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 デニス・レヘインの『ムーンライト・マイル』を読む。十二年振りに発表されたパトリック&アンジー・シリーズの最新作にして、なんとこれがシリーズ最終作でもあるという。

 失踪した四歳のアマンダを見つけ出した『愛しきものはすべて去りゆく』の事件から12年。パトリックとアンジーは結婚して既に小さな娘もいた。だが将来のためにアンジーが学校へ通っていることもあって生活は楽ではない。パトリックは臨時で働く調査会社で正社員雇用を望むが、過去のやり方と折り合いをつけるのにも苦労していた。
 そんなとき十六歳となったアマンダが再び姿を消したという知らせが入る。果たして十二年前の選択は間違いだったのか。捜索を開始するパトリックの前には不気味なロシア・マフィアの影も迫り……。

ムーンライト・マイル

 最近でこそノンシリーズの『ミスティック・リバー』や『シャッターアイランド』『運命の日』など、テクニカルなものから重厚なものまで非常に幅広い作風を披露しているのだが(しかもルヘイン名義でw)、やはりレヘインの魅力が最大限に発揮されるのはパトリック&アンジー・シリーズではないだろうか。
 基本的なスタイルはハードボイルドなのだが、より探偵自身の生き方にスポットが当てられ、しかもパトリックとアンジーという二つのピースで成立しているところが魅力的だ。精神的にも肉体的にもここまでダメージを負う探偵は少ないと思うのだが、これがパトリックとアンジーの生き様にブレンドされ、見事な化学反応を見せる。

 本作では最終作ということもあり、正にこれまでの総括という様相を呈す。過去の清算、探偵というビジネス、生き方、心身の衰え、家族との絆、新たな門出……探偵がここまで自分の生き方、探偵という職業を総括する物語はそうそうあるまい。私立探偵にとってマイナスの要素でしかない諸々のファクター。だが逆に、それらのファクターは人並みの暮らしには重要なことばかりであり、パトリックとアンジーはその両者の間で揺れ動く。
 そして、それを左右するのがヒロイン、アマンダの存在である。序盤こそ煮え切らない展開が続くが、アマンダが登場するや物語は大きくシフトアップし、あとはラストまで一気に読ませる。

 ただ、この個性的なお嬢さんが際だちすぎており、それがマイナスに左右している面も多々あるのが残念。真相や事件の決着については御都合主義的なところが多いし、アマンダの物語とパトリックとアンジーの物語に温度差がありすぎて上手くシンクロしていない。
 『ミスティック・リバー』や『シャッターアイランド』でも少し感じたことだが、著者はたまに技巧に走りすぎる嫌いがあり、それが世界観にそぐわないといえばわかってもらえるだろうか。
 全体には満足できる一冊ではあるが、アマンダの物語をシリーズ最終作にする必要はなかったのかもしれない。できればアマンダの物語は独立して、別の話にしてもよかったのではないかと思ったぐらいだ。

 最後に、話題になっているシリーズの締め方についてだが、これは全然ありだろう。先述のとおり探偵という生き方の総括として、ひとつの結論をしっかり提示したということがとにかく印象的だった。
 ちなみにハードボイルドでは、スティーヴン・グリーンリーフの描く私立探偵ジョン・マーシャル・タナーものも、シリーズを独特の形で終了させている。ある意味『ムーンライト・マイル』よりも終わらせ方の衝撃度は上なので、興味のある方はぜひどうぞ。ハヤカワミステリで全作が出ております。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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