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ハル・ホワイト『ディーン牧師の事件簿』(創元推理文庫)
ハル・ホワイトの『ディーン牧師の事件簿』を読む。不可能犯罪をテーマにした連作短編集である。
ひなびた田舎町を舞台に起こる奇妙な事件の数々。解決に乗り出すは、元牧師のサディアス・ディーンその人だ。八十歳で引退し、愛犬とともに静かな老後を送るはずだったディーンだが、人々が持ち込む不思議な謎に体を休める暇もなく、今日も嬉々として謎の解明に挑んでゆく。

本書を読んですぐ連想したのは、エドワード・D・ホックの創造したサム・ホーソーンものだ。血なまぐさい事件を扱いながらもどこか牧歌的なその語り口は、まさに古き良き時代の探偵小説のスタイル。ホックなきあとのアメリカで、まさかこのようなノスタルジー溢れる本格ミステリが書かれていたとは驚きである。だがそれもそのはず、著者のハル・ホワイトは、もともと密室や不可能犯罪大好きの本格ミステリマニアなのだという。
ただ、不可能犯罪を扱っているとはいうものの、肝心のトリックなどの部分ではいただけない点が目立つ。面白味のない機械的トリックが多用されている点や、その説明がおざなりなこと、あるいは有名トリックの使い回し、わかりやすすぎる伏線などなど、マニアの割には正直アプローチがぬるい。不可能犯罪の先輩ホックに比べれば、明らかに一枚も二枚も下であろう。
一方、探偵役のディーン牧師のキャラクターはそれほど悪くはない。牧師という職業からくる事件への洞察、八十歳という年齢ゆえの心情などが、事件と絡んで差し込まれ、そういう意味ではしみじみ読ませる話も多い。こちらは逆にホックより達者かもしれない。
そんなわけで、雰囲気は悪くないしトータルでは平均点はあげてもいい。ただ、そもそも不可能犯罪をネタにするかぎり、まずそちらに力がないことにはこの先厳しかろう。次作が勝負か。
Prologue「プロローグ」
Murder at an Island Mansion「足跡のない連続殺人」
Murder from the Fourth Floor「四階から消えた狙撃者」
Murder on a Caribbean Cruise「不吉なカリブ海クルーズ」
Murder at the Lord's Table「聖餐式の予告殺人」
Murder in a Sealed Loft「血の気の多い密室」
Murder at the Fall Festival「ガレージ密室の謎」
ひなびた田舎町を舞台に起こる奇妙な事件の数々。解決に乗り出すは、元牧師のサディアス・ディーンその人だ。八十歳で引退し、愛犬とともに静かな老後を送るはずだったディーンだが、人々が持ち込む不思議な謎に体を休める暇もなく、今日も嬉々として謎の解明に挑んでゆく。

本書を読んですぐ連想したのは、エドワード・D・ホックの創造したサム・ホーソーンものだ。血なまぐさい事件を扱いながらもどこか牧歌的なその語り口は、まさに古き良き時代の探偵小説のスタイル。ホックなきあとのアメリカで、まさかこのようなノスタルジー溢れる本格ミステリが書かれていたとは驚きである。だがそれもそのはず、著者のハル・ホワイトは、もともと密室や不可能犯罪大好きの本格ミステリマニアなのだという。
ただ、不可能犯罪を扱っているとはいうものの、肝心のトリックなどの部分ではいただけない点が目立つ。面白味のない機械的トリックが多用されている点や、その説明がおざなりなこと、あるいは有名トリックの使い回し、わかりやすすぎる伏線などなど、マニアの割には正直アプローチがぬるい。不可能犯罪の先輩ホックに比べれば、明らかに一枚も二枚も下であろう。
一方、探偵役のディーン牧師のキャラクターはそれほど悪くはない。牧師という職業からくる事件への洞察、八十歳という年齢ゆえの心情などが、事件と絡んで差し込まれ、そういう意味ではしみじみ読ませる話も多い。こちらは逆にホックより達者かもしれない。
そんなわけで、雰囲気は悪くないしトータルでは平均点はあげてもいい。ただ、そもそも不可能犯罪をネタにするかぎり、まずそちらに力がないことにはこの先厳しかろう。次作が勝負か。
Prologue「プロローグ」
Murder at an Island Mansion「足跡のない連続殺人」
Murder from the Fourth Floor「四階から消えた狙撃者」
Murder on a Caribbean Cruise「不吉なカリブ海クルーズ」
Murder at the Lord's Table「聖餐式の予告殺人」
Murder in a Sealed Loft「血の気の多い密室」
Murder at the Fall Festival「ガレージ密室の謎」