- Date: Sun 02 09 2012
- Category: 国内作家 守友恒
- Community: テーマ "推理小説・ミステリー" ジャンル "本・雑誌"
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守友恒『守友恒探偵小説選』(論創ミステリ叢書)
改装なった論創ミステリ叢書の一発目、通巻では51巻目となる『守友恒探偵小説選』を読破。
戦前探偵小説好きでもおいそれとは読めない作家、守友恒。評論などでは、戦前でも珍しい本格派という紹介がされているが、なんせ今読めるのはアンソロジーで短編が一、二作程度というありさま。それがシリーズ探偵、黄木陽平の集成という形をとり、しかも長篇『幻想殺人事件』まで収録というのだから恐れ入る。
毎度書いていることだが、もう出るだけで凄すぎるのである。これを正直、内容がどうとかケチをつけるのはあまりに申しわけない。単発ならともかく、これだけ手間隙かかる作家たちの本を作り続ける苦労、しかも商業ベースに乗せているという見事さ。いや、もしかしたら乗っていないかもしれないが(苦笑)。
そういうわけで買った時点で十分元はとれているのだが、そのうえ読んで面白かったときの幸せといったらないのである(笑)。そして本書はそういう意味で十分幸せな一冊。
収録作は以下のとおり。
■創作篇
「青い服の男」
「死線の花」
「第三の眼」
「最後の烙印」
「燻製シラノ」
「孤島奇談」
「蜘蛛」
「幻想殺人事件」
「灰色の犯罪」
「誰も知らない」
■随筆篇
「たわごと(1)」
「たわごと(2)」
「暦、新らたなれど」
「乙女は羞らう山吹の花」
「アンケート」

上でも書いたが、本書はシリーズ探偵、黄木陽平の活躍を年代順にまとめたもので、その作風は当時珍しい本格ものである。本格だからトリックや論理性に気を配ってはいるのだが、必ずしもそれが主眼ではなく、キャラクターやドラマにこそ味わいが多々感じられる。結果的に論理とドラマのバランスがちょうどよく、意外なほどに近代的というかスマートというか。本人はヴァン・ダインを意識したところも多かったようだが、バランスの良さはむしろ本家を越えているかもしれない。
黄木陽平のアクが少なく、トリックも今では物足りなさを感じるところもあるが、全体的にはアベレージも悪くない。乱歩や正史と比べるのは酷だが、大下宇陀児や甲賀三郎あたりと比較してもまったく遜色ないレベル。正直、これまで紹介が進まなかったのが不思議なほどである。
短編では「死線の花」の叙情性が魅力的でベスト。だが、やはり注目は長篇の「幻想殺人事件」であろう。物理トリックの部分はそれほど面白くもないが、やはり心理的な部分は魅せる。「幻想」が事件にどのような意味合いをもっているのか、ミステリにどっぷり嵌っているほど楽しめる作品といえようか。
戦時下にデビューした守友恒は、戦後もそれほど長く活躍したわけではなかったが、確かな足跡は残した作家である。自ら書かなくなったことで、その足跡が風化してしまったのは実に残念。こうしてあらためて復刻されたからには再評価が進んでほしいと感じた次第である。
戦前探偵小説好きでもおいそれとは読めない作家、守友恒。評論などでは、戦前でも珍しい本格派という紹介がされているが、なんせ今読めるのはアンソロジーで短編が一、二作程度というありさま。それがシリーズ探偵、黄木陽平の集成という形をとり、しかも長篇『幻想殺人事件』まで収録というのだから恐れ入る。
毎度書いていることだが、もう出るだけで凄すぎるのである。これを正直、内容がどうとかケチをつけるのはあまりに申しわけない。単発ならともかく、これだけ手間隙かかる作家たちの本を作り続ける苦労、しかも商業ベースに乗せているという見事さ。いや、もしかしたら乗っていないかもしれないが(苦笑)。
そういうわけで買った時点で十分元はとれているのだが、そのうえ読んで面白かったときの幸せといったらないのである(笑)。そして本書はそういう意味で十分幸せな一冊。
収録作は以下のとおり。
■創作篇
「青い服の男」
「死線の花」
「第三の眼」
「最後の烙印」
「燻製シラノ」
「孤島奇談」
「蜘蛛」
「幻想殺人事件」
「灰色の犯罪」
「誰も知らない」
■随筆篇
「たわごと(1)」
「たわごと(2)」
「暦、新らたなれど」
「乙女は羞らう山吹の花」
「アンケート」

上でも書いたが、本書はシリーズ探偵、黄木陽平の活躍を年代順にまとめたもので、その作風は当時珍しい本格ものである。本格だからトリックや論理性に気を配ってはいるのだが、必ずしもそれが主眼ではなく、キャラクターやドラマにこそ味わいが多々感じられる。結果的に論理とドラマのバランスがちょうどよく、意外なほどに近代的というかスマートというか。本人はヴァン・ダインを意識したところも多かったようだが、バランスの良さはむしろ本家を越えているかもしれない。
黄木陽平のアクが少なく、トリックも今では物足りなさを感じるところもあるが、全体的にはアベレージも悪くない。乱歩や正史と比べるのは酷だが、大下宇陀児や甲賀三郎あたりと比較してもまったく遜色ないレベル。正直、これまで紹介が進まなかったのが不思議なほどである。
短編では「死線の花」の叙情性が魅力的でベスト。だが、やはり注目は長篇の「幻想殺人事件」であろう。物理トリックの部分はそれほど面白くもないが、やはり心理的な部分は魅せる。「幻想」が事件にどのような意味合いをもっているのか、ミステリにどっぷり嵌っているほど楽しめる作品といえようか。
戦時下にデビューした守友恒は、戦後もそれほど長く活躍したわけではなかったが、確かな足跡は残した作家である。自ら書かなくなったことで、その足跡が風化してしまったのは実に残念。こうしてあらためて復刻されたからには再評価が進んでほしいと感じた次第である。
「幻想殺人事件」を待ち焦がれていた人はけっこういたと思うのですが、たぶん、そのほとんどの人が予想と違っていたんじゃないでしょうか(苦笑)。
作者はけっこう直球のつもりで書いていたようにも思うのですが、結果的にはかなりの変化球になっているところが面白いです。
※M・ケイゾーさんのコメントで気がついたのですが、私、「死線の花」を「視線の花」と誤表記してましたね(恥)。修正しておきます。