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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


ジョセフィン・テイ『魔性の馬』(小学館)

 所沢で開催されている「彩の国古本まつり」をのぞきにいくも大した収穫なし。セシル・デイ・ルイスの『オタバリの少年探偵たち』を買えたのが唯一の救い。

 読了本はジョセフィン・テイの『魔性の馬』。こんな話。
 広大な牧場を経営するアシュビー家に、自殺したと思われた長男のパトリックが帰ってきた。家督相続予定者だった双子の弟サイモンを初め、困惑する家族や周囲の者たちだったが、次第に彼を受け入れようとする。だが実はパトリックは、従兄弟の売れない役者ロディングが送り込んだ偽物、ブラットだったのだ。
 テイの長編を読むのは『時の娘』『列のなかの男』に続いてこれが三つ目だが、どれも作風が異なるのは本当に驚くばかりだ。本作は偽パトリックの犯罪が成功するのか、はたまたミスを犯して自滅してゆくのか、そのサスペンスで引っ張っていく物語であり、さながらハイスミスの『太陽がいっぱい』を彷彿とさせる。これまで本格の人だと思っていたジョセフィン・テイだが、どうやら予想以上に懐が深く、多彩なテクニックの持ち主らしい。
 ただ、サスペンスや意外性(まあ予測はつくけれども)もいいのだが、本作のミソは、どちらかといえば描写力とか文章の豊かさにある気がする。主人公ブラットの心理描写はもちろんだが、ブラットの目を通して描かれる家族や近所の知人たち、あるいは馬の様子や情景描写なども巧い。綿密に書き込むというタイプではない。さらっと書きながらも、その表現が実に印象的で心に残るのだ。後味の良さもなかなかで、幅広くおすすめできる一冊。

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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