- Date: Thu 03 11 2011
- Category: 海外作家 ブロック(ローレンス)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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ローレンス・ブロック『殺し屋 最後の仕事』(二見文庫)
ジョブズが亡くなったり、北杜夫が亡くなったり、神田古本まつりがあったり、いろいろと思うことの多い今日この頃。ブログに書きたいことも多々あるのだが、仕事が忙しくてちょっとそれどころじゃないという10月ではありました。かろうじてレビューだけは続けている感じ。もう少しの我慢だ>自分
読了本はローレンス・ブロックの『殺し屋 最後の仕事』。殺し屋ケラー・シリーズの最新作にして、おそらく最終作。こんな話。
引退を考えていたケラーはアルと名乗る男から依頼を請け、最後の仕事のためにアイオワ州へやってきた。ところが現地の切手ディーラーの店をのぞいてたところ、たまたまラジオで耳にしたオハイオ州知事暗殺のニュース。やがてテレビニュースで流される指名手配犯の顔写真、それは紛れもなくケラー自身の姿であった。
ビジネスパートナーのドットとも連絡がとれず、ひたすら逃亡生活を続けるケラー。だがある女性をレイプ犯から救ったことで、すべてを失ったはずの彼に一筋の光明が……。

いやあ、満足。この面白さはなんといったらいいのだろう。
ご存じのようにブロックは、私立探偵マット・スカダーを主人公とする重いシリアスなシリーズと、泥棒バーニー・ローデンバーを主人公とするコミカルタッチなシリーズを器用に書き分けている作家である。
そして殺し屋ケラーものは、シリアスさとコミカルさの両要素を含む、あたかも両者の中間のポジションを占めるかのようなスタイルで登場した。ただし単に両者の中間というわけではない。ブロックは作中でその両要素を使い分けるのではなく、きめ細やかに融合させてしまっているのだ。
その結果、ケラー・シリーズ独特の、奇妙でとぼけた味わいが成立する。このシリーズを読むのは、まさにこの味わいに浸りたいからに他ならない。既成ジャンルではなかなか当てはめることすら叶わないブロック・ワールド。無茶を承知で喩えると、あたかもファンタジーのような雰囲気すら漂っているのである。殺し屋を主人公にした小説なのに、罪もない人を平気で殺す主人公なのに、読者はいつしか主人公の人柄に癒され、共感してしまう。
解説で伊坂幸太郎は、ストーリーは物語を先へ進めるためのエンジンであるとし、ケラー・シリーズをエンジンがないグライダーに喩えている。目的地をめざすのが目的ではなく、あっちへフラフラ、こっちへフラフラしながら飛行自体を楽しむのが目的であるという。ううむ、言い得て妙。
本作はそんなグライダーにエンジンを仮積みした作品。なんせ暗殺犯の濡れ衣を着せられての逃走劇である。これ以上はないサスペンスの盛り上がりが期待できるわけだし、シリーズ最大のピンチという感じもするのだが、それなのに結局はいつものまったりケラーに戻ってしまうのがお見事。エンジン仮積みとした所以である。
そんなわけで間違いなくオススメの一冊。
だが本作がシリーズ最終作かもしれないということを考えると、やはり他のシリーズ作をどれか一冊、できれば短編集の『殺し屋』あたりを読んでからにした方が楽しみは大きいだろう。念のため。
読了本はローレンス・ブロックの『殺し屋 最後の仕事』。殺し屋ケラー・シリーズの最新作にして、おそらく最終作。こんな話。
引退を考えていたケラーはアルと名乗る男から依頼を請け、最後の仕事のためにアイオワ州へやってきた。ところが現地の切手ディーラーの店をのぞいてたところ、たまたまラジオで耳にしたオハイオ州知事暗殺のニュース。やがてテレビニュースで流される指名手配犯の顔写真、それは紛れもなくケラー自身の姿であった。
ビジネスパートナーのドットとも連絡がとれず、ひたすら逃亡生活を続けるケラー。だがある女性をレイプ犯から救ったことで、すべてを失ったはずの彼に一筋の光明が……。

いやあ、満足。この面白さはなんといったらいいのだろう。
ご存じのようにブロックは、私立探偵マット・スカダーを主人公とする重いシリアスなシリーズと、泥棒バーニー・ローデンバーを主人公とするコミカルタッチなシリーズを器用に書き分けている作家である。
そして殺し屋ケラーものは、シリアスさとコミカルさの両要素を含む、あたかも両者の中間のポジションを占めるかのようなスタイルで登場した。ただし単に両者の中間というわけではない。ブロックは作中でその両要素を使い分けるのではなく、きめ細やかに融合させてしまっているのだ。
その結果、ケラー・シリーズ独特の、奇妙でとぼけた味わいが成立する。このシリーズを読むのは、まさにこの味わいに浸りたいからに他ならない。既成ジャンルではなかなか当てはめることすら叶わないブロック・ワールド。無茶を承知で喩えると、あたかもファンタジーのような雰囲気すら漂っているのである。殺し屋を主人公にした小説なのに、罪もない人を平気で殺す主人公なのに、読者はいつしか主人公の人柄に癒され、共感してしまう。
解説で伊坂幸太郎は、ストーリーは物語を先へ進めるためのエンジンであるとし、ケラー・シリーズをエンジンがないグライダーに喩えている。目的地をめざすのが目的ではなく、あっちへフラフラ、こっちへフラフラしながら飛行自体を楽しむのが目的であるという。ううむ、言い得て妙。
本作はそんなグライダーにエンジンを仮積みした作品。なんせ暗殺犯の濡れ衣を着せられての逃走劇である。これ以上はないサスペンスの盛り上がりが期待できるわけだし、シリーズ最大のピンチという感じもするのだが、それなのに結局はいつものまったりケラーに戻ってしまうのがお見事。エンジン仮積みとした所以である。
そんなわけで間違いなくオススメの一冊。
だが本作がシリーズ最終作かもしれないということを考えると、やはり他のシリーズ作をどれか一冊、できれば短編集の『殺し屋』あたりを読んでからにした方が楽しみは大きいだろう。念のため。
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