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 『「宝石」一九五〇 牟家殺人事件』を読む。ミステリの変遷を年代で区切り、その作品から時代を読み解こうというミステリ・クロニクルの第二弾である。まずは収録作。

魔子鬼一「牟家殺人事件」
江戸川乱歩「「抜打座談会」を評す」(評論)
木々高太郎「信天翁通信」(随筆)
宮原龍雄「首吊り道成寺」
岡沢孝雄「四桂」
椿八郎「贋造犯人」
岡田鯱彦「妖奇の鯉魚」

「宝石」一九五〇牟家殺人事件

 文字通り1950年の「宝石」から採られたアンソロジーだが、長篇「牟家殺人事件」をはじめとしてレアどころがずらり。ただ、コンセプト的にはいわゆる「探偵小説芸術論」が置かれているようなのだが、収録作そのものに直接関係のある作品というわけではなく、前作『悪魔黙示録「新青年」一九三八』に比べると、そこが弱いといえば弱い。まあ、珍しい作品が読めるだけでも十分ありがたいのだが、せっかくの企画系アンソロジーなのだからもう少し練ってもよかった気がする。
 以下、各作品のの簡単な感想など。

 魔子鬼一「牟家殺人事件」は長篇ということもあるし、やはり一番の注目作だろう(ちなみに「むうちゃあさつじんじけん」と読みます)。北京の金持ち一家を舞台にした連続殺人を描く作品で、当時の中国の風俗などを知る分には興味深い。だが事件に捜査・推理が追いつかず、本格の体をとっているわりには大事なところが抜けている感じ。
 また、中国の風俗や暮らしはリアルなのだろうが(ただし上流階級)、登場人物の言動がどうにも日本人くさくて気になった。地の文が普通に日本の探偵小説の雰囲気そのままなので、ここはもう少し変化をつけてほしかったところだ。
 なお、文章自体は平易で読みやすいのだけれど、人名地名の類がすべて現地読みなので、とにかく覚えるのに難儀した。巻頭の登場人物リストや初出時だけでなく、毎回ルビを振ってもよかったのではないかなぁ。

 宮原龍雄「首吊り道成寺」は芝居の一座を舞台にした短編で、設定やどろどろした人間模様が面白い。しかし、あまりにページ数が少ないところにネタを詰め込んでいるためか、粗筋を読んでいるのかと思わんばかりの走り方をしており、実にもったいない。これは長篇でじっくり読んでみたかった。

 岡沢孝雄「四桂」は再読。棋士の世界を巧みに落とし込んでおり、出来だけなら本書中でも一番。ただ、これは他のアンソロジーでも読めるから、ありがたみはやや落ちる。

 椿八郎「贋造犯人」は正直好みではないけれど、まあごく軽い読み物なのでそこまで腐す必要もないか(苦笑)。

 岡田鯱彦「妖奇の鯉魚」も再読で、確か扶桑社版『薫大将と匂の宮』で読んだはず。新釈雨月物語の系列の一作で、一風変わった幻想譚だが、オチにミステリ味を効かせていて悪くない。


テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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