- Date: Fri 20 05 2011
- Category: 国内作家 山本周五郎
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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山本周五郎『山本周五郎探偵小説全集3怪奇探偵小説』(作品社)
いやー、これは堪らん。
何が堪らんって『山本周五郎探偵小説全集3怪奇探偵小説』の話なんだけれど、これまで『~1少年探偵・春田龍介』、『~2シャーロック・ホームズ異聞』と読んできて、もう期待をまったく裏切らないこのテンションの高さ。そりゃ現代のミステリに比べればいろいろ問題もあるのだが、戦前にこの圧倒的エネルギーで書かれたジュヴナイル・ミステリに対し、何の文句のつけようがあるというのか。

「南方十字星」
「甦える死骸」
「化け広告人形」
「美人像真ッ二つ」
「骨牌会の惨劇」
「殺人仮装行列」
「謎の紅独楽」
「荒野の怪獣」
「新戦場の怪」
「恐怖のQ」
第3巻『~怪奇探偵小説』の収録作は以上。
基本的には「怪奇探偵小説」という題名そのままの内容と思ってもらっていいのだが、冒頭一発目の中編「南方十字星」だけは戦意高揚冒険活劇といった趣で、怪奇というよりは、むしろ第1巻『~少年探偵・春田龍介』のテイストに近い、っていうか、ほとんどそのまんまだ。
主人公の大河内士郎は春田君に比べて少し年齢高めの十六歳の少年。その分、春田君よりは若干落ち着きのある印象だけれど、それ以外の要素は正に春田シリーズテイスト。波瀾万丈のストーリーに激しいアクション、怪物や謎の兵器といった数々の魅力的ギミックもてんこ盛りで、読む者をまったく飽きさせない。まあ呆れさせることはあるが(笑)。
読みどころ(ツッコミどころともいう)は多々あるけれど、個人的に注目したいのは、電波を送るがごとく電気を放つという、いわば放送電力機という秘密兵器。コレは凄いです。高圧電力を無線で送るから、相手は守る術なく一撃で破壊される。
ただし、送る先には専用のアンテナを設置しなければならないというのがミソ。この受信装置が必要というだけで、荒唐無稽としか思えない秘密兵器がそれなりに科学的説得力を帯びてくる。帯びてきませんかそうですか。
中盤から登場する怪物もいい。海の向こうのスーパーモンスターを臆面もなくキャスティングするという暴挙。しかし、その効果は抜群で、敵味方が大金鉱をめぐって争う冒険活劇ものが、怪物の出現で一気に秘境ものに様変わり。モンスターは単なる味つけというだけでなく、ストーリー上でも重要な役目を担い、ただのパクリでは終わらせないところもさすがである。
ともすると、これだけのギミックをぶちこめば、その他の要素が疎かになりがちなところだが、そこは山本周五郎。少年向けゆえ誇張の度合いも強いし、やや紋切り型ではあるけれど、十分に魅力的な登場人物たちを配し、まったくそつがない。
筆頭はやはり主人公の士郎君。春田君ほどではないが、こちらも文武両道で知恵も勇気も併せ持つ。ただし、頭が切れすぎるのも考えもので、姉が悪漢にさらわれても、まず敵を退治する方が先と断言するところなど、やや冷酷な感がなきにしもあらず。作中の人物ばかりか、読んでるこちらまで思わず「それはさすがに……」となだめたくなるほどである。
その他の短編は、一転してムード重視の怪奇探偵小説。フランケンシュタインや蛇人間、霊魂などをモチーフをとした異常な怪奇事件が巻き起こる、だが実は……といったタイプが中心。ガチガチの本格ではないのだけれど、ミステリの要件は意外にしっかり押さえているので、満足感もそれなりに高い。「南方十字星」のあとだけに気持ち地味な感じは受けるけれど、ミステリの醍醐味とすればこちらの短篇群の方が上だろう。
さすがに戦前の探偵小説が好きなら、という条件はつけざるを得ないけれど、このレベルであれば個人的には十分OK。「南方十字星」の弾けっぷり、怪奇探偵小説のホラームード、異なるタイプがまとめて読めるのも嬉しい一冊である。
