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村上春樹『1Q84 BOOK3』(新潮社)
この半年ほど気忙しい日々が続いているせいか、何年かぶりにじんま疹が再発。まだまだ落ち着かないけれど、とりあえずこの三連休で一息つけるのはありがたい。少しはゆっくりして体調を回復しなければ。
先日、読んだ『パイレーツ ー掠奪海域ー』はマイクル・クライトンの遺作という話だったのだが、もうひとつ未完の遺作があったという話はまだ記憶に新しいところ。それを『ホット・ゾーン』で知られるリチャード・プレストンがフィニッシュした『マイクロワールド』がとうとう書店にお目見え。『パイレーツ ー掠奪海域ー』でお終いと思っていただけに、これは思わぬプレゼントである。
で、本日さっそく書店に向かったが、そこで『通信教育探偵ファイロ・ガッブ』が出ているのを見つけ、もちろんこちらも購入。ホームズに憧れて探偵養成通信教育講座を受講した迷探偵の物語。こちらも期待大。
ちなみに論創ミステリ叢書別巻の『怪盗対名探偵初期翻案集』は未だ見つけられず。あと、『守友恒探偵小説選』はいつ出るんだろ?
『BOOK1』と『BOOK2』を読んでから何年たってんだよという話だが、ようやく村上春樹の『1Q84 BOOK3』を読み終える。まあ、あれだけいろんなメディアで採り上げられ、書評が出て、とにかく情報が多すぎであった。映画もそうだけど、予備知識が入りすぎるとかえって気持ちが萎えてしまう。というわけで、しばらく寝かしていたのだが、ご存じのように文庫化がついに始まったので、まあ頃合いかなと。

で、『BOOK3』。正直いうとかなり微妙な読後感である。この一冊だけでもかなりの分量なのだが、著者はその多くを『BOOK1』と『BOOK2』を振り返ることに費やし、ほとんど展開らしい展開はない。青豆は隠遁生活に入り、天吾は意識のない父のもとで時を過ごす。
ただ、そんな彼らの跡を追うものがある。牛河である。カルト集団「さきがけ」の依頼によって青豆の行方を着々と調べ上げてゆくが、本書ではこの牛河の存在が大きくクローズアップされる。立場は異なれど、彼もまた天吾や青豆と同じく〈向こう側の世界=1Q84の世界〉へ入り込んだことを知り、その大きなシステムのなかで翻弄されてゆく。
「微妙」と書いたのは、この牛河の行動によって、『BOOK1』と『BOOK2』で不明瞭だった世界の在りようやシステムがかなり説明されているからだ。
もちろんこれはエンターテインメントではないので、空気さなぎが何かとかリトルピープルが何かとか、直裁的に話すわけではない。とはいえそれなりに怪しげな存在であった牛河を、生い立ちから感情まで明らかにし、迷える仔羊として扱うことで、天吾や青豆ひいてはこの世界の意味をはっきり匂わせる。
1Q84という世界にある「闇」の存在、人が理解できないカルトが抱える本質的な怖ろしさ、ひいてはシステム自体が内包する怖ろしい何か。それを青豆が覚醒することで明らかにし、天吾がその触媒、逆に世界そのものを生む存在となるという構図は悪くない。しかしながら、そういった解説的なストーリー、加えてラストでチャンチャンとやってしまうことで、それらがずいぶん安っぽくなってしまったと感じるのは気のせいだろうか。著者のメッセージを受け止りたいのはやまやまだが、それは鋭い変化球や剛速球であって、ゆるい山なりボールではないのである。
結果、本書は『BOOK1』と『BOOK2』の解説本的な役割を担っているために、カタルシスはそれほど得られない。いや、別にカタルシスは必ずしも必要なわけではないけれど、この長い物語を読まされる方とすれば、それなりの感動はほしいではないか。
ただし物語が完全に終わっているわけではないのも事実。世間で噂されるように、さらなる『BOOK4』があるのかもしれず、それなら『BOOK3』の意義もまた変わってくる可能性はある。
『BOOK3』のラストを踏まえると『BOOK4』はまったく別の世界の物語になるのではないかと思っているのだが、そんな予想を立てつつ本日はこのへんで。
先日、読んだ『パイレーツ ー掠奪海域ー』はマイクル・クライトンの遺作という話だったのだが、もうひとつ未完の遺作があったという話はまだ記憶に新しいところ。それを『ホット・ゾーン』で知られるリチャード・プレストンがフィニッシュした『マイクロワールド』がとうとう書店にお目見え。『パイレーツ ー掠奪海域ー』でお終いと思っていただけに、これは思わぬプレゼントである。
で、本日さっそく書店に向かったが、そこで『通信教育探偵ファイロ・ガッブ』が出ているのを見つけ、もちろんこちらも購入。ホームズに憧れて探偵養成通信教育講座を受講した迷探偵の物語。こちらも期待大。
ちなみに論創ミステリ叢書別巻の『怪盗対名探偵初期翻案集』は未だ見つけられず。あと、『守友恒探偵小説選』はいつ出るんだろ?
