posted at 01:05 on 08 31, 2010  by sugata

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気になっていたのですが、新装丁第一弾ということもあって迷っていました。
「いい冒険小説」、いい響きです。買います。

Posted at 08:31 on 08 30, 2010  by Ksbc

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新しいポケミスの装幀、
今後が気になりますね。
共通のロゴみたいなのもないのかな? 

ベニオフについては、kazuou さんのところでも
ちょこっとコメントしたんですが、
早々とお読みになりましたね。
やっぱり『25時』とはちがうタイプのようで。
いろいろ書くのか、こちらの方向に行くのか、
楽しみではあります。

Posted at 02:32 on 08 30, 2010  by kenn

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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