- Date: Fri 30 12 2011
- Category: 海外作家 ディヴァイン(D・M)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
- Response: Comment 2 Trackback 0
D・M・ディヴァイン『三本の緑の小壜』(創元推理文庫)
本格ミステリファンにとって、もはやD・M・ディヴァインはハズレ無しの超優良株。
ド派手な設定やトリックとは無縁だが、ほぼ毎作のように面白い趣向を凝らし、それを支えるためのプロットや世界観が丁寧に作り込まれる。人物や心理描写も実に巧み。こういった小説書きそのものの巧さが、ミステリとしての仕掛けにも貢献するといった案配なのだ。
正直、総合力や全体のバランスでいっても、黄金時代の作家にひけを取らないと思うし、本格ミステリの歴史をひもといてもトップクラスではなかろうか、ま、それぐらい良い作家なのだ。
さて、そんなディヴァインの最新刊が『三本の緑の小壜』。
十七年ぶりの猛暑にさらされるイングランド南西部に位置する町チャルフォード。少女ジャニスは夕刻、友人たちと泳ぎに出かけたが、一人だけ帰ってくることはなかった。やがて彼女の死体がゴルフ場で発見され、容疑者は町の診療所に勤務する医師テリーに絞られる。だが、彼はあるとき崖から転落死してしまい、人々は犯行を苦にしての自殺と噂するようになった。葬儀のためにやってきたテリーの弟マークは、兄の容疑を晴らさんと独自の調査に乗り出すが、その調査を裏付けるかのように、また一人、少女が殺害された……。

本作は少女連続殺人事件というセンセーショナルなネタを扱ってはいるけれど、いわゆるサイコスリラー的なミステリではない。これまでのディヴァインの作品同様スケールは小さく(苦笑)、舞台は概ね町の診療所の家族と関係者に限られているのがミソ。したがってストーリーや設定から犯人を予想するのはそれほど難しくはない。
それでもなおかつ犯人が明かされたとき、あるいはその動機が明らかになったとき、そこには上質のミステリを読んだ満足感が残る。いや、犯人が最初からわかっていたとしても、本書は面白い。それは本作もこれまでの傑作同様、克明な心理描写のうえで成り立っている本格ミステリだからである。
それを最大限に感じさせるのが、一人称の多元視点による語りの妙だろう。
頑固で融通の利かない弟マイク。高い知性と美貌をもちながら壁を作ってしまうマンディ。十三歳の問題児シーリア。
不器用すぎて人と交わるとの苦手な彼らが、それぞれの眼を通して語る事実。それは事件の有り様を客観的に見せるというより、むしろより霧のなかに誘う感じだ。三人の語りによって、読者は騙られる。少々ずるい手ではあるのだが、真相を浮かび上がらせつつ真相を隠す、という独特の面白さ。
また、お約束的ではあるが、三者が事件を通して変わっていくあたりも読ませどころ。こういう一見さん以外に優しいところもディヴァインの魅力のひとつだ。
おそらく今年最後の読了本だろうが、締めくくりに相応しい一冊ではありました。
ド派手な設定やトリックとは無縁だが、ほぼ毎作のように面白い趣向を凝らし、それを支えるためのプロットや世界観が丁寧に作り込まれる。人物や心理描写も実に巧み。こういった小説書きそのものの巧さが、ミステリとしての仕掛けにも貢献するといった案配なのだ。
正直、総合力や全体のバランスでいっても、黄金時代の作家にひけを取らないと思うし、本格ミステリの歴史をひもといてもトップクラスではなかろうか、ま、それぐらい良い作家なのだ。
さて、そんなディヴァインの最新刊が『三本の緑の小壜』。
十七年ぶりの猛暑にさらされるイングランド南西部に位置する町チャルフォード。少女ジャニスは夕刻、友人たちと泳ぎに出かけたが、一人だけ帰ってくることはなかった。やがて彼女の死体がゴルフ場で発見され、容疑者は町の診療所に勤務する医師テリーに絞られる。だが、彼はあるとき崖から転落死してしまい、人々は犯行を苦にしての自殺と噂するようになった。葬儀のためにやってきたテリーの弟マークは、兄の容疑を晴らさんと独自の調査に乗り出すが、その調査を裏付けるかのように、また一人、少女が殺害された……。

本作は少女連続殺人事件というセンセーショナルなネタを扱ってはいるけれど、いわゆるサイコスリラー的なミステリではない。これまでのディヴァインの作品同様スケールは小さく(苦笑)、舞台は概ね町の診療所の家族と関係者に限られているのがミソ。したがってストーリーや設定から犯人を予想するのはそれほど難しくはない。
それでもなおかつ犯人が明かされたとき、あるいはその動機が明らかになったとき、そこには上質のミステリを読んだ満足感が残る。いや、犯人が最初からわかっていたとしても、本書は面白い。それは本作もこれまでの傑作同様、克明な心理描写のうえで成り立っている本格ミステリだからである。
それを最大限に感じさせるのが、一人称の多元視点による語りの妙だろう。
頑固で融通の利かない弟マイク。高い知性と美貌をもちながら壁を作ってしまうマンディ。十三歳の問題児シーリア。
不器用すぎて人と交わるとの苦手な彼らが、それぞれの眼を通して語る事実。それは事件の有り様を客観的に見せるというより、むしろより霧のなかに誘う感じだ。三人の語りによって、読者は騙られる。少々ずるい手ではあるのだが、真相を浮かび上がらせつつ真相を隠す、という独特の面白さ。
また、お約束的ではあるが、三者が事件を通して変わっていくあたりも読ませどころ。こういう一見さん以外に優しいところもディヴァインの魅力のひとつだ。
おそらく今年最後の読了本だろうが、締めくくりに相応しい一冊ではありました。
- 関連記事
-
-
D・M・ディヴァイン『そして医師も死す』(創元推理文庫) 2015/05/06
-
D・M・ディヴァイン『跡形なく沈む』(創元推理文庫) 2013/05/12
-
D・M・ディヴァイン『三本の緑の小壜』(創元推理文庫) 2011/12/30
-
D・M・ディヴァイン『災厄の紳士』(創元推理文庫) 2009/12/06
-
D・M・ディヴァイン『ウォリス家の殺人』(創元推理文庫) 2009/02/28
-
『三本の緑の小壜』はディヴァインの中でもけっこう好きな作品です(まあ、全部好きではあるんですが)。おっしゃるように他の作品に比べるとちょっと落ちるところはあるんですが、語り(騙り)だけで持っていってる点が実に巧いなぁと。
ちょうど『そして医師も死す』を読んだばかりですが、こちらも似たような感じを受けました。