- Date: Mon 16 07 2012
- Category: 海外作家 ラーソン(スティーグ)
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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スティーグ・ラーソン『ミレニアム3眠れる女と狂卓の騎士(下)』(ハヤカワ文庫)
スティーグ・ラーソンの『ミレニアム3眠れる女と狂卓の騎士(下)』を読む。これにてミレニアム・シリーズはすべて完了である。

『〜2火と戯れる女』の続編というよりは、『〜2火と戯れる女』が全然終わっていなくてそのまま話が続いている体でスタートしたこの物語。つまりのっけから物語が大きく動いている状態だけに、これまでの作品で感じた前半がややもたつくという弱点は、まったく気にならなかった。むしろ疾走感やテンポの良さという面ではこれまででも最上の部類で、敵味方の虚々実々の駆け引きが堪能できる。
ただ、その駆け引き自体はそれほど凝ったものではなく、安易な方に流れているかなという印象もやや受けるのだが、とりあえずサービス精神はかなりのものだ。リスベットをはじめとするキャラクターの魅力、スウェーデンにはびこる社会問題への提言など、このシリーズの魅力はいくつかあるが、もしかすると最大の持ち味はこのエンタメ性にあるのではないかと思うようになってきた。
本シリーズの最大の魅力はリスベットというキャラクターにあることにはまったく異論がない。ただ、そこだけに目を奪われていると、ラーソンのエンターテインメントに対する意識の高さ、そして、それを具現化するための小説の巧さを見逃してしまいがちだ。
例えば、よくいわれることだが、ミレニアム・シリーズはミステリのジャンルを横断しているという大きな特徴がある。『〜1ドラゴンタトゥーの女』では本格ミステリ、『〜2火と戯れる女』ではサスペンス小説あるいは警察小説、そして本書ではスパイ小説あるいはリーガルミステリという具合。
形だけならその辺のミステリ作家でも可能だろうが、ラーソンはそのすべてを相当な水準で書き上げているのが素晴らしい。それまではミステリプロパーでも何でもなかった彼だが、ミステリを読み込んでいることは疑いようがなく、かなりのプランをもってこの三部作に臨んだことがうかがえる。おそらく彼はこれを狙ってやっていたはずだ。
また、そういう全体の構成を成立させるため、各ジャンルに主人公に相当するキャラクターを配置しているのも巧い手だ。リスベットやミカエルだけでなく公安警察や警察、弁護士などもに光るメンバーを配し、それぞれにしっかりした背景をもたせて事件に絡ませる。若干、冗長になる場面もないではないが、物語がより豊かになる側面は認めざるをえない。
まあ別段、珍しい手ではないのだけれど、それぞれに独自の魅力が生まれ、実に効果的である。もともとスケールの大きい物語ということもあるだろうが、おそらく著者の頭のなかには、将来的なシリーズの派生ということもあったのではないだろうか。
というわけで概ね満足できるシリーズではあったのだが、実をいうと『〜3眠れる女と狂卓の騎士』については娯楽性が強すぎて、個人的には『〜2火と戯れる女』の火傷しそうな熱さ、あるいは『〜1ドラゴンタトゥーの女』での暗さの方が好みだ。『〜3眠れる女と狂卓の騎士』では、本シリーズ最大の弱点「リスベットのハッカー技術による何でもあり」の部分がより際だつのも不満である。とはいえかなりハードルを上げての意見なので、十分楽しめることは保証できる。
リスベットのスーパーウーマンぶりが納得できないとか、スウェーデン人の性意識がルーズすぎて感覚的にだめとか(苦笑)、そういう人以外には諸手を挙げてオススメする次第である。

『〜2火と戯れる女』の続編というよりは、『〜2火と戯れる女』が全然終わっていなくてそのまま話が続いている体でスタートしたこの物語。つまりのっけから物語が大きく動いている状態だけに、これまでの作品で感じた前半がややもたつくという弱点は、まったく気にならなかった。むしろ疾走感やテンポの良さという面ではこれまででも最上の部類で、敵味方の虚々実々の駆け引きが堪能できる。
ただ、その駆け引き自体はそれほど凝ったものではなく、安易な方に流れているかなという印象もやや受けるのだが、とりあえずサービス精神はかなりのものだ。リスベットをはじめとするキャラクターの魅力、スウェーデンにはびこる社会問題への提言など、このシリーズの魅力はいくつかあるが、もしかすると最大の持ち味はこのエンタメ性にあるのではないかと思うようになってきた。
本シリーズの最大の魅力はリスベットというキャラクターにあることにはまったく異論がない。ただ、そこだけに目を奪われていると、ラーソンのエンターテインメントに対する意識の高さ、そして、それを具現化するための小説の巧さを見逃してしまいがちだ。
例えば、よくいわれることだが、ミレニアム・シリーズはミステリのジャンルを横断しているという大きな特徴がある。『〜1ドラゴンタトゥーの女』では本格ミステリ、『〜2火と戯れる女』ではサスペンス小説あるいは警察小説、そして本書ではスパイ小説あるいはリーガルミステリという具合。
形だけならその辺のミステリ作家でも可能だろうが、ラーソンはそのすべてを相当な水準で書き上げているのが素晴らしい。それまではミステリプロパーでも何でもなかった彼だが、ミステリを読み込んでいることは疑いようがなく、かなりのプランをもってこの三部作に臨んだことがうかがえる。おそらく彼はこれを狙ってやっていたはずだ。
また、そういう全体の構成を成立させるため、各ジャンルに主人公に相当するキャラクターを配置しているのも巧い手だ。リスベットやミカエルだけでなく公安警察や警察、弁護士などもに光るメンバーを配し、それぞれにしっかりした背景をもたせて事件に絡ませる。若干、冗長になる場面もないではないが、物語がより豊かになる側面は認めざるをえない。
まあ別段、珍しい手ではないのだけれど、それぞれに独自の魅力が生まれ、実に効果的である。もともとスケールの大きい物語ということもあるだろうが、おそらく著者の頭のなかには、将来的なシリーズの派生ということもあったのではないだろうか。
というわけで概ね満足できるシリーズではあったのだが、実をいうと『〜3眠れる女と狂卓の騎士』については娯楽性が強すぎて、個人的には『〜2火と戯れる女』の火傷しそうな熱さ、あるいは『〜1ドラゴンタトゥーの女』での暗さの方が好みだ。『〜3眠れる女と狂卓の騎士』では、本シリーズ最大の弱点「リスベットのハッカー技術による何でもあり」の部分がより際だつのも不満である。とはいえかなりハードルを上げての意見なので、十分楽しめることは保証できる。
リスベットのスーパーウーマンぶりが納得できないとか、スウェーデン人の性意識がルーズすぎて感覚的にだめとか(苦笑)、そういう人以外には諸手を挙げてオススメする次第である。
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いろいろ気になるところもありますが、基本的には非常にいいシリーズでしたね。
私は読み終えてからしばらく経ちましたが、今思い返すと、やはり印象に残っているのは1になります。
「ミカエルを狂言回しとし、リスベットを語る物語」という構造が一番効果的であり、また、事件そのものももっとも魅力的だったのではないかと。
ではでは、こちらこそ今年もよろしくお願いいたします。