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 寝る前にぼちぼち読んできた論創ミステリ叢書の『山下利三郎探偵小説選I』をようやく読了する。
 山下利三郎は戦前の探偵作家。アンソロジーで短篇をいくつか読んだことはあるはずだが、ほとんど印象に残っておらず、まとまった形で読むのはもちろん初めてである。まずは収録作。

「誘拐者」
「詩人の愛」
「頭の悪い男」
「君子の眼」
「小野さん」
「夜の呪」
「ある哲学者の死」
「裏口から」
「温古想題」
「第一義」
「藻くづ」
「模人」
「正体」
「規則違反」
「流転」
「素晴しや亮吉」
「愚者の罪」
「仔猫と余六」
「虎狼の街」
「亮吉何をする!」
「朱色の祭壇」
「「地球滅亡前」」

 山下利三郎探偵小説選I

 むむう、これは微妙だ(苦笑)。
 作風は思った以上に幅広く、本格ものからサスペンス、ユーモア、果てはSF風までものにする。だが何というか、ひとつひとつの作品にこれといった個性がなく、要は退屈な作品が多い。とはいえ松本泰あたりに比べるとはるかに探偵小説の体は成しているし、むしろ時代を考えれば頑張っている方だとは思うのだが、正直、何を目指していたのかがよくわからない。

 山下利三郎はかの江戸川乱歩が「二銭銅貨」で「新青年」にデビューしたとき、同時に掲載された日本人作家の一人でもある。本書にも収録されている「頭の悪い男」がその作品で、これはそこそこユーモラスで楽しめる方なのだが、「二銭銅貨」と比べてはさすがに分が悪い。結果的に乱歩の露払いを務めるような恰好になったわけで、利三郎自身はその半年ほど前、1922年に既にデビューを飾っていたわけだから、その心中は面白いはずもなかっただろう。
 不幸なことに、その後も利三郎と乱歩は同じ誌面を飾ることも度々だったらしく、技量の差はますます明らかになる。それが理由だったかどうかはともかく、利三郎はやがてメジャーな舞台からフェードアウトしていく。
 利三郎に対し、乱歩は「あなどりがたい」というコメントも残しているらしいが、これはさすがにリップサービスの類であろう。当時のことだから本格ミステリらしきものを書く作家などほとんどいない。そんななかで利三郎は苦戦しながらもなんとか形にはしていったわけで、乱歩なりのエールだったのかとも想像する次第である。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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