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 福井健太の『本格ミステリ鑑賞術』を読む。東京創元社の『ミステリーズ!』で連載したものに、大幅に加筆改稿した一冊。先に感想を書いておくと、これは実に楽しい評論集であった。

 本格ミステリ鑑賞術

 タイトルからも想像できるように、本書は本格ミステリをより楽しむための鑑賞術を紹介した本である。と書くと、よくあるミステリのガイドブックあたりを連想しがちだが、本書が類書とちょいとばかり異なるのは、論じられるテーマにある。
 例えば密室やアリバイなどトリックの分類であったり、あるいは本格やハードボイルドなどジャンルを語ったものはこれまでにも数多く見られた。これに対し本書では、本格ミステリを本格ミステリたらしめるキーワードをピックアップし、それぞれのテーマや要素について考察していく。具体的には、フェアとアンフェアの境界、伏線の妙、犯人特定のロジック、解決の多層性、真実の苦みと青春ミステリといったものだ。
 「なんだ、よくあるテーマじゃん」というなかれ。本格ミステリ読みならお馴染みのテーマなれども、ではこれまでに、それを真正面から論じた評論がどれだけあったかという話だ。

 例えば「伏線の妙味」という章では古今東西の名作を例に挙げ、作者は伏線をどのように仕掛けたのか、どういう効果があるのかを検証し、それら伏線の重要性はたまた面白さをみっちり検証してくれる。
 今時は伏線なんて本格ミステリに限らず一般的な技法ではある。そのくせミステリの書評等において「伏線が巧い」などと説明はされていても、それがどのように巧いのかは案外触れてなかったりするものだ。そんな作家たちの優れた技術を再認識させてくれるとともに、伏線という技法に着目するだけで、本格ミステリライフがこんなにも豊かになるのだと著者は教えてくれる。本書の魅力は正にそこにある。
 このほか興味深いテーマは目白押し。個人的には「アクロバットの美学」「真実の苦みと青春ミステリ」あたりがとりわけ良かったが、基本的にはどれを読んでもどこから読んでも十分面白い。
 とにかくありそうでなかった本である。

 強いて難をいえば、そして、実はこれがけっこう厳しい部分なのだが、本書はネタバレのオンパレードである。
 さまざまな名作の技法を例に挙げながら解説するスタイルだから、これはやむを得ない。実例なくしてここまで突っこんだ評論はやはり成り立たないだろう。そう、確かにやむを得ないところなのだが、その結果、読者はかなりのリスクを背負うことになる。章の冒頭には必ずネタバレ警報(題名と作家名)が添えられているからある程度の回避は可能だが、叙述トリックの章などは、題名を見た時点で既にネタバレも同然であろう。
 したがって、くれぐれも慎重に、と言うしか他はない。国産では新本格以降、海外ではクラシックの作品が多く採り上げられているので、できればそのあたりの有名作品はある程度さらってからの方が無難。管理人は新本格以降をあまり読まない人間なので、端からあきらめてネタバレでもガンガン読みたおしていったが、中には逆にネタを知ったために読みたくなった作品も出てきたから、なかなか難しいところではある。
 ただ、一般論でいえば、ネタバレという理由で敬遠する人はやはり少なからず出てくるだろうし……ううむ、せっかくの優れた評論集なのにもったいないなぁ。


テーマ:評論集 - ジャンル:本・雑誌





Sphereさん

おお、やはり買っておりましたか。読んでためになる評論は普通にありますが、楽しいと思える評論はあまりないので、これはそういう意味でも貴重な存在でしょう。

ネタバレに関しては悩ましいですね。私の場合、新本格以降にけっこうな未読本があったのですが、逆に開き直ってどんどん読んでいきました。とても人には勧められるやり方ではありませんが(笑)、まあ、本書の面白さが勝ったということなんでしょうか。
【2012/04/06 00:50】 URL | sugata #8Y4d93Uo[ 編集]

先を越された…って別に競争してませんが(^^;
これ、先月本屋で衝動買いしたものの、まさにこれから読もうと思っていた『殺しの双曲線』の真相に触れてます、というネタバレ警報に遭い、中断しています。
たしかにネタバレオンパレードで人には勧めづらい本ですが、ミステリ好きとしてはネタバレなしだと突っ込んだ話はできないというか、痒いところに手が届かない気がするのも事実で、個人的にはよくぞこんな本を書いてくれた、と嬉しいです。
早く『殺しの~』を片付けて続きを読もうと思います。
【2012/04/05 19:31】 URL | Sphere #-[ 編集]















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