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探偵小説三昧

日々,探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすブログ


鮎川哲也『灰色の動機』(光文社文庫)

 鮎川哲也の『灰色の動機』を読む。
 ノン・シリーズ初期短編を集めたこのシリーズもこれで三冊目だが、もともと落ち穂拾い的な性格が強い作品集だけに、過剰な期待は禁物である。それでも処女作やSFというレアっぷり爆発な作品が採られているだけに、ついつい期待してしまうのは致し方ないところである。以下、収録作。

「人買い伊平治」
「死に急ぐもの」
「蝶を盗んだ女」
「結婚」
「灰色の動機」
「ポロさん」

 灰色の動機

 「人買い伊平治」は、明治時代に東アジアを中心に女衒として活動した村岡伊平治にスポットを当てつつ、本格謎解きを絡めるという一篇。着想はいいがミステリとしてのインパクトは弱く、事件そのものも伊平治と直接絡まないため、物足りなさばかりが残る。
 「死に急ぐもの」は車の転落事故に端を発する殺人事件を追う刑事の物語。トリックはまあまあだが刑事の地道な捜査にアユテツっぽさがあふれていて本書中では比較的読ませる。ただ、真相の部分を突然犯人側の回想にする必要はなかったのではないか。いきなり犯人に同情しろといわれてもなぁ。
 「蝶を盗んだ女」は浮気相手と共に妻殺しを企む男の話。頼りない主人公が、浮気相手と妻に振り回されつつ転落してゆく様はありがちだが、こちらもラストが困りもの。罠にかけられたと知った主人公が、どういうふうにやられたかをいきなり推理しはじめるのだ。この流れが不自然このうえない(笑)。
 「結婚」は実に珍しいSFもの。内容はこの際目をつぶって、マエストロの遊び心に触れるのがよいかと。
 表題作の「灰色の動機」はそこそこのボリュームもあり、ラストのどんでん返しもまずまずで本書中のベスト。
「ポロさん」は処女作ということだが、意外なことに非ミステリー。ただし、ラストで一捻りは入れている。ちょっとO・ヘンリーを思い出したが、切れ味は向こうの方が上だ。

 ううむ、低調(苦笑)。上でも書いたが、やはり落ち穂拾い的な短編集ゆえオススメはしにくい。トリックなどが弱いのは個人的にはそれほど気にならないのだけれど、構成に難があったりするのはかなり辛い。こういうものも書いていたのかという興味ありきになるのは致し方なく、アユテツの熱烈なファンなら、といったところだろう。

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Comments

Edit

M・ケイゾーさん

>私は「死に急ぐもの」は好きな話です.

最後の締め方が違っていたら、私もどちらかというと好きな作品になったと思います。

>あまりつまらなかった印象はないのですが、ファンだからでしょうか?

気分を害されたら申し訳ないです。ただ、鮎川哲也のなかではさすがに落ちるほうかと。まあ面白いつまらないは好みもかなり入りますし、あくまで私の個人的な意見ということで。

Posted at 18:01 on 07 21, 2012  by sugata

Edit

 私は「死に急ぐもの」は好きな話です.
 全作だいぶ昔に読みましたが、だいたい覚えています。
 あまりつまらなかった印象はないのですが、ファンだからでしょうか?
 これも風太郎の次に読みます。

Posted at 17:08 on 07 21, 2012  by M・ケイゾー

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sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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