fc2ブログ
探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


甲賀三郎『妖魔の哄笑』(春陽文庫)

 朝イチで人間ドックへ。いつもの起床時間より三時間も早く起きたうえ、検便、検尿、検痰用のサンプルを採り、身動きできないほどの満員電車に揺られる。病院へ到着する頃には普段より数段ぐったりした状態となり、そのまま検診を受ける羽目になるのだが、本当にこれでいいのか?
 ちなみに昨年は二日間コースだったのだが、あまりに待ち時間が長いので、今年からは日帰りコースにしてもらう。ただ、それでも待ち時間がけっこうあり、一気に甲賀三郎の『妖魔の哄笑』を読んでしまう。

 とにかく凄い小説である。一応、話の筋はある。一度は殺されたと思われた会社社長の行方を追うという縦軸に、黒眼鏡の女や謎の組織が絡むという展開。もともとは新聞に連載された小説をまとめたものだ。
 当時の新聞小説の常というか、読者を飽きさせない工夫として、毎回のようにヤマ場や新たな展開があるのが特徴である。その結果、単行本化したときにはほぼ数ページ毎に山場があるという、ジェフリー・ディーヴァー顔負けのジェットコースターノベルになってしまうことがままある。まあ、それは別にかまわないのだが、ただ残念なのは、複雑になりすぎた物語を成立させるため、どうしてもご都合主義に走ってしまうことだ。「偶然」に起きてしまう重大事の何と多いことか。
 しかしである。ミステリとしては確かに傷が多すぎる『妖魔の哄笑』だが、作中に溢れる熱気というか、テンションの高さは、見逃すにはあまりに惜しい。
 甲賀三郎が活躍した時代、大正から昭和初期にかけては、作家も読者も探偵小説に関しての知識と経験が不足していた時代である。探偵小説という市場そのものが成熟していなかった時代ともいえる。論理的だろうが凄いトリックがあろうが、まず必要だったのはわかりやすい表面的な面白さ。それによって一般読者を探偵小説に振り向かせる必要があったのだ。ある意味それは現代にも通じる真実であり、そういう観点からいえば、『妖魔の哄笑』は、読者のツボを見事に押さえた傑作といえるのかもしれない。
 横溝や乱歩などの代表作ばかりを読んでいると、どうしてもそちらが当時の探偵小説の主流と思ってしまいがちだが、こういった通俗的な作品もまた多かったことは覚えておきたいものである。

関連記事

Comments

« »

02 2024
SUN MON TUE WED THU FRI SAT
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 - -
プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

ツリーカテゴリー