何が堪らんって『山本周五郎探偵小説全集3怪奇探偵小説』の話なんだけれど、これまで『~1少年探偵・春田龍介』、『~2シャーロック・ホームズ異聞』と読んできて、もう期待をまったく裏切らないこのテンションの高さ。そりゃ現代のミステリに比べればいろいろ問題もあるのだが、戦前にこの圧倒的エネルギーで書かれたジュヴナイル・ミステリに対し、何の文句のつけようがあるというのか。

「南方十字星」
「甦える死骸」
「化け広告人形」
「美人像真ッ二つ」
「骨牌会の惨劇」
「殺人仮装行列」
「謎の紅独楽」
「荒野の怪獣」
「新戦場の怪」
「恐怖のQ」
第3巻『~怪奇探偵小説』の収録作は以上。
基本的には「怪奇探偵小説」という題名そのままの内容と思ってもらっていいのだが、冒頭一発目の中編「南方十字星」だけは戦意高揚冒険活劇といった趣で、怪奇というよりは、むしろ第1巻『~少年探偵・春田龍介』のテイストに近い、っていうか、ほとんどそのまんまだ。
主人公の大河内士郎は春田君に比べて少し年齢高めの十六歳の少年。その分、春田君よりは若干落ち着きのある印象だけれど、それ以外の要素は正に春田シリーズテイスト。波瀾万丈のストーリーに激しいアクション、怪物や謎の兵器といった数々の魅力的ギミックもてんこ盛りで、読む者をまったく飽きさせない。まあ呆れさせることはあるが(笑)。
読みどころ(ツッコミどころともいう)は多々あるけれど、個人的に注目したいのは、電波を送るがごとく電気を放つという、いわば放送電力機という秘密兵器。コレは凄いです。高圧電力を無線で送るから、相手は守る術なく一撃で破壊される。
ただし、送る先には専用のアンテナを設置しなければならないというのがミソ。この受信装置が必要というだけで、荒唐無稽としか思えない秘密兵器がそれなりに科学的説得力を帯びてくる。帯びてきませんかそうですか。
中盤から登場する怪物もいい。海の向こうのスーパーモンスターを臆面もなくキャスティングするという暴挙。しかし、その効果は抜群で、敵味方が大金鉱をめぐって争う冒険活劇ものが、怪物の出現で一気に秘境ものに様変わり。モンスターは単なる味つけというだけでなく、ストーリー上でも重要な役目を担い、ただのパクリでは終わらせないところもさすがである。
ともすると、これだけのギミックをぶちこめば、その他の要素が疎かになりがちなところだが、そこは山本周五郎。少年向けゆえ誇張の度合いも強いし、やや紋切り型ではあるけれど、十分に魅力的な登場人物たちを配し、まったくそつがない。
筆頭はやはり主人公の士郎君。春田君ほどではないが、こちらも文武両道で知恵も勇気も併せ持つ。ただし、頭が切れすぎるのも考えもので、姉が悪漢にさらわれても、まず敵を退治する方が先と断言するところなど、やや冷酷な感がなきにしもあらず。作中の人物ばかりか、読んでるこちらまで思わず「それはさすがに……」となだめたくなるほどである。
その他の短編は、一転してムード重視の怪奇探偵小説。フランケンシュタインや蛇人間、霊魂などをモチーフをとした異常な怪奇事件が巻き起こる、だが実は……といったタイプが中心。ガチガチの本格ではないのだけれど、ミステリの要件は意外にしっかり押さえているので、満足感もそれなりに高い。「南方十字星」のあとだけに気持ち地味な感じは受けるけれど、ミステリの醍醐味とすればこちらの短篇群の方が上だろう。
さすがに戦前の探偵小説が好きなら、という条件はつけざるを得ないけれど、このレベルであれば個人的には十分OK。「南方十字星」の弾けっぷり、怪奇探偵小説のホラームード、異なるタイプがまとめて読めるのも嬉しい一冊である。
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そうですね、だいたい同じ頃だと思いますが、『~怪奇探偵小説』に収録されている方がわずかに早かったかもしれません。いま手元に本がないのでちょっと不確かですが、確か『~怪奇探偵小説』の方は戦前、『顎十郎捕物帳』は戦時中だった記憶が。
ちなみに『顎十郎捕物帳』、もちろん私も好きですよ(ただし、新顎十郎は未読です~)。