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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


大阪圭吉『大阪圭吉探偵小説選』(論創ミステリ叢書)

 少々遅くなりましたが、新年明けましておめでとうございます。本年も『探偵小説三昧』、よろしくお引き立てのほどお願いいたします。


 大晦日の夜から読み始めた今年最初の読了本は、論創ミステリ叢書から『大阪圭吉探偵小説選』。
 大阪圭吉といえば、戦前では珍しい本格探偵小説の書き手である。近年の復刻ブームのおかげで大きく再評価され、いまや古書店やオークションなどでは目の玉が飛び出るぐらいの高値で取引されるほどだ(そもそも滅多に市場には出ないけれど)。とはいえ、今ではその代表的作品は、国書刊行会や創元推理文庫などでほぼ読むことができる。
 ただし、だからといってその全貌が知られているかというと、実はまったくそんなことはない。というのも、これまで紹介された作品のほとんどが本格探偵小説。だが大阪圭吉には、戦時中に書き始めた「防諜小説」(今でいうスパイ小説)の書き手という一面もあるのだ。『大阪圭吉探偵小説選』はその方面の業績をまとめた一冊である。

 大阪圭吉探偵小説選

「東京第五部隊」
「金髪美容師」
「赤いスケート服の娘」
「仮面の親日」
「疑問のS」
「街の潜水夫」
「紅毛特急車」
「空中の散歩者」
「海底諜報局」
「間諜満洲にあり」
「百万人の正宗」

 収録作は以上。国民防諜会の会長兼探偵を務める横川禎介を主人公とするシリーズで、「海底諜報局」のみ長編という構成。ボリューム的には二冊分はあろうかというお得版である。実際、これらを古書で読もうと思ったらン十万はかかるはずなので、論創社には感謝感謝である。

 ま、それはさておき。
 肝心の中身だが、ほとんど期待していなかっただけに、これは十分楽しめた。
 確かに本格では傑作を残している大阪圭吉だが、戦時中に探偵小説が規制を受け、やむなく書き始めた防諜小説。国威高揚という強制的メッセージを第一義とする物語に何の期待が持てようか。同じ道に進んだ海野十三という作家もいるが、あちらはSFという得意技があっただけにまだ馴染みやすいジャンルだったはず。一方の大阪圭吉はほぼ本格一辺倒。防諜小説というジャンルを自分のものにしていたと考える方がおかしい。

 ところが大阪圭吉は、思った以上にこのハードルをうまく越えていた。
 日常に垣間見える奇妙な出来事や事件、そこに潜む敵国の謀略を暴き出す手口はなかなか堂に入ったものである。プロットがややパターン化しすぎている嫌いはあるが、非常に冒険小説的で、語り口も軽妙。何よりプロパガンダ臭が思った以上に抑えられているのは好感度大である。
 これは想像だが、おそらく当時既に翻訳されていたホームズもの、あるいは乱歩の少年探偵団ものなどの作風は、けっこう意識されていたのではないだろうか。個人的にはそれぐらいノリの近さを感じた。特に導入部の謎には毎回工夫を凝らしていて、「海底諜報局」の怪奇性などは実に見事だ。

 もちろん本格作品と同様の質&キレを期待してはいけないし、主人公の横川禎介にもう少し個性が強ければ、といった部分もある。それは割り引いてもらわなければならないけれども、戦前作家がお好みの方なら、やはりこれは必須の一冊といえるのではないだろうか。

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Comments

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M・ケイゾーさん

明けましておめでとうございます。
論創ミステリ、私は積んだままのものが多くて、けっこう初期のもの、山本禾太郎とか戸田巽、山下利三郎あたりもまだです。今年はもう少し意識して消化していきたいものです。

島田一男はいいですね。嫌いじゃないのですが、春陽文庫白背でそこそこ集めたため、いつでも読めるかと思うと逆にほったらかしです。さすがに『古墳~』とか『錦絵~』あたりは読みましたが、事件記者系はほぼ手つかず。こちらも長年の宿題ですね。

どうもいろいろと課題山積のブログではありますが、今年もぼちぼちやっていきますので、よろしくお願いいたします

Posted at 18:02 on 01 08, 2011  by sugata

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 あけましておめでとうございます。

 今年もおじゃまさせていただきます。

 論創ミステリ買ったらすぐ読んでます。通勤電車のポジション確保が大変です。

 大阪圭吉の防諜物。まさか読める金額の時が来るとは以外に緩急があってたのしかったです。

 今年の一冊目は島田一男の時代物。酔っ払った頭でもすいすい読める。島田は職人です。

 今年もよろしくお願いします。

Posted at 14:49 on 01 08, 2011  by M・ケイゾー

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空犬さん

あけましておめでとうございます。
大阪圭吉、いいですよお(笑)。
論創ミステリもほんとにいい叢書なんですが、中身よりもこの判型が最大の敵ですね。通勤にまったく向いてない(泣)。自宅じゃないとなかなか読む気が起きないのが困ったものです。

こちらこそ今年もどうぞ宜しくお願いいたします。

Posted at 00:46 on 01 05, 2011  by sugata

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おめでとうございます

あけましておめでとうございます。

新年最初が、大阪圭吉、いいですねえ(笑)。こちらは、昨年は、探偵関係、離れていたわけではないのですが、いささか手薄だったもので、今年は昨年読み損ねの挽回も含めて、読むぞ、と思っています。論創のシリーズも、ずいぶんたまってしまいましたし(苦笑)。

そんなわけで、今年もどうぞよろしくお願いします。

Posted at 21:14 on 01 04, 2011  by 空犬

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Posted at 00:53 on 01 04, 2011  by

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Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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