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探偵小説三昧

天気がいいから今日は探偵小説でも読もうーーある中年編集者が日々探偵小説を読みまくり、その感想を書き散らかすページ。

 

ジェームズ・マクティーグ『推理作家ポー 最期の5日間』

 ただいま公開中の映画『推理作家ポー 最期の5日間』を観てきた。

 エドガー・アラン・ポーといえばアメリカの偉大なる小説家にして詩人。もちろんミステリファンには世界初の推理小説を書いた作家としても知られているが、恐るべきは彼の残したわずか五作の推理小説に、現在につながる推理小説の手法が山ほど詰め込まれていることだ。例えば探偵役とその友人というスタイル、例えば不可能犯罪と推理による論理的解決、他にも密室や暗号などなど。とりわけ謎の論理的解決を文学的カタルシスにまで昇華させたことは、すべてのミステリファンが感謝すべきであろう。
 ポーは自身の生涯にも謎が多い。特にその最期は、泥酔状態で発見されたことや不可解な言葉を残していたことなど、今も不明な点が多いという。
 そんなポーの亡くなる最期の5日間にスポットを当て、彼の死の謎に迫ったのが、ジェームズ・マクティーグ監督の『推理作家ポー 最期の5日間』である。

 1849年、アメリカはボルティモア。ある静かな夜を女性の叫びが切り裂いた。現場に駆けつけた警官たちが目にしたものは凄惨な殺人現場。母親は絞殺ののち首をかき切られ、娘は煙突の中で逆さづりになって息絶えていた。しかも現場は完全な密室……。だが刑事は窓のバネ仕掛けを発見し、密室からの脱出方法があったことに気づく。
 だが、気づいたのはそれだけではなかった。このトリックも殺害方法も、ある作家の書いた小説と酷似しているのだ。刑事はその作家ポーを呼び出し、捜査に協力を求める。だが、やがて犯人の真の狙いが明らかになり……。

 推理作家ポー最期の5日間

 ジョン・キューザック演じるポーの人物像がどこまでリアルなのかはわからないが、全体の雰囲気は悪くない。当時のアメリカの景観や風俗などはもちろんだが、ポーの描いた小説をいろいろな形で作中に再現しており、その世界観やビジュアルは満足できた。役者さんも実力派が多くてマル。

 惜しむらくは、いや、むしろ致命的といってもよいのだが、ミステリとしてポーの考えたものには遠く及ばないということだろう。
 CMや広告ではミステリファンに対するアピールが凄いけれど、これはかなり誇大広告。謎解き興味はほとんどなく、それどころか、そもそもどの犯罪にも無理がありすぎる。「モルグ街の殺人」を模した最初の事件にしても原作では犯人が●●●●●●●だから成立するのに、それをどうやって本作の犯人は再現できたというのか。
 この最初の事件に限らず、とにかくすべての事件で突っ込みどころが多すぎなのである。雑すぎる上に推理や論理的解明もほぼ皆無という状態で、ミステリ映画でそれはないだろうという感じ。ミステリドラマとしてはテレビの『SHERLOCK(シャーロック)』、ポーを扱ったミステリとしてはルイス・ベイヤードの『陸軍士官学校の死』の方が全然上である。
 真相もかなり残念。上で書いたように雰囲気自体はいいのでラストまでは退屈せずに見れるのだが、真相には何の驚きもカタルシスもない。犯人の意外性、動機、人物像はどこかで見たようなものばかりだし、おまけに深みも感じられない。ポーと犯人の対決シーン、それに続くポーが死にいたるシーン、これらもなんでそういうふうに展開するのか必然性に乏しく、理解に苦しむばかりだ。

 ポーの小説や詩をある程度読み込んだ上でその映像化を楽しみたい、当時のアメリカの空気を感じたいという興味であればOK。ただ、ミステリ映画としてはとてつもなく期待はずれなのでご注意を。

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昨日、テアトルシネマ系の招待券をもらったので本作を見に行くつもりでしたが、レイトショーだけだったため断念しました。
その代わり、銀座で『そして友よ、静かに死ね』を観てきました。ギャングの掟と友情を描いた侠気あふれる作品でした。
かといって下品にならない、いわゆるフランスのフィルム・ノワールというやつでしょうか。
5年ぶりだったと思いますが、久しぶりの映画館での映画鑑賞でしたが、とてもいい映画で楽しめました。
ここでSugataさんのレビューを読んで、勝手ながら『そして友よ、静かに死ね』で良かったのかな…と思いました。

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プロフィール

sugata

Author:sugata
ミステリならなんでも好物。特に翻訳ミステリと国内外問わずクラシック全般。
四半世紀勤めていた書籍・WEB等の制作会社を辞め、2021年よりフリーランスの編集者&ライターとしてぼちぼち活動中。

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