- Date: Sat 25 02 2012
- Category: 海外作家 ブルース(レオ)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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レオ・ブルース『死の扉』(創元推理文庫)
長らく創元推理文庫の新刊予定にラインアップされながら一向に出る気配がなかった幻の一冊といえば? そう、言うまでもなくレオ・ブルースの『死の扉』である。昨年の渡辺温と同様、まずは出たことを素直に喜びたい。ある筋から「創元からはもう無理」みたいな話も聞いていたので、いったんは諦めて、とっておきの「現代推理小説全集」版で読もうかと思っていたのだが、いやぁ待ってよかった。そりゃできれば新訳で読みたいものなぁ。
で、待たされるだけ待たされたこの一冊をさっそく読んでみたのだが、これがまた内容も実に素晴らしい。
こんな話。英国はニューミンスターにある小間物屋で殺人事件が発生した。被害者は店主の強欲な老婦人エミリーと、地区をパトロールしていた警官ジャック。二人は折り重なるように店内で倒れており、小さな町は騒然となった。
ここで登場するのが、われらが歴史教師キャロラス・ディーンその人。犯罪研究を趣味とする彼は、教え子に挑発されてまんまと事件の捜査に乗り出すはめになる。さっそく聞き込みを開始したキャロラスは、事件当日、さまざまな人物がエミリーを訪れ、その誰もが動機を持っていたことを突き止める。同時に、その誰もが何かを隠していることにも勘づくのである……。

本書は歴史教師キャロラス・ディーンを探偵役とするシリーズの第一作。
レオ・ブルースの魅力といえば、本格ミステリの伝統を踏まえながらも、微妙にそのコードを外してくる巧さ、とでも言おうか。特にもう一人のシリーズ探偵、ウィリアム・ビーフものにはその傾向が顕著。『三人の名探偵のための事件』とした一連の作品も事件自体はかなり平凡というか地味なのだが、真相にはいつも驚かされる。
本書も事件やストーリーは滅法、地味。もう本当に地味。その辺の本格ミステリを適当に百冊ぐらい集めても、軽くベスト3に入るぐらい地味なのである。導入そのものは警官の殺害シーンから入るため、おおっと思うところもあるのだが、その後はキャロラスが関係者を一人ずつあたっていく場面が延々と続き、レオ・ブルースの本当の面白さを知らない人はここで挫折する可能性も大である。
ただ、ここをしっかり読み込んで、容疑者や関係者の証言をキャロラスとともに追い求めていけば、ラストで至福のひとときが待っている。犯人の意外性はもちろんだが、何より感心するのはその事件の仕組み、そしてそれをどのように解き明かしていったかだ。
特に、関係者のさほど重要とは思えない、だけども明快な説明ができないいくつかの証言。これらに対してキャロラスが食い下がり、やがてそれが事件を構成する重要なピースであることが明らかになる。これこそ本格ミステリの醍醐味でありますよ。派手なトリックとかなくてもいい。ブルースの作品にはロジックや伏線の妙にこそ神髄があるのだ。
ただ、誤解のないように書いておくと、事件やストーリーは地味だと書いたが、決して退屈ではない。
というのもレオ・ブルースの作品ではユーモアもまた欠かせない要素のひとつであるからだ。世間体ばかり気にするくせに実は興味津々の学校長ゴリンジャー、キャロラスを挑発しては常に事件に引っ張り出そうとする悪ガキのルーパート、ミステリマニアの農場主など、個性溢れるキャラクターたちが登場し、キャロラスと英国漫才を繰り広げる。適度にカリカチュアされた登場人物たちのやりとりは、ちょっぴり毒も含みつつ英国らしい上質なくすぐりに満ちあふれている。
ウリとまでは思わないが、このユーモア要素がなけれれば、ずいぶん味気ない物語になる可能性はあっただろう。
ちなみにキャロラス・ディーンのシリーズは全部で二十三作。過去に『ジャックは絞首台に!』『骨と髪』の二冊が出ているから、未訳は二十冊も残っている計算だ。っていうかウィリアム・ビーフものだってまだ四つほど残っているんだよなぁ。
