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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ミステリー文学資料館/編『名作で読む推理小説史 ペン先の殺意 文芸ミステリー傑作選』(光文社文庫)

 先週に読んだ『文豪怪談傑作選 幸田露伴集 怪談』の余韻を引きずっているせいか、もう少しこの手のものが読みたくなって、『名作で読む推理小説史 ペン先の殺意 文芸ミステリー傑作選』に手を出す。ミステリー文学資料館の編纂によるテーマ別アンソロジー・シリーズの一冊だが、そのものずばりの文芸ミステリー集である。

 名作て#12441;読む推理小説史 ヘ#12442;ン先の殺意 文芸ミステリー傑作選

谷崎潤一郎「柳湯の事件」
芥川龍之介「疑惑」
大岡昇平「お艶殺し」
佐藤春夫「女人焚死」
松本清張「記憶」
坂口安吾「選挙殺人事件」
小沼丹「バルセロナの書盗」
山川方夫「ロンリー・マン」
曾野綾子「競売」
倉橋由美子「警官バラバラ事件」
遠藤周作「憑かれた人」
五木寛之「ヒットラーの遺産」
井上ひさし「鍵」
村上春樹「ゾンビ」

 面子は以上のとおり。ミステリ・プロパーはせいぜいが松本清張ぐらいで、ほぼ文学畑の作家を中心にまとめられている。とはいえ専門分野のみならずミステリや幻想小説などでも実績のある作家がほとんどなので、収録作のアベレージは決して悪くない。ただ、さすがに純粋なミステリは少なく、犯罪や犯罪心理を扱った文学、幻想小説などが多かった。ちなみに既読率もけっこう高くて、半分ぐらいは再読である。

 以下、簡単ながら印象に残った点など。
 まずは谷崎潤一郎「柳湯の事件」、芥川龍之介「疑惑」、佐藤春夫「女人焚死」。このあたりはやはり迫力が違う。もうミステリとして弱いのは仕方がない。それは認める。でもそれを補ってあまりある人間心理への洞察というかアプローチの巧みさが見事。堪えられない。
 犯罪者の心理に加え、動機そのものの面白さという点では坂口安吾「選挙殺人事件」も絶妙。若干、腑に落ちない部分もあるけれど、今読んでもこの発想は捨てがたい。
 小沼丹「バルセロナの書盗」と遠藤周作「憑かれた人」は共に古本ミステリ。本がネタというだけで面白さは50%アップ。
 曾野綾子「競売」と村上春樹「ゾンビ」はショートコントの世界。面白いけれど、いかんせん本書中ではやや物足りなく思えてしまう。
 倉橋由美子の「警官バラバラ事件」はむちゃくちゃいい。っていうか怖い。扱う事件は警官殺しであり、実は夫殺しでもある。犯人の心理と残虐な犯行が、終始、無機質なトーンで語られる。本書中のベスト。
 井上ひさしの「鍵」も予想以上にいい。実は本書中でもっともミステリ的マインドにあふれた作品で、ある大作家の出世作を彷彿とさせるトリックなのだが、それを書簡形式で読ませるという凝りよう。鮮やか。

 最後に蛇の足。
 ミステリ・アンソロジーで村上春樹が収録された本はかなり珍しいんじゃないだろうか。もしかしてこれが初?

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Comments
 
面白半分さん

はじめまして。とはいっても、semicolon?さんのところではちょくちょくお名前を拝見しております。こちらでもどうぞよろしく。

>こういったアンソロジーは
知らなかった作品と出会えるので結構好きです。

私がアンソロジーを読むのもそこが最大の理由です。普段なら読まない作家の魅力を知って、また世界が広がっていきますよね。
本書ではメジャーどころが多いので、そういう新鮮な出会いはありませんでしたが、久々に倉橋作品に触れて、凄さを再確認できました。
 
はじめまして。

殆ど文豪の作品は読んだことなかったのですが
谷崎潤一郎「柳湯の事件」、芥川龍之介「疑惑」、佐藤春夫「女人焚死」
ここらあたりは確かになにかスゴイものを感じました。

こういったアンソロジーは
知らなかった作品と出会えるので結構好きです。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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