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 久々に光文社文庫の「松本清張短編全集」から一冊、第8巻の『遠くからの声』を読む。まずは収録作から。

「遠くからの声」
「カルネアデスの舟板」
「左の腕」
「いびき」
「一年半待て」
「写楽」
「秀頼走路」
「恐喝者」

 松本清張短編全集08遠くからの声

 昨年の二月頃「松本清張短編全集」に手をつけ、もう一年半以上にわたってちんたらと読み進めているわけだが、とにかく驚くべきはそのアベレージの高さだ。構成的にバランスの悪いものもないではないが、いわゆる駄作というものがほとんどない。第8巻の本書では、主に昭和29~33年にかけて書かれた短編を収録しており、デビューから八年ほど経った計算だが、これだけ安定したレベルで書き続けているというのは驚異としかいいようがない。
 しかも、その間、テーマがぶれることがないのも素晴らしい。社会派ミステリから歴史物、心理小説的なものまで、清張の書く物は一見すると幅広い。だが表面的には多彩でも、その根底に流れているものは常に一貫している。それは社会の矛盾や闇によって翻弄される人の運命であり、滲み出る情念である。

 本書でも時代やジャンルはバラバラながら、追い求めるところはそこに尽きる。出来映えも申し分なく、粒揃いの作品集といえるだろうが、しいて優劣をつけるなら、まずは「カルネアデスの舟板」を推したい。学問の世界に生きる者ならではの屈折した心理が妙味。
 「一年半待て」は一事不再理がテーマながら、その根底にあるのは、やはり女性の心の奥底にある闇である。その闇の淵から社会制度を冷ややかに見返すような皮肉さも効いている。
 時代物もいい。「左の腕」は珍しく爽快感抜群の一篇。逆に「写楽」はあまりに切ない物語。
 ちょっとアレ?だったのが、表題作の「遠くからの声」。姉妹と、姉の夫による三角関係を想起させる辺りまではじわじわくるが、ラストで夫の視点に転ぶのがちょっと? 傑作の誉れ高い作品だが、個人的にはピンとこなかった。

 総じて爆発力みたいなものには少し欠けるが、まずは十分な面白さである。7巻の『鬼畜』があまりに凄すぎたので少し心配だったのだが、それもまったくの杞憂。読んで期待を裏切られることはないだろう。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌



















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