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マイクル・コナリー『真鍮の評決(下)』(講談社文庫)
スポーツや格闘技などでは、なかなか両立しにくいスキルというものがある。すなわち力と技だ。
今ではほとんどの格闘技が体重別の階級制をとっているから、あまり目立たないけれども、プロレスや相撲なんかだと割にわかりやすい。筋肉ムキムキのパワーファイターがいる一方、スピードあるテクニシャンタイプも必ず存在していて、だから”柔よく剛を制す”なんて言葉も生まれたわけだ。また、野球などでもホームランバッターは得てして打率が低かったりするものだが、これもひとつの例といえるだろう。
まれに両スキルを備えた選手もいたりするが、もちろんそんな者は数少ない例外である。

こんな話を書いたのも、マイクル・コナリーの小説を読んでいて、ミステリでも同じことが言えるなぁと感じたからに他ならない。
さすがに”力と技”というわけにはいかないけれども(笑)、ミステリの場合は、トリックやプロットを練りまくって驚かせる技巧タイプと、犯罪や事件を通して社会や人間をじっくり描くタイプに大別でき、この両立がなかなか難しいのではないかということ。もちろんミステリの要素はこれだけじゃないし、いま、ものすごい極論で書いているのでそこは誤解のないように。
ビールのCMにもあったな。コクがあるのにキレがある、というやつ。ミステリに置き換えるなら、前者が「キレ」、後者は「コク」といえるかもしれない(例えが古くて申し訳ない)。
ただ、現代のミステリはさすがに進化していて、この二つを両立させる作家は意外に少なくない。個人的には、その筆頭がマイクル・コナリーであり、さらにはトマス・H・クックあたりだろうと考えている。
まだ初期作品の頃、コナリーはボッシュものでどちらかというとコクを、それ以外のシリーズや単発作品ではキレを求めていたように思う。それがいつの間にか境界線が曖昧になり、ここ数作では二つを見事に両立させている感がある。特にボッシュもののレベルの高さは尋常ではない。
ただ、作品や主人公によってはぶれることもないではない。本書『真鍮の評決』でもその加減が若干つかみにくいのである。シリーズ前作の『リンカーン弁護士』ではケレンたっぷりでキレ重視だったものが、本作ではかなり軌道修正されている印象だ。ボッシュとの共演を祭りにしたいのかどうか、読み始めはその辺もつかみにくく、正直、上巻では落としどころがよく見えなかった。
ところがそんな心配はやはり杞憂であった。
リーガルサスペンスとしてはやや薄めだが、ハラーの抱える複数の事件を実に巧く絡めてくる。数々の事件はハラーを描くための材料でもあり、それぞれがメインの事件への伏線にもなってるというこの緻密さ。特に下巻に入ってからの爆弾投下っぷりが凄まじく、こちらの読みをことごとく外してくる。もう巧すぎ。
そして、ラストの「アレ」である。事件とは直接関係ないところでアッと言わせるのはそもそも反則だと思うのだが、まあ一回は許そう(笑)。とにかくこの事実によって今後はシリーズの垣根がより低くなり、シリーズ毎のテイストの差も減るに違いない。それがいいことか悪いことかはともかく、コナリーの作品が完全に新しいステージに入ったことは間違いない。
そうか、最初からこれをやりたかったのかコナリーは(笑)。
今ではほとんどの格闘技が体重別の階級制をとっているから、あまり目立たないけれども、プロレスや相撲なんかだと割にわかりやすい。筋肉ムキムキのパワーファイターがいる一方、スピードあるテクニシャンタイプも必ず存在していて、だから”柔よく剛を制す”なんて言葉も生まれたわけだ。また、野球などでもホームランバッターは得てして打率が低かったりするものだが、これもひとつの例といえるだろう。
まれに両スキルを備えた選手もいたりするが、もちろんそんな者は数少ない例外である。

こんな話を書いたのも、マイクル・コナリーの小説を読んでいて、ミステリでも同じことが言えるなぁと感じたからに他ならない。
さすがに”力と技”というわけにはいかないけれども(笑)、ミステリの場合は、トリックやプロットを練りまくって驚かせる技巧タイプと、犯罪や事件を通して社会や人間をじっくり描くタイプに大別でき、この両立がなかなか難しいのではないかということ。もちろんミステリの要素はこれだけじゃないし、いま、ものすごい極論で書いているのでそこは誤解のないように。
ビールのCMにもあったな。コクがあるのにキレがある、というやつ。ミステリに置き換えるなら、前者が「キレ」、後者は「コク」といえるかもしれない(例えが古くて申し訳ない)。
ただ、現代のミステリはさすがに進化していて、この二つを両立させる作家は意外に少なくない。個人的には、その筆頭がマイクル・コナリーであり、さらにはトマス・H・クックあたりだろうと考えている。
まだ初期作品の頃、コナリーはボッシュものでどちらかというとコクを、それ以外のシリーズや単発作品ではキレを求めていたように思う。それがいつの間にか境界線が曖昧になり、ここ数作では二つを見事に両立させている感がある。特にボッシュもののレベルの高さは尋常ではない。
ただ、作品や主人公によってはぶれることもないではない。本書『真鍮の評決』でもその加減が若干つかみにくいのである。シリーズ前作の『リンカーン弁護士』ではケレンたっぷりでキレ重視だったものが、本作ではかなり軌道修正されている印象だ。ボッシュとの共演を祭りにしたいのかどうか、読み始めはその辺もつかみにくく、正直、上巻では落としどころがよく見えなかった。
ところがそんな心配はやはり杞憂であった。
リーガルサスペンスとしてはやや薄めだが、ハラーの抱える複数の事件を実に巧く絡めてくる。数々の事件はハラーを描くための材料でもあり、それぞれがメインの事件への伏線にもなってるというこの緻密さ。特に下巻に入ってからの爆弾投下っぷりが凄まじく、こちらの読みをことごとく外してくる。もう巧すぎ。
そして、ラストの「アレ」である。事件とは直接関係ないところでアッと言わせるのはそもそも反則だと思うのだが、まあ一回は許そう(笑)。とにかくこの事実によって今後はシリーズの垣根がより低くなり、シリーズ毎のテイストの差も減るに違いない。それがいいことか悪いことかはともかく、コナリーの作品が完全に新しいステージに入ったことは間違いない。
そうか、最初からこれをやりたかったのかコナリーは(笑)。
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semicolon?さん
いやもう「アレ」は読んでからのお楽しみということで。
大抵の人は腰が抜けると思いますよw
Posted at 00:19 on 02 05, 2012 by sugata