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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

フェルディナント・フォン・シーラッハ『罪悪』(東京創元社)

 昨年、『犯罪』で注目を浴び、年末のミステリランキングではどれも上位にくいこんだフェルディナント・フォン・シーラッハ。その彼の第二短編集が早くも登場。本日の読了本は『罪悪』である。

 罪悪

Volksfest「ふるさと祭り」
DNA「遺伝子」
Die Illuminaten「イルミナティ」
Kinder「子どもたち」
Anatomie「解剖学」
Der Andere「間男」
Der Koffer「アタッシュケース」
Verlangen「欲求」
Schnee「雪」
Der Schlüssel「鍵」
Einsam「寂しさ」
Justiz「司法当局」
Ausgleich「清算」
Familie「家族」
Geheimnisse「秘密」

 最初に書いておくと、本書は前作『犯罪』に優るとも劣らない傑作である。もう、相変わらずの凄さ。こんなものを早々に読んでしまっては、今年のランキングがつまらなくなりそうでそれぐらい素晴らしい。

 上でミステリランキングを賑わせた、とは書いてみたけれど、シーラッハの作品はどれも犯罪を扱っているものの、いやゆる一般のミステリとはずいぶん趣が異なる。
 その興味は謎解きやスリル等からは相当離れたところにあって、例えば犯罪が孕んでいる価値であったり、人間が罪を犯すに至ったきっかけであったり、あるいは繰り返し犯罪をおかす人の性(さが)であったり。そういった運命としか言いようのない激流に呑まれてしまった人たちの姿を描いてゆく。
 一応は著者の体験した物語という体をとり、語り手もいるのだが、これまた恐ろしいほど気配を殺した語り手であり、淡々と、そして簡潔に事実を述べていく。逆にこれが物語のもつ悲しさやおかしみを際だたせる効果をもつ。

 本作は『罪悪』というタイトルがついているように、犯罪の中でも「罪」という側面に重きを置いた作品が多い。犯人が捕まらないまま物語が終わるものも珍しくなく、それによって「罪」のもつ意味合いをより考えさせるという結構。
 ただ、著者が作風を確立しすぎたというか、ちょっとわかりやすい内容が増えてしまって、前作のようなどうしようもない不安感を味わえる作品は少し減ったか。そこが物足りないと言えば物足りないけれど、まあ、これで文句をいっては、それこそ罰が当たるか(苦笑)。

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Comments
 
Ksbcさん

いや、これは読むしかないでしょう。内容は重いですけれどサクッと読めるのがまたいいんです(笑)。
テオリンは……考えたら私は『黄昏~』すら買っていない。新作がまた凄そうですから、これもそのうち手を出したいところです。

ところでお仕事大変そうですね。うちは年度末ではないけれど、上半期の総括でやはり予算やら人事やら、似たような感じです。私も三月から本気出しますよ>ほんとか?

 これも買ってるんですけど
こんばんは、これも買ってるんですけど、やっぱりいいわけですね。
テリオンの新作も半分まで読んだところで止まったまま。その他数冊も熟成中のありさまです。
年度末はなにかとばたついて…震災1周年、結婚24年目突入の日でしたが、仕事。
3月を乗り切れば多少時間ができるとは思うのですが。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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