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金子修介『ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃』
1954年のゴジラ日本襲撃から半世紀あまり。グアム島沖で消息を絶ったアメリカの原潜を救助するため、日本の防衛軍は特殊潜航艇「さつま」を現場に向かわせる。だが、そこで「さつま」の乗務員が見たものは、原潜の残骸と、背びれを青白く光らせて移動する巨大生物であった。
巨大生物は果たしてゴジラなのか。防衛軍で協議が行われるなか、新潟県妙高山のトンネルでは暴走族が赤い怪獣に襲われ、鹿児島県池田湖では大学生たちが繭に包まれた遺体で発見されるという怪事件が続出していた。
BS局のレポーター立花由里は、知り合いの学者から情報を集め、事件の場所が『護国聖獣伝記』に記されている三体の聖獣、婆羅護吽(バラゴン)、最珠羅(モスラ)、魏怒羅(ギドラ)が眠る場所であることに気づく。事実を求めて由里は伝記の著者、伊佐山教授に会うが、伊佐山は「ゴジラは太平洋戦争で死亡した人々の怨念の集合体である」と語る……。

タイトルだけ見ると昭和ゴジラのような感じだが、中身はまったく異なる。これは平成に入ってから撮られたゴジラ映画では最も異色な作品であり、出来そのものも平成以降ではトップクラスのゴジラ映画であると思う。やはり監督でここまで映画は変わるのか。
そもそもミレニアム・シリーズは、昭和や平成の設定をリセットして、作品毎に新たな世界観を設けている。本作でも『ゴジラ』一作目の設定のみ生かし、その他の歴史はなかったことになっているが、とりわけ本作が奮っているのは、モスラやバラゴン、キングギドラを日本を護る聖獣として扱い、伝奇的に話を展開させていることだ。従来のインファント島やら宇宙怪獣やらという設定を忘れろというのは、古いファンにはいささか難しいところではあるのだが、その違和感を差し引いても、この物語世界は悪くない。
独自の設定はゴジラにも及び、上のストーリーでも書いたように、ゴジラは「太平洋戦争で死亡した人々の怨念の集合体」という解釈。管理人的には、自然災害、戦争、核の恐怖など、もはや人智を越えた負の存在のメタファーであればある程度は納得できるところなので、これもまたよし。ただ、ゴジラの出自が核兵器であったことを考えると、今回の「太平洋戦争で死亡した人々」の中にアメリカ兵も混ぜるのは、さすがにいかがなものかという気はする。
ストーリーラインだけではなく、映画の撮り方についても、怖い怪獣映画を意識しているのがよろしい。白目をむいたゴジラ、じわじわと盛り上げる恐怖やショッカー的演出も悪くない。特に前半は物語が伝奇風であり(天本英世の怪演もいい!)、ホラー映画的である。ゴジラ上陸以降も、宿や病院や学校での見せ方、なすすべなく死んでいく人々の描写など、印象的なシーンが多かった。
ただ、人間サイドのドラマがいまいちで、非常にもったいない感じは残る。そもそもドラマ以前の問題として、演技が全般的にひどすぎないか?
ぶっちゃけいうと怪獣映画に出演する役者のなかには、適当に演じているように思える人も少なくない。というか想像力がないんだろうね。子供が見るものだと思って、はなから過剰演技だったりメリハリが効き過ぎていたり。見ているこちらが恥ずかしくなることも多い。
だが今回はそういう話ではなく、単に下手に思えるケースが多くて困った。役者さんの罪というより、これは明らかなミスキャストであろう。
とはいえ今回ばかりはそういう部分に目をつぶり、トータルでは一応、成功作といっておきたい。
東宝特撮映画DVDコレクションも残り三作。ミステリ好きな方々にはスルーされまくりの記事だとは思うが、もう少しおつきあいください(笑)。
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Comments
大人のゴジラ…。
御無沙汰してます!
これは劇場に観に行きました~。
娘が『とっとこハム太郎』のアニメが見たい、と言う理由に便乗して…。
最初、映画が始まった時には、「あ、ゴジラだ~!」と歓声を上げていたちびっ子たちも、瞳の無いゴジラが咆哮した瞬間、し~んとなっちゃって、何だかとても可哀そうでした。
それもそのはず、金子監督は『ハム太郎』と併映と聞かされて気分を害し、子供が見たらトラウマになるぐらいの恐怖を…と、とっても大人げない発想で作ったんですから。
その結果、作品自体は子供はいる余地がない面白いゴジラ作品になったと思ってます。
ゴジラ映画のスタイルを一変した手腕は大したものです。
原点重視のスタイルも、忘れていたゴジラの宿命を思い起こし、見終わった後には、何とも言えないカタルシスがありました。
sugataさんの言う通り、役者さんには不満が残ります。
人間としてはとても好きなんですが、宇崎竜童さんには…。
天本さんや、ゴジラ・フリークの佐野史郎さんには、失礼ながら笑ってしまいました。
特撮シリーズも残りが少なくなって来ましたね。
いつも、プロフェッショナルな文章で楽しませて頂いたので、少し残念ですね。
仁木悦子と言えば、中学時代に読んだ「猫は知っていた」が、今も忘れ難い作品です。
Posted at 23:10 on 08 02, 2012 by ロッカリア
くさのまさん
>たまたまネット検索で発見しまして、2004年ぐらいから20日ぐらいかかってここまで辿り着きました(笑)。
ありがたいお言葉、どうもありがとうございます。少しは楽しんでいただけたのならよろしいのですが。
一応はミステリ専門のブログのつもりで始めたのですが、まさかここまで特撮映画が立派な(?)コンテンツに育つとは思いもよらず、自分でも驚いております(笑)。
ぜひ今後ともよろしくお願いいたします。
Posted at 00:44 on 08 02, 2012 by sugata
はじめまして。
たまたまネット検索で発見しまして、2004年ぐらいから20日ぐらいかかってここまで辿り着きました(笑)。
自分は平成ガメラが好きで、本作も劇場で観ましたが面白かったです。モスラが自ら盾になるシーンは不覚にも感涙(笑)。
ラストは、個人的には被爆した親子が余命僅かながら幸せに暮らす、が良かったのではと思いました。
また書き込みさせて頂くかもしれませんが(ミステリはほぼ本格系、そして探偵小説も好きなのです)、よろしくお願い致します。
Posted at 02:44 on 08 01, 2012 by くさのま
ロッカリアさん
トラウマになるくらいの映画やテレビの方が、感受性を磨くにはよい効果をもたらすのでは、と勝手に考えております。私が子供の頃はけっこう怪談映画をテレビでやっていて、四谷怪談やら牡丹灯籠やら、それはもうびびりまくって観ておりましたw
>特撮シリーズも残りが少なくなって来ましたね。
クラシックな特撮もあらためて攻めてみたいですし、実は007を一度、徹底的にやってみたい気もあります。
Posted at 00:39 on 08 03, 2012 by sugata