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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


木々高太郎『光とその影/決闘』(講談社大衆文学館)

 先日、松本清張を読んだら、師匠筋の木々高太郎が読みたくなって、大衆文学館の『光とその影/決闘』を引っ張り出してきた。長短、織り交ぜた作品集で、「光とその影」が長篇、それ以外は短篇というラインナップ。優に二冊分はあろうかというボリュームだが質も申し分なく、木々入門書としても最適の一冊。これと創元推理文庫の『日本探偵小説全集7木々高太郎集』があれば、ほぼ傑作は網羅できるか。
 とりあえず本書の収録作は以下のとおり。

「光とその影」
「決闘」
「大浦天主堂」
「死の乳母」
「死固」
「債権」
「恋慕」
「青色鞏膜」
「冬の月光」
「眠られぬ夜の思い」

 光とその影/決闘

 上で”入門書としても最適”などと書いたはいいが、実は長篇「光とその影」だけは、正直しんどかった。自ら提唱した探偵小説芸術論を実証するかのように、本作では人の光と影に踏み込みつつ、正義についての問答なども組み込むなど、文学的なアプローチを企てている。ところが肝心の事件や真相にそれほど魅力がなく、サプライズにも乏しい。ヒロインの心理もいまひとつ共感できず、本作でいちばん乗れなかった。

 それに比べると短篇は佳作ぞろいで、各種アンソロジーに採られている作品も多い。「決闘」はバカミスと紙一重の驚愕のラストが見もの。
 「大浦天主堂」や「債権」「眠られぬ夜の思い」などの大心地先生ものもアベレージ高し。探偵小説としてのバランス的には「ン~」というところもあるのだが、精神分析ネタを上手く絡め、その興味で物語を引っ張ってゆく。
 「死の乳母」は、こんなものも書いていたのかという、驚きのホームズものパスティーシュ。出来はまあまあ(笑)。
 「恋慕」と「青色鞏膜」は恋愛風味の強い探偵小説。個人的には、この二作が本書中のベストを争う。「恋慕」はシンプルながら非常に気合いの入った描写で、ラストでいきなり探偵小説になるのが不思議なほどの力作。「青色鞏膜」はいわゆるエピローグに当たる部分が尋常ではない。構成としては正直破綻していると思うが、木々の目指したところが理解できる作品である。

 ところで「大衆文学館」も久しぶりに読んだが、やっぱりこの叢書は凄い。いろんな形で復刊がなされる現在、思い切って「大衆文学館」を丸ごと復刊してくれる方が手っ取り早くないか、とも思ったり。

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Comments

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ポール・ブリッツ さん

『人生の阿呆』は、まあ、ミステリ読みからすると、そんなに面白くないですよね。小説としてはともかく、ミステリと芸術の融合という点では見事に失敗しているのではないかと(苦笑)。やっぱ木々先生の本領は短篇ではないですかね。

Posted at 15:32 on 01 01, 2011  by sugata

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木々高太郎先生といえば、『人生の阿呆』を読もうと思っては最初の数ページで挫折しているうちに、図書館から本が廃棄処分されてなくなってしまいました。

直木賞受賞作の割にはなんか序盤から退屈でうっとおしいという印象しか得られなかったのですが。

わたしの忍耐が足りないのかなあ。とにかくとほほほ。

Posted at 15:02 on 01 01, 2011  by ポール・ブリッツ

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平山さん

>「大衆文学館」に関係していた編集者さんにきいたことがあるのですが、売れなかったらしいです(苦笑)。

あ、やっぱり(笑)。それほど古い本でもないと思うのですが、まだ当時は国産ものの復刊とかが一般的に注目される時代ではなかったんでしょうね。ま、今でも一般的ではないでしょうけれど。
いま論創社がなんとか軌道に乗せていることを思うと、十年早すぎたというのはもちろんありますが、商品設定に無理があった気はします。

Posted at 09:48 on 12 31, 2010  by sugata

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「大衆文学館」に関係していた編集者さんにきいたことがあるのですが、売れなかったらしいです(苦笑)。本当にいいラインナップだとは思うのですが、どうしてなんでしょうかね。一方であんな小説が五十万部とか百万部とか……。イヤになってしまいます。
どうぞよいお年を。

Posted at 09:33 on 12 31, 2010  by 平山

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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