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ジェフ・リンジー『デクスター 幼き者への挽歌』(ヴィレッジブックス)
ジェフ・リンジーの『デクスター 幼き者への挽歌』を読む。鑑識技官デクスターを主人公にしたシリーズの第一作。
昨年の暮れ辺りだったか、いくつかのブログやツイッターやでちょくちょく目にする本があって、それがこのシリーズの最新作『デクスター 夜の観察者』であった。本国では既にテレビドラマになるほどの人気シリーズ。日本でもDVDが発売されるくらいの人気はあるらしいのだが、なぜか今までノーチェック。なんせこれまでまったく馴染みのない著者だったし、鑑識技官を主人公にしたサスペンスなど今では掃いて捨てるほどあるわけで、そのときはまったく興味を惹かれなかった。
で、これまで完璧にスルーしていたわけだが、たまたまこれもどこかのサイトで、DVDの「デクスター シーズン4コンプリートBOX」のジャケ写を目にしたとたん俄然興味を惹かれ(ちなみにジャケ写はこんな感じ)、さらに紹介記事を読むと、これがまあ何とも魅力的な設定ではないですか。
デクスター・モーガン。表の顔はマイアミ警察の鑑識技官。人当たりのよい好青年。だが裏の顔は、満月の夜に悪人を狩る闇の仕置人だった――。
なるほど、つまりは必殺仕事人。だが、デクスターは正義の心から悪人を狩るのではない。
自らの殺人衝動を鎮めるために人を殺害してゆくのである。

子供の頃から殺人願望に駆られていたモーガンは、警察官の養父ハリーによってその資質を見抜かれていた。デクスターの将来を案じるハリーは、デクスターが生きていくためのルールを与える。すなわち、
・性格を自分でコントロールし、建設的に利用するすべを学ぶ。
・標的を選ぶなら殺されるにふさわしい者の中から選ぶ。
・確実を期すこと。後始末はきちんとすること。痕跡を残さないこと。
・その際、感情面でののめりこみを避けるよう心がけること。
ハリーを尊敬するデクスターはこの教えを忠実に守り、ここに表と裏の顔を持つ恐るべき怪物が誕生する。
もう、完全に設定勝ち。
表の顔をもつ殺人犯を主人公にしたサイコスリラーが特別目新しいわけではない。悪人が名探偵というパターンすら、トマス・ハリスの創造したレクター博士の例を出すまでもなく、珍しくないだろう。
しかしながら、ここまで徹底的に世界観を練り、ルール化された作品は少ないはず。雰囲気や方向性はまったく違うけれども、企みとしてはロボット三原則を用いたアシモフのロボットシリーズに近いものがあるのではないか。ちょっと強引だけれど、本作はそういうルールや設定がしっかりしているからこそ、突拍子もないホラ話ではなくミステリとして成立するわけだ。
もうひとつ褒めておくと、主人公を「殺人者ながら十分に感情移入できるいわゆる必殺仕事人」にせず、「感情を持たない冷血鬼」として仕上げている点も巧い。爽快感のある復讐譚みたいなものにしがちなところを、あえて血も涙もない殺人鬼。悪人を殺すのは、あくまでハリーの教えだから。
自分の殺人衝動を抑えるのに苦しみつつ世のため人のために頑張る、というのではやはり単純で浅い感じは否めない。この強烈な個性を用意することで、サスペンスは何倍にも膨れあがり、読者はそれでもデクスターを理解しようとより物語に入りこむのである。
弱点もないではない。
デクスターの一人称で語られることもあって、心理描写が非常に多く(ま、これもいろいろな伏線にはなっているのだけれど)、少々読みにくさが目立つ部分もちらほら。さらには、ミステリコード的にはやや反則気味の真相も気にはなる。ま、シリーズが進めばこういうネタもアリだろうけど、一作目としてはどうなんだろう?
