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 河出文庫の『津軽ミステリー傑作選』を読む。このミステリー紀行シリーズも刊行から二十年以上経っているはずだが、相変わらず古書店でよく見かけるのが不思議。そんなに部数が多かったのか? まあ、当時流行のトラベルミステリーだし、確かに人気はあったのだろうけれど。

 津軽ミステリー傑作選

海渡英祐「夏の断点」
草野唯雄「目に見えぬ糸」
夏堀正元「漂着」
斎藤栄 「鬼神の駒」
楠田匡介「湯紋」
赤石宏 「送り絵美人」
高木彬光「白雪姫」

 収録作は以上。
 津軽を舞台にしたトラベルミステリのアンソロジーだから、売りは当然旅情ムード。ただし、それは世間の目をごまかすための仮の姿にすぎない。個人的にはこの微妙なラインナップこそが要注目で、斎藤栄や高木彬光といった売れっ子やビッグネームに混じって、凄まじくマニアックな作家たちが入っているのが楽しい。楠田匡介などはその最たるところだが、赤石宏あたりも初めて読むどころか初めて知った作家である。

 ちなみにこの赤石宏、生まれも育ちも弘前市である。本業は教師だが、その傍ら執筆に励み、地元の新聞連載をはじめ著作も多い。純文学から推理小説、捕物帖、エッセイと守備範囲も広く、余技を超えたレベルのようだ。本書に収録された「送り絵美人」は、ねぷたの絵師を扱うなど地元作家の強みが出た作品で、叙情性も豊かで印象深い。ただ真相の明かし方が説明的になりすぎるというか、とってつけたような感じでもったいない。
 順番が前後するが、海渡英祐「夏の断点」は、テレビのご対面番組用に人探しを行う、通称「探し屋」を主人公にした物語。ハードボイルドタッチながら、本格としても予想以上にしっかりした佳品。
 草野唯雄「目に見えぬ糸」は、必要以上の濡れ場がいかにもこの作家ならではのサービスだが、ミステリとしては貧弱。
 夏堀正元の「漂着」は本書中、唯一のホラー。津軽海峡で釣り船が転覆し、ある村へ漂着した釣り客の体験談である。展開は何となく予想できるが、語りが巧いので十分楽しめる。
 斎藤栄「鬼神の駒」は、賭将棋指しを主人公にした連作の最終話。シリーズ読者ならではの読みどころが多いうえに本格味も薄く、いまひとつ。
 楠田匡介の「湯紋」は大きなトリックをふたつ盛り込んだ作品で、なかなか贅沢。今でこそ光文社文庫の『甦る推理雑誌8「エロティック・ミステリー」傑作選』で読める作品だが、それまでは本書でしか読めなかったわけで、この一作のためだけに本書を買った人も多かったのではないだろうか。
 高木彬光「白雪姫」はけっこう有名だが、トリックはううん(苦笑)。でもトータルでは好きな作品である。

 とうわけで意外に力作も多く、ミステリー紀行シリーズの中でもなかなか悪くない水準ではなかろうか。「夏の断点」「漂着」「湯紋」「白雪姫」あたりは十分な出来で、決して期待を裏切らないはずだ。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌





M・ケイゾーさん

中町信・山村直樹の合作だと『伊豆ミステリー傑作選』ですね。この本は他にも坂口安吾とか川辺豊三、加田伶太郎あたりも入れていて、妙に豪華なラインアップでした。伊豆っぽさとか、もうほとんど関係なし(笑)。

結城昌治と87分署再読中、いいですね。私は恥ずかしながら87分署は五冊ぐらいしか読んでなくて、老後にあらためてイッキ読みしたいなと思っております。
【2011/04/16 18:43】 URL | sugata #8Y4d93Uo[ 編集]

 私は完全に楠田ねらいでした。他の本でも1作くらい珍しいのが入ってました。中町信・山村直樹合作「旅ゆけば」だったかな?

 宮原まだ読んでません。論創はすぐ読んでいたのですが現在、結城昌治と87分署再読中です。
【2011/04/16 18:02】 URL | M・ケイゾー #-[ 編集]















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