『BOOK1』と『BOOK2』を読んでから何年たってんだよという話だが、ようやく村上春樹の『1Q84 BOOK3』を読み終える。まあ、あれだけいろんなメディアで採り上げられ、書評が出て、とにかく情報が多すぎであった。映画もそうだけど、予備知識が入りすぎるとかえって気持ちが萎えてしまう。というわけで、しばらく寝かしていたのだが、ご存じのように文庫化がついに始まったので、まあ頃合いかなと。

で、『BOOK3』。正直いうとかなり微妙な読後感である。この一冊だけでもかなりの分量なのだが、著者はその多くを『BOOK1』と『BOOK2』を振り返ることに費やし、ほとんど展開らしい展開はない。青豆は隠遁生活に入り、天吾は意識のない父のもとで時を過ごす。
ただ、そんな彼らの跡を追うものがある。牛河である。カルト集団「さきがけ」の依頼によって青豆の行方を着々と調べ上げてゆくが、本書ではこの牛河の存在が大きくクローズアップされる。立場は異なれど、彼もまた天吾や青豆と同じく〈向こう側の世界=1Q84の世界〉へ入り込んだことを知り、その大きなシステムのなかで翻弄されてゆく。
「微妙」と書いたのは、この牛河の行動によって、『BOOK1』と『BOOK2』で不明瞭だった世界の在りようやシステムがかなり説明されているからだ。
もちろんこれはエンターテインメントではないので、空気さなぎが何かとかリトルピープルが何かとか、直裁的に話すわけではない。とはいえそれなりに怪しげな存在であった牛河を、生い立ちから感情まで明らかにし、迷える仔羊として扱うことで、天吾や青豆ひいてはこの世界の意味をはっきり匂わせる。
1Q84という世界にある「闇」の存在、人が理解できないカルトが抱える本質的な怖ろしさ、ひいてはシステム自体が内包する怖ろしい何か。それを青豆が覚醒することで明らかにし、天吾がその触媒、逆に世界そのものを生む存在となるという構図は悪くない。しかしながら、そういった解説的なストーリー、加えてラストでチャンチャンとやってしまうことで、それらがずいぶん安っぽくなってしまったと感じるのは気のせいだろうか。著者のメッセージを受け止りたいのはやまやまだが、それは鋭い変化球や剛速球であって、ゆるい山なりボールではないのである。
結果、本書は『BOOK1』と『BOOK2』の解説本的な役割を担っているために、カタルシスはそれほど得られない。いや、別にカタルシスは必ずしも必要なわけではないけれど、この長い物語を読まされる方とすれば、それなりの感動はほしいではないか。
ただし物語が完全に終わっているわけではないのも事実。世間で噂されるように、さらなる『BOOK4』があるのかもしれず、それなら『BOOK3』の意義もまた変わってくる可能性はある。
『BOOK3』のラストを踏まえると『BOOK4』はまったく別の世界の物語になるのではないかと思っているのだが、そんな予想を立てつつ本日はこのへんで。
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少佐さん
牛河がただの人になっちゃった感が強いですね。だからあの結末はきついんじゃないでしょうか。牛河はミステリアスなままでよかった気がするんですが……。
BOOK4はどうでしょうねぇ? がらっと変わるのは予想というより個人的希望でもあるんですが(苦笑)。でも、もういいかな?
Posted at 21:47 on 04 28, 2012 by sugata