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 横溝正史の『迷路荘の怪人』を読む。出版芸術社から「横溝正史探偵小説コレクション」として刊行されている全三巻のシリーズが二巻増えることになり、その第四巻にあたる。

 迷路荘の怪人

 収録作は「旋風劇場」と「迷路荘の怪人」という中篇が二作。
 もちろん新刊とはいっても幻の新作などがあるはずもなく、これは現在、流通している作品『仮面劇場』と『迷路荘の惨劇』の元になった作品である。それぞれ今ではおいそれと読めるようなものではなく、これはこれで十分幻の作品といえるだろう。
 やっかいなのは、いや別にやっかいでもないのだが、これら中篇がそもそもオリジナルを改稿した作品であるということ。「旋風劇場」に至っては改題のみも含めれば、都合四つのバージョンがあるということになる。
 解説によるとこんな感じ。

「仮面劇場」(連載)→「旋風劇場」(加筆改題・単行本化)→「暗闇劇場」(加筆改題・長篇化)→「仮面劇場」(改題)

「迷路荘の怪人」(短篇)→「迷路荘の怪人」(中篇化)→「迷路荘の惨劇」(改題長篇化)

 横溝正史は改稿の多い人で、そういった改稿前のレア作品を集めた本『金田一耕助の新冒険』や『金田一耕助の帰還』もあるくらいだが、本書もその流れを汲む一冊といえる。まさに評論家泣かせ、研究者泣かせ。
 というわけで本来なら原型版や最終版と比べて差異などを検証するのがベストなのだが、とりあえず読めればいい管理人としては、そういう難しいことはやらず素直に感想だけを記すこととす(笑)。まあ、最終版を角川文庫で読んだのはずいぶん前なので、それなりに新鮮。

 まず「旋風劇場」だが、こちらは戦前の作品で探偵役は由利先生となる。まるで棺に見立てたかのようにして流されていた小舟。そこには目、口、耳が不自由な三重苦の美少年の姿。その少年を不憫に思って引き取ったのが災いの始まりだった……という一席。この三重苦の美少年という存在が、いかにも戦前の横溝作品らしく妖しげでよい。一発トリックにストーリー性も豊か、何より雰囲気がいい。
 かたや「迷路荘の怪人」は戦後の作品で金田一もの。こちらもどろどろした人間関係に印象的な殺人現場、旧家の因縁とお膳立てはばっちり。滑車に抜け穴、どんでん返しと、小道具もフル装備で横溝ワールドを満喫できる。ただ、両作品にいえることだが終盤のバタバタした印象がぬぐえず、やはり長篇化は正解だったのだろう。
 あくまでマニア向けの一冊ではあるのだろうが、蘊蓄抜きで読んでも楽しめるのはさすが巨匠の技である。

テーマ:推理小説・ミステリー - ジャンル:本・雑誌




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