レオ・ブルースは全作紹介されるだけの価値はあるはずなんで、頼むからどこかの版元が名乗りをあげてくれないか。頼むよ。
で、待たされるだけ待たされたこの一冊をさっそく読んでみたのだが、これがまた内容も実に素晴らしい。
こんな話。英国はニューミンスターにある小間物屋で殺人事件が発生した。被害者は店主の強欲な老婦人エミリーと、地区をパトロールしていた警官ジャック。二人は折り重なるように店内で倒れており、小さな町は騒然となった。
ここで登場するのが、われらが歴史教師キャロラス・ディーンその人。犯罪研究を趣味とする彼は、教え子に挑発されてまんまと事件の捜査に乗り出すはめになる。さっそく聞き込みを開始したキャロラスは、事件当日、さまざまな人物がエミリーを訪れ、その誰もが動機を持っていたことを突き止める。同時に、その誰もが何かを隠していることにも勘づくのである……。

本書は歴史教師キャロラス・ディーンを探偵役とするシリーズの第一作。
レオ・ブルースの魅力といえば、本格ミステリの伝統を踏まえながらも、微妙にそのコードを外してくる巧さ、とでも言おうか。特にもう一人のシリーズ探偵、ウィリアム・ビーフものにはその傾向が顕著。『三人の名探偵のための事件』とした一連の作品も事件自体はかなり平凡というか地味なのだが、真相にはいつも驚かされる。
本書も事件やストーリーは滅法、地味。もう本当に地味。その辺の本格ミステリを適当に百冊ぐらい集めても、軽くベスト3に入るぐらい地味なのである。導入そのものは警官の殺害シーンから入るため、おおっと思うところもあるのだが、その後はキャロラスが関係者を一人ずつあたっていく場面が延々と続き、レオ・ブルースの本当の面白さを知らない人はここで挫折する可能性も大である。
ただ、ここをしっかり読み込んで、容疑者や関係者の証言をキャロラスとともに追い求めていけば、ラストで至福のひとときが待っている。犯人の意外性はもちろんだが、何より感心するのはその事件の仕組み、そしてそれをどのように解き明かしていったかだ。
特に、関係者のさほど重要とは思えない、だけども明快な説明ができないいくつかの証言。これらに対してキャロラスが食い下がり、やがてそれが事件を構成する重要なピースであることが明らかになる。これこそ本格ミステリの醍醐味でありますよ。派手なトリックとかなくてもいい。ブルースの作品にはロジックや伏線の妙にこそ神髄があるのだ。
ただ、誤解のないように書いておくと、事件やストーリーは地味だと書いたが、決して退屈ではない。
というのもレオ・ブルースの作品ではユーモアもまた欠かせない要素のひとつであるからだ。世間体ばかり気にするくせに実は興味津々の学校長ゴリンジャー、キャロラスを挑発しては常に事件に引っ張り出そうとする悪ガキのルーパート、ミステリマニアの農場主など、個性溢れるキャラクターたちが登場し、キャロラスと英国漫才を繰り広げる。適度にカリカチュアされた登場人物たちのやりとりは、ちょっぴり毒も含みつつ英国らしい上質なくすぐりに満ちあふれている。
ウリとまでは思わないが、このユーモア要素がなけれれば、ずいぶん味気ない物語になる可能性はあっただろう。
ちなみにキャロラス・ディーンのシリーズは全部で二十三作。過去に『ジャックは絞首台に!』『骨と髪』の二冊が出ているから、未訳は二十冊も残っている計算だ。っていうかウィリアム・ビーフものだってまだ四つほど残っているんだよなぁ。
レオ・ブルースは全作紹介されるだけの価値はあるはずなんで、頼むからどこかの版元が名乗りをあげてくれないか。頼むよ。
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はじめまして。ご丁寧なコメント、どうもありがとうございます。
ミステリ絡みで検索されていらしたのに、記事の半分はモスラだゴジラだといった始末で、なんともお恥ずかしい限りです。
>なお、うちのブログのURLを記述していますが、内容は「深夜アニメ感想ブログ」ですので悪しからず。
ブログ、拝見しましたが、更新頻度、内容ともにすばらしいですね。そもそも深夜アニメを各話毎にレビューしているのが驚きです。とても私には真似できませんが、なんとかマイペースでぼちぼち更新していきますゆえ、今後ともどうぞよろしくお願いします。