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藤桂子『逆回りの時計』(創元推理文庫)
藤桂子の『逆回りの時計』を読む。『獅子座』『黒水仙』『疑惑の墓標』と続いた、菊地警部シリーズの掉尾を飾る作品である。
高城あずさは、脳梗塞で倒れた母から呼び出され、家の権利書と実印をある男に渡してくれと頼まれる。莫大な資産だというのに、その理由も明かさぬ母。あずさは不安を覚え、独力で調査に乗り出す。
一方、この数ヶ月の間に、武蔵野では女性の刺殺事件、ホテルのサウナでもガスによる女性殺害殺人が発生していた。警察が捜査を進める中、菊地警部の捜査線上にあずさとの接点が生まれ、過去に起こったある事件が浮かび上がる……。

藤桂子作品の特徴をいくつか挙げてみると、まずは地道な捜査による警察小説という側面がある。加えて素人探偵の活躍を盛り込み、警察の捜査と交差させながら描くところもお馴染みだ。これはクロフツに倣ったと著者本人が書いているとおり。
さらには叙情性の高さも要注目。娯楽作品でありながら、藤桂子の作品は決して明るいものではない。事件を通して人の心に眠っている狂気や闇を炙り出すことに主眼を置き、それによって運命を狂わされる人々を描く。
その持ち味を、藤桂子は本作でも遺憾なく発揮している。警察のパートと高城あずさのパートが交互に語られ、捜査が進むにつれて自然に物語が融合し、そのままクライマックスへとなだれ込む。警察側の抱えている事件が菊地警部の捜査するものだけではなく、複数あるというのもポイント高し。
それら複数の事件と高城あずさの調査、すべてを繋ぐものは何かという興味の引っ張り方もいいし、構成も今までの中では一番まとまっているのではないか。
もちろん「事件を繋ぐもの」の真相には今回も驚かされた。しかも毎度のようにえぐい(苦笑)。こういう動機というか、事件の背景に隠された秘密で、ここまで驚かされる作品はあまりないだけに、管理人などはこれを読みたくて読んでいると言っても過言ではない(まあ、決して楽しい話ではないけれどw)。
ただ、残念なことに、トリックに関していまひとつなのも相変わらずである。ここまで動機や叙情性で読ませるのだから、無理にそういう方向に走らなくともいいと思うのだが、やはり推理作家として性なのか。変に作りすぎたトリックが物語全体から浮いてしまっているのは惜しいかぎりだ。
と、ここまで感想をグダグダ書いてはきたが、実は一番感じ入ったのは、この菊地警部シリーズが非常に推理小説らしい推理小説であったということだ。「ミステリ」でも「探偵小説」でもなく、あくまで「推理小説」。
まあ、管理人もそれほど呼称に気を遣っているわけではない。基本は単純に年代的な区分である。戦前のものはやはり「探偵小説」というクラシックな響きが好ましいし、戦後に「偵」の字が当用漢字外になると「推理小説」、「推理」にこだわらない、より幅広いジャンルを包括するようになった最近のものは「ミステリ」、という具合である。
ただ、その時代に流行った作品は、当然ながらその時代の呼称がよく似合う。個人的に「推理小説」が似合うと思うのは昭和の香り漂うものだ。例えば社会派や、あるいは動機を重視したドラマ性の強いもののイメージ。
菊地警部四部作は、そんな「推理小説」のイメージを良い意味で感じさせるシリーズだった。いくつかの瑕もあるにはあるが、ひとつの時代を代表する作品として、藤雪夫と藤桂子の名は残していかなければならない。
高城あずさは、脳梗塞で倒れた母から呼び出され、家の権利書と実印をある男に渡してくれと頼まれる。莫大な資産だというのに、その理由も明かさぬ母。あずさは不安を覚え、独力で調査に乗り出す。
一方、この数ヶ月の間に、武蔵野では女性の刺殺事件、ホテルのサウナでもガスによる女性殺害殺人が発生していた。警察が捜査を進める中、菊地警部の捜査線上にあずさとの接点が生まれ、過去に起こったある事件が浮かび上がる……。

藤桂子作品の特徴をいくつか挙げてみると、まずは地道な捜査による警察小説という側面がある。加えて素人探偵の活躍を盛り込み、警察の捜査と交差させながら描くところもお馴染みだ。これはクロフツに倣ったと著者本人が書いているとおり。
さらには叙情性の高さも要注目。娯楽作品でありながら、藤桂子の作品は決して明るいものではない。事件を通して人の心に眠っている狂気や闇を炙り出すことに主眼を置き、それによって運命を狂わされる人々を描く。
その持ち味を、藤桂子は本作でも遺憾なく発揮している。警察のパートと高城あずさのパートが交互に語られ、捜査が進むにつれて自然に物語が融合し、そのままクライマックスへとなだれ込む。警察側の抱えている事件が菊地警部の捜査するものだけではなく、複数あるというのもポイント高し。
それら複数の事件と高城あずさの調査、すべてを繋ぐものは何かという興味の引っ張り方もいいし、構成も今までの中では一番まとまっているのではないか。
もちろん「事件を繋ぐもの」の真相には今回も驚かされた。しかも毎度のようにえぐい(苦笑)。こういう動機というか、事件の背景に隠された秘密で、ここまで驚かされる作品はあまりないだけに、管理人などはこれを読みたくて読んでいると言っても過言ではない(まあ、決して楽しい話ではないけれどw)。
ただ、残念なことに、トリックに関していまひとつなのも相変わらずである。ここまで動機や叙情性で読ませるのだから、無理にそういう方向に走らなくともいいと思うのだが、やはり推理作家として性なのか。変に作りすぎたトリックが物語全体から浮いてしまっているのは惜しいかぎりだ。
と、ここまで感想をグダグダ書いてはきたが、実は一番感じ入ったのは、この菊地警部シリーズが非常に推理小説らしい推理小説であったということだ。「ミステリ」でも「探偵小説」でもなく、あくまで「推理小説」。
まあ、管理人もそれほど呼称に気を遣っているわけではない。基本は単純に年代的な区分である。戦前のものはやはり「探偵小説」というクラシックな響きが好ましいし、戦後に「偵」の字が当用漢字外になると「推理小説」、「推理」にこだわらない、より幅広いジャンルを包括するようになった最近のものは「ミステリ」、という具合である。
ただ、その時代に流行った作品は、当然ながらその時代の呼称がよく似合う。個人的に「推理小説」が似合うと思うのは昭和の香り漂うものだ。例えば社会派や、あるいは動機を重視したドラマ性の強いもののイメージ。
菊地警部四部作は、そんな「推理小説」のイメージを良い意味で感じさせるシリーズだった。いくつかの瑕もあるにはあるが、ひとつの時代を代表する作品として、藤雪夫と藤桂子の名は残していかなければならない。
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