Posted
on
アントニイ・バークリー『パニック・パーティ』(原書房)
創元推理文庫からジョン・フランクリン・バーディン『悪魔に食われろ青尾蠅』が刊行された模様。先日はちくま文庫でチェスタトン『四人の申し分なき重罪人』が出たし、同じく創元からはもうすぐクリスピンの『愛は血を流して横たわる』、シャーロット・アームストロング 『魔女の館』もみな文庫化されて出る。クラシック・ミステリのファンには素晴らしいクリスマス・プレゼントだろうとは思うけれど、単行本をリアル・タイムで買って読んでいる身としては、え、もう文庫化なの?という苦々しい気持ちでいっぱいです(笑)。
読了本はアントニイ・バークリーの『パニック・パーティ』。ロジャー・シェリンガムが登場する最後の長篇である。バークリーは言うまでもなく英国の本格探偵小説の書き手だが、その作品は単なる本格ミステリにとどまらない。よく言えば実験的な(悪く言えばひねくれた)作品にチャレンジし続けた作家であり、このシェリンガムもの最後の長篇においても、その期待を見事に裏切らない。

こんな話。シェリンガムは、大富豪となったかつての恩師ガイからクルーザーでの旅に誘われた。しかし招待客の面々が明らかになるにつれ、シェリンガムはガイに何らかの隠された意図があることに気づく。案の定、クルーザーの故障をきっかけに、クルーザー旅行の招待客全員は無人島に取り残されてしまうという事態に陥った。そんな中、ガイはこの招待客の中に殺人犯がいることを公表し、さらに一同を不安に落とし込む。そして当然のごとく、一人の死体が発見されたが……。
解説によると、海外では評価が大きく分かれる作品らしいが、まったく意味がわからない。結論からいうと本作は十分楽しめるミステリであり、これまでの作品同様、非常にバークリーらしい一作であるといえる。
そもそも本作を格探偵小説という観点で読むから悪い。確かにロジックや謎解き興味といった部分は弱いけれども、本作の主題がそこを否定するところからスタートしているのは、冒頭にある著者自身の言葉でも明らか。
上でも少し書いたように、バークリーは本格探偵小説の可能性を探究するかのように、実験的な作品を書き続けた作家だ。その結果として、アンチミステリあるいはパロディとも思えるような作品を多く残してきた。一方ではノン・シリーズの作品も多く、こちらでは主に犯罪者の心理を描いた作品が中心である。
シェリンガム最後の事件はこの二つの路線を融合させた作品といってもよいだろう。『パニック・パーティ』の面白さは、隔絶された無人島で、犯罪者と共に残されたことによるサスペンスにあることは明らか。徐々に人々の本性が剥き出しになり、シェリンガムすらいつもとは異なる自分に戸惑う、そこが読みどころだ。
加えて、いわゆる本格のコードに則って進めながらも、肝心なところではそれを無視する(あるいは茶化す)ことで、それでも本格として成立するのかどうか、試している可能性も伺える。
確かに設定こそ異色ではあるが、そういうポイントを見ていけば、これはいつもどおりバークリーらしい企てに満ちた一作なのだ。
読了本はアントニイ・バークリーの『パニック・パーティ』。ロジャー・シェリンガムが登場する最後の長篇である。バークリーは言うまでもなく英国の本格探偵小説の書き手だが、その作品は単なる本格ミステリにとどまらない。よく言えば実験的な(悪く言えばひねくれた)作品にチャレンジし続けた作家であり、このシェリンガムもの最後の長篇においても、その期待を見事に裏切らない。

こんな話。シェリンガムは、大富豪となったかつての恩師ガイからクルーザーでの旅に誘われた。しかし招待客の面々が明らかになるにつれ、シェリンガムはガイに何らかの隠された意図があることに気づく。案の定、クルーザーの故障をきっかけに、クルーザー旅行の招待客全員は無人島に取り残されてしまうという事態に陥った。そんな中、ガイはこの招待客の中に殺人犯がいることを公表し、さらに一同を不安に落とし込む。そして当然のごとく、一人の死体が発見されたが……。
解説によると、海外では評価が大きく分かれる作品らしいが、まったく意味がわからない。結論からいうと本作は十分楽しめるミステリであり、これまでの作品同様、非常にバークリーらしい一作であるといえる。
そもそも本作を格探偵小説という観点で読むから悪い。確かにロジックや謎解き興味といった部分は弱いけれども、本作の主題がそこを否定するところからスタートしているのは、冒頭にある著者自身の言葉でも明らか。
上でも少し書いたように、バークリーは本格探偵小説の可能性を探究するかのように、実験的な作品を書き続けた作家だ。その結果として、アンチミステリあるいはパロディとも思えるような作品を多く残してきた。一方ではノン・シリーズの作品も多く、こちらでは主に犯罪者の心理を描いた作品が中心である。
シェリンガム最後の事件はこの二つの路線を融合させた作品といってもよいだろう。『パニック・パーティ』の面白さは、隔絶された無人島で、犯罪者と共に残されたことによるサスペンスにあることは明らか。徐々に人々の本性が剥き出しになり、シェリンガムすらいつもとは異なる自分に戸惑う、そこが読みどころだ。
加えて、いわゆる本格のコードに則って進めながらも、肝心なところではそれを無視する(あるいは茶化す)ことで、それでも本格として成立するのかどうか、試している可能性も伺える。
確かに設定こそ異色ではあるが、そういうポイントを見ていけば、これはいつもどおりバークリーらしい企てに満ちた一作なのだ。
- 関連記事
-
-
A・B・コックス『プリーストリー氏の問題』(晶文社) 2019/06/21
-
アントニイ・バークリー『服用禁止』(原書房) 2015/01/03
-
アントニイ・バークリー『パニック・パーティ』(原書房) 2010/12/11
-
アントニイ・バークリー『シシリーは消えた』(原書房) 2006/05/10
-
アントニイ・バークリー『絹靴下殺人事件』(晶文社) 2004/05/01
-
アントニイ・バークリー『ロジャー・シェリンガムとヴェインの謎』(晶文社) 2004/01/20
-
アントニイ・バークリー『ウィッチフォード毒殺事件』(晶文社) 2003/04/10
-
アントニイ・バークリー『レイトン・コートの謎』(国書刊行会) 2002/11/20
-
フランシス・アイルズ『被告の女性に関しては』(晶文社) 2002/07/02
-
チルネコさん
『パニック・パーティ』は本格として読めば確かにアレな作品ですが、設定の奇抜さや心理描写など、小説としては十分楽しめると思いますよ。
それにしても、バークリーの未読がまだまだあるというのは、ある意味うらやましいかぎりです。
Posted at 18:56 on 12 14, 2010 by sugata