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F・W・クロフツ『少年探偵ロビンの冒険』(論創海外ミステリ)
『少年探偵ロビンの冒険』を読む。あのF・W・クロフツ唯一のジュヴナイル作品、というだけでもワクワクするところだが、おまけにフレンチ警視もゲスト出演、しかも初版本の挿絵を完全復刻するというサービスも嬉しい一冊である。
夏休みを利用して、親友ジャックの家で八週間を過ごすことになったロビン。しかも泊まるのはジャックの実家ではなく、ジャックの父、カー氏が働くイングランド南西岸のライマスという港町だ。この町では新しく鉄橋を建設中で、カー氏はその責任者なのである。鉄道マニアのジャックはもとより、初めて訪れるロビンも町がすっかり気に入った様子。しかも工事で働く鉄道技師の中には、あの有名なフレンチ警部の甥っこまでいるというから、探偵マニアのロビンはもう居ても立ってもいられない。
そんな二人がある日、洞窟探検をしているときのこと。秘密の場所にやってきた二人の怪しげな男が、何やら物騒な相談を始めたではないか。それを聞いてしまったロビンとジャックは、自分たちも捜査に協力しようとするが……。

これは恐れ入った。さすがクロフツ、ジュヴナイルだからといって手を抜く様子はまったく見えない。
もちろん子供向けの配慮はそこかしこにある。残酷な描写は控えているし、プロット自体は比較的シンプルに抑え、毒も少ない。
だがミステリ作家としての妥協は一切ない。雰囲気をいやがうえにも盛り上げる地図や見取り図の数々、足跡の型を取る件、脅迫状の解析、犯罪の再構築など、ミステリを楽しむエッセンスは、これでもかというぐらい詰まっている。加えて大人向けではあまり感じられないテンポの良さも心地よい。
本作の良さはこれに留まらない。本作は児童小説としても、実はなかなかの線をいっているのである。
ロビンとジャックの友情や正義感を打ち出すところは、まあ当たり前っちゃ当たり前。それも悪くはないのだが、何がいいって二人を取り巻く大人たちの描き方がいいのである。
特にジャックの父親、カー氏。単に子供たちに優しいとか甘やかすというのではない。子供たちの人格を尊重し、ちゃんと対等に扱ってくれるのがいい。相手が子供だから、ときには諫めることもあるのだが、その理由はしっかり説明するし言い分も聞く。
いや、いいね。このスタンス。お国柄もあろうが、これはおそらくクロフツ自身のスタンスでもあるのだろう。いうなればこのカー氏のセリフひとつひとつが、作者から読者(子供)へのメッセージでもあるのだ。
なお、本書は論創海外ミステリの一冊だが、〈ヴィンテージ・ジュヴナイル〉第一弾という触れ込みで発売された。残念ながら本書から三年経った今も第二弾は出ていないのだが、最近の論創社さんのツイートから察するに、やはり売れ行きは芳しくなかったということか。いったい次は何が準備されていたのだろう。気になるね。
夏休みを利用して、親友ジャックの家で八週間を過ごすことになったロビン。しかも泊まるのはジャックの実家ではなく、ジャックの父、カー氏が働くイングランド南西岸のライマスという港町だ。この町では新しく鉄橋を建設中で、カー氏はその責任者なのである。鉄道マニアのジャックはもとより、初めて訪れるロビンも町がすっかり気に入った様子。しかも工事で働く鉄道技師の中には、あの有名なフレンチ警部の甥っこまでいるというから、探偵マニアのロビンはもう居ても立ってもいられない。
そんな二人がある日、洞窟探検をしているときのこと。秘密の場所にやってきた二人の怪しげな男が、何やら物騒な相談を始めたではないか。それを聞いてしまったロビンとジャックは、自分たちも捜査に協力しようとするが……。

これは恐れ入った。さすがクロフツ、ジュヴナイルだからといって手を抜く様子はまったく見えない。
もちろん子供向けの配慮はそこかしこにある。残酷な描写は控えているし、プロット自体は比較的シンプルに抑え、毒も少ない。
だがミステリ作家としての妥協は一切ない。雰囲気をいやがうえにも盛り上げる地図や見取り図の数々、足跡の型を取る件、脅迫状の解析、犯罪の再構築など、ミステリを楽しむエッセンスは、これでもかというぐらい詰まっている。加えて大人向けではあまり感じられないテンポの良さも心地よい。
本作の良さはこれに留まらない。本作は児童小説としても、実はなかなかの線をいっているのである。
ロビンとジャックの友情や正義感を打ち出すところは、まあ当たり前っちゃ当たり前。それも悪くはないのだが、何がいいって二人を取り巻く大人たちの描き方がいいのである。
特にジャックの父親、カー氏。単に子供たちに優しいとか甘やかすというのではない。子供たちの人格を尊重し、ちゃんと対等に扱ってくれるのがいい。相手が子供だから、ときには諫めることもあるのだが、その理由はしっかり説明するし言い分も聞く。
いや、いいね。このスタンス。お国柄もあろうが、これはおそらくクロフツ自身のスタンスでもあるのだろう。いうなればこのカー氏のセリフひとつひとつが、作者から読者(子供)へのメッセージでもあるのだ。
なお、本書は論創海外ミステリの一冊だが、〈ヴィンテージ・ジュヴナイル〉第一弾という触れ込みで発売された。残念ながら本書から三年経った今も第二弾は出ていないのだが、最近の論創社さんのツイートから察するに、やはり売れ行きは芳しくなかったということか。いったい次は何が準備されていたのだろう。気になるね。
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