とはいえ、それらも作者の山っ気の前にはこの際、目をつむろう。むしろこの衝撃的な一作目のあと、どういうふうな二作目をものにしたのか、そちらがより気になる。今のところ三作目まで邦訳されているようなので、最低でも二作目まではつきあってみよう。
昨年の暮れ辺りだったか、いくつかのブログやツイッターやでちょくちょく目にする本があって、それがこのシリーズの最新作『デクスター 夜の観察者』であった。本国では既にテレビドラマになるほどの人気シリーズ。日本でもDVDが発売されるくらいの人気はあるらしいのだが、なぜか今までノーチェック。なんせこれまでまったく馴染みのない著者だったし、鑑識技官を主人公にしたサスペンスなど今では掃いて捨てるほどあるわけで、そのときはまったく興味を惹かれなかった。
で、これまで完璧にスルーしていたわけだが、たまたまこれもどこかのサイトで、DVDの「デクスター シーズン4コンプリートBOX」のジャケ写を目にしたとたん俄然興味を惹かれ(ちなみにジャケ写はこんな感じ)、さらに紹介記事を読むと、これがまあ何とも魅力的な設定ではないですか。
デクスター・モーガン。表の顔はマイアミ警察の鑑識技官。人当たりのよい好青年。だが裏の顔は、満月の夜に悪人を狩る闇の仕置人だった――。
なるほど、つまりは必殺仕事人。だが、デクスターは正義の心から悪人を狩るのではない。
自らの殺人衝動を鎮めるために人を殺害してゆくのである。

子供の頃から殺人願望に駆られていたモーガンは、警察官の養父ハリーによってその資質を見抜かれていた。デクスターの将来を案じるハリーは、デクスターが生きていくためのルールを与える。すなわち、
・性格を自分でコントロールし、建設的に利用するすべを学ぶ。
・標的を選ぶなら殺されるにふさわしい者の中から選ぶ。
・確実を期すこと。後始末はきちんとすること。痕跡を残さないこと。
・その際、感情面でののめりこみを避けるよう心がけること。
ハリーを尊敬するデクスターはこの教えを忠実に守り、ここに表と裏の顔を持つ恐るべき怪物が誕生する。
もう、完全に設定勝ち。
表の顔をもつ殺人犯を主人公にしたサイコスリラーが特別目新しいわけではない。悪人が名探偵というパターンすら、トマス・ハリスの創造したレクター博士の例を出すまでもなく、珍しくないだろう。
しかしながら、ここまで徹底的に世界観を練り、ルール化された作品は少ないはず。雰囲気や方向性はまったく違うけれども、企みとしてはロボット三原則を用いたアシモフのロボットシリーズに近いものがあるのではないか。ちょっと強引だけれど、本作はそういうルールや設定がしっかりしているからこそ、突拍子もないホラ話ではなくミステリとして成立するわけだ。
もうひとつ褒めておくと、主人公を「殺人者ながら十分に感情移入できるいわゆる必殺仕事人」にせず、「感情を持たない冷血鬼」として仕上げている点も巧い。爽快感のある復讐譚みたいなものにしがちなところを、あえて血も涙もない殺人鬼。悪人を殺すのは、あくまでハリーの教えだから。
自分の殺人衝動を抑えるのに苦しみつつ世のため人のために頑張る、というのではやはり単純で浅い感じは否めない。この強烈な個性を用意することで、サスペンスは何倍にも膨れあがり、読者はそれでもデクスターを理解しようとより物語に入りこむのである。
弱点もないではない。
デクスターの一人称で語られることもあって、心理描写が非常に多く(ま、これもいろいろな伏線にはなっているのだけれど)、少々読みにくさが目立つ部分もちらほら。さらには、ミステリコード的にはやや反則気味の真相も気にはなる。ま、シリーズが進めばこういうネタもアリだろうけど、一作目としてはどうなんだろう?
とはいえ、それらも作者の山っ気の前にはこの際、目をつむろう。むしろこの衝撃的な一作目のあと、どういうふうな二作目をものにしたのか、そちらがより気になる。今のところ三作目まで邦訳されているようなので、最低でも二作目まではつきあってみよう。
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Comments
Edit
このシリーズ、ドラマはスカパーでやっていて、設定に惹かれて見てみたいと思いつつ契約してないチャンネルなので見てないのです。
小説がヴィレッジブックスから出ていたとは知りませんでした。面白そうですね。
Posted at 07:29 on 01 15, 2011 by Sphere
Sphereさん
あ、スカパーではやってるんですね。アマゾンのレビューとか見ると、小説とDVDではなんだか方向性が違っているようなことも書いてあって、けっこうDVDの方も気になってます。
小説、とりあえず一作目は読みどころ満載です。話の種に読んでおいても損はないかと。ややグロですが。
Posted at 19:42 on 01 15, 2011 by sugata