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筒井康隆『ダンシング・ヴァニティ』(新潮社)
筒井康隆の『ダンシング・ヴァニティ』を読む。もう出てから四年ほど経つ本だが、これをなんで今まで読まずにおいていたのか、ちょっと自分を責めたくなるぐらい面白い本であった。

ストーリー的にはそれほど大した筋もない。美術評論家、渡真利が新書でベストセラーを出してから以後の暮らし、家族の様子を追う家族小説といった趣き。だが、これはほんとに大筋にすぎなくて、正直、ストーリーの意味など本書にはまったくない。いや、意味がないというよりは、小説の可能性を試すためのただの道具にすぎないといった方が正確か。
というのも本書は筒井康隆お得意の、マジックリアリズムの技法を駆使した実験的小説なのだ。
具体的にはストーリーのあるパートが作中で繰り返し語られ、それが微妙に変化していくスタイル。
まるで壊れたレコードのように(という喩えが今の若い人にわかるのか?)同じエピソードが語られ、ただ、その度に細部は少しずつずれていく。つまり主人公に起こり得る可能性がある出来事を、パラレルワールドあるいは主人公の深層心理として描き、体験させてくれるのである。初めて筒井作品に接した人なら混乱は必至。古いファンならさしずめ『夢の木坂分岐点』などを思い出したのではなかろうか。
ただ、上でもっともらしくパラレルワールドやら深層心理やらと書いてはみたが、それらの解釈があたっているかどうかは不明だ。メタ小説であることは間違いないが、むしろ管理人が思い出したのは、筒井のこれまでの小説ではなくて、いまプレイ中のテレビゲーム『真かまいたちの夜』なのである。
アドベンチャーゲーム、特に物語の分岐をプレイヤーが選択することで展開が変わり、それを楽しむスタイルのサウンドノベルというこのジャンルのゲームは、まさに筒井が本書でやっていることに他ならない。もともと筒井本人もゲームに対しては理解が深く、通常の小説ではありえない形――物語のやり直しをそのまま現実に移したらどうなるか、ということを試したとしてもまったく不思議ではない。
とりあえず読む人を選ぶ一冊ではあるが、好きな人には徹底的に喜ばれること間違いなし。最初はとっつきが悪いかもしれないが、慣れてしまうとこれは中毒性が高い。
驚くべきは、これを書いた当時の筒井が七十三歳だったということ。いやもちろん七十代でも小説は書けるが、こういう実験小説はそうそう書けんよなぁ。どんだけ意欲的なんだか。まあ、意外にこういう作品の方が本人には楽なのかもしれないけど(笑)。

ストーリー的にはそれほど大した筋もない。美術評論家、渡真利が新書でベストセラーを出してから以後の暮らし、家族の様子を追う家族小説といった趣き。だが、これはほんとに大筋にすぎなくて、正直、ストーリーの意味など本書にはまったくない。いや、意味がないというよりは、小説の可能性を試すためのただの道具にすぎないといった方が正確か。
というのも本書は筒井康隆お得意の、マジックリアリズムの技法を駆使した実験的小説なのだ。
具体的にはストーリーのあるパートが作中で繰り返し語られ、それが微妙に変化していくスタイル。
まるで壊れたレコードのように(という喩えが今の若い人にわかるのか?)同じエピソードが語られ、ただ、その度に細部は少しずつずれていく。つまり主人公に起こり得る可能性がある出来事を、パラレルワールドあるいは主人公の深層心理として描き、体験させてくれるのである。初めて筒井作品に接した人なら混乱は必至。古いファンならさしずめ『夢の木坂分岐点』などを思い出したのではなかろうか。
ただ、上でもっともらしくパラレルワールドやら深層心理やらと書いてはみたが、それらの解釈があたっているかどうかは不明だ。メタ小説であることは間違いないが、むしろ管理人が思い出したのは、筒井のこれまでの小説ではなくて、いまプレイ中のテレビゲーム『真かまいたちの夜』なのである。
アドベンチャーゲーム、特に物語の分岐をプレイヤーが選択することで展開が変わり、それを楽しむスタイルのサウンドノベルというこのジャンルのゲームは、まさに筒井が本書でやっていることに他ならない。もともと筒井本人もゲームに対しては理解が深く、通常の小説ではありえない形――物語のやり直しをそのまま現実に移したらどうなるか、ということを試したとしてもまったく不思議ではない。
とりあえず読む人を選ぶ一冊ではあるが、好きな人には徹底的に喜ばれること間違いなし。最初はとっつきが悪いかもしれないが、慣れてしまうとこれは中毒性が高い。
驚くべきは、これを書いた当時の筒井が七十三歳だったということ。いやもちろん七十代でも小説は書けるが、こういう実験小説はそうそう書けんよなぁ。どんだけ意欲的なんだか。まあ、意外にこういう作品の方が本人には楽なのかもしれないけど(笑)。
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ポール・ブリッツさん
ゲームブックはひと頃ずいぶんと流行りましたねぇ。『13人目の名探偵』も懐かしいです。
ところで筒井康隆の『ダンシング・ヴァニティ』が面白いのは、それらアドベンチャーゲーム形式で語られる際の選択肢すべてを、同じ軸で語っているところです。当たり前の話ですが、ゲームでは選択肢によってそれぞれの異なるストーリーが進みます。筒井はこれをすべてひとつの世界として語るわけで、ここが筒井の腕の見せどころといえるでしょう。
Posted at 18:15 on 01 09, 2012 by sugata