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 フリードリヒ・デュレンマットの『失脚/巫女の死 デュレンマット傑作選』を読む。デュレンマットといえばスイスを代表する戯作家であり小説家だが、日本での知名度はいまひとつ。とはいえ、この人はミステリも手掛けたことがあるし、犯罪をテーマにした小説も数多く残している。実際、早川書房からも『嫌疑』や『約束』といった作品が翻訳されているので、古いミステリファンには意外に知られているかもしれない。

 まあ、そんな状況がある中で光文社古典新訳文庫から短編集の『失脚/巫女の死』が出たわけだが、これがなかなか評判がよろしいようなので、手に取ってみた次第。収録作は以下の四編。

Der Tunnel「トンネル」
Die Panne「失脚」
Der Sturz「故障ーまだ可能な物語」
Das Sterben der Pythia「巫女の死」

 失脚-巫女の死

 デュレンマットの作品を読むのは初めてだが、これは確かに面白い。本国では絶大なる人気を誇るというから、もっとオーソドックスでクセのないタイプかと思っていたのだが、いや、これがどうして。
 戯曲も書いているだけあって、どれも一幕物の芝居のような見せ方。特殊な状況の中に主人公を放り込み、翻弄される様子を描きつつ、人間の心理や社会の矛盾、延いては真理を炙り出してゆくという寸法である。その舞台設定がどれもトリッキーだから、普通の小説好きはもちろんミステリ好きにもビビッとくる。とりわけ「奇妙な味」系が好きな人には堪らんな、これは。ただ驚かせるという類の話ではなく、テーマがしっかり見えるのもいい。

 以下、簡単にコメントをば。
 「トンネル」はSFというか不条理ものというか。主人公が利用する列車がトンネルに入るが、なぜかまったく出ることなく底に向かって進んでいく。日常からのズレ、という話はありがちだが、その先に待っているものがなかなか考えさせられる。
 「失脚」は旧ソ連を連想させる国の政治局が舞台。メンバーが集まる中、O大臣だけが姿を見せないことで、各人に失脚や処刑の疑念が広まる。一見、滑稽だが、その底に流れるものは怖ろしい。名前がすべてアルファベット一文字で表記されているところも効果的だ。
 本書中でもっとも気に入ったのが「故障ーまだ可能な物語」。自動車のトラブルで一夜を借りた家。やり手の営業マンは元法曹界の活躍した老人たちに迎えられ、裁判ごっこに誘われる。ミステリ好きなら当然予想してしかるべき結末、だがデュレンマットはいとも簡単にそれを裏切り、より高みへ読者を誘う。これは見事である。
 「巫女の死」はギリシャ神話を題材としたもの。オイディプス王の悲劇に対するデュレンマット流解釈。面白いのだけれどこちらの知識がもう少しあればもっと楽しめたはず。悔しいなぁ。

 ともあれデュレンマットがこんな面白い話を書く人という認識がこれまでなかったわけで、これは不覚である。『約束』ぐらいは買ってあるので早く読まないとなぁ。

テーマ:幻想文学 - ジャンル:本・雑